複雑・ファジー小説

Re: 裏切りゲーム ( No.17 )
日時: 2014/05/12 22:15
名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: bG4Eh4U7)

 窓に張り付いたふたつの物体。それは紛れもなく、副弓家の双子だった。両手を密着させるように窓に張り付けて、口は同じ「あんぐり」の口。頬や眉が引き攣っている。服は着替えてはいるが、髪が跳ねている。どう見ても顔は洗ってない。2人は凍り付いていた。

「……っ」

 こんなときに腹の虫が鳴いた。遊依は腹を抑えてしゃがみ込んだ。吊られるように玲もしゃがむ。

「誰だよ……あの野郎」
「知らねえよ!……けど、彼奴、半年前から毎日来てるぜ…?」
「え、ちょ、おま、な、何で知ってんだよ!?」
「毎日ああやってんの、知らなかったか? 確かに俺も、顔は初めて見たけどさ……」

 親し気に話すメイを見て、副弓家の双子は素直に嫉妬した。瞳の炎が燃え盛る兄達に気付かず(無視?)、メイは仲良く学校へと向かった。







「吠ちゃん、お兄ちゃん、そろそろ気付いたっぽいね」
「いや、普通に遅くね?」
「家のお兄ちゃんは大体気づくの遅いから。でも、きっと吠ちゃんの事、男だと思ってるよねー。そしたら吠ちゃん、大変だよ?お兄ちゃん、男の人には五月蝿いから」
「俺、女だからな!まぁ、きっとどーにかなるだろ」
「あはは、出たー『どーにかなるだろ』!」

 電車内で、メイは吠ちゃんこと“匡匪 吠兎”と笑い乍ら話していた。吠兎は、一見男性のようだが、列記とした女である。金髪のショートヘアに碧い猫目、首にはヘッドフォン。何処から見てもイケメンだ。しかし、何度も言うようだが、吠兎は列記とした女である。女であるが、イケメンだ。

「あ、じゃ俺、降りるから」
「うん、有難う、吠ちゃん!」

 吠兎は高校生。メイは中学生なので、道は別々だ。しかし、女子中学生を1人で学校へ行かせるのは不安だと、吠兎は何時着いて来てくれた。メイとは駅がひとつ違うので、此処からはメイは1人だ。

 吠兎と入れ違うようにして、1人の女子高生が入って来た。見て直ぐに、メイの顔は輝いた。

「宮沢先輩っ!」
 宮沢と呼ばれた彼女は、振り向くと静かに微笑んだ。黒色の髪に黒色の瞳。紺の制服を身に纏ったスタイルの良い上品な女子高生だった。

「メイちゃん、久しぶりね」
「はいっ! 覚えて貰えてて嬉しいです。兄達は、いつもどうですか?」
「遊依くんと玲くんの事? 家の時とほぼ一緒だと思うよ?」
「そうですか……」
「……心配なんだ?」
「あ……はい。実はーーー」

 そこまで言いかけた時、不意に電車のドアが開いた。

「あ……私、此処で降りなきゃ……先輩、また今度!」
 手を降って降りて行くメイ。




「変わってないね、メイちゃん。そんなんじゃまた騙されちゃうよーー?」
 “宮沢”はふっと薄笑いした。