複雑・ファジー小説
- Re: 裏切りゲーム ( No.52 )
- 日時: 2014/02/19 19:49
- 名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: J9PmynZN)
- 参照: 今回は短めです!
彼女の声が部屋中に響き渡り、跡に静けさが残る。吠兎は戸惑っていた。急に連れ去られて、ヘッドフォンを盗られ、メイと篠に再会し、拓と結縁に出会い、そして今。何故こうなったのか解らないまま、"ゲーム"を始めると言われても、はいそうですかとは言えない。
「あ、えっとねー あたしは、Ⅶ(せぷてむ)。今回ゲームマスターになりました。宜しく」
Ⅶはにやっと笑って、吠兎を見つめた。
「吠兎さん、"貴方は"初めてだよね? それと、拓さんも。結縁さんは2回目で、篠さんは4回目……だったね」
そう言って参加者ひとりひとりを確認すると、彼女は椅子に座るよう促した。自分もモニターの前の席につくと、指を組んで、篠の方に目を遣った。篠は立つと、先ず御辞儀をした。
「私は、宮沢 篠と言います。えっと、それじゃあ先ず、この"ゲーム"についての説明をしますね」
内容はこうだ。今から指定されたゲームを行う。ゲームの内容はトランプから殺し合いまであるそうで、全部で72種類有るらしい。それらはコンピューターでランダムに決められる。そして、勝った者は1つ願いを叶えられる。
「でも、同時に代償も盗られます。普通は命を盗られることは無いですが、生き返らせたりすると、有り得ます。生き返らせた人の中には5、60年分老けたり、記憶を失ったりする人もいます」
負けた者は、
「必ず、死にます」
- Re: 裏切りゲーム ( No.53 )
- 日時: 2014/03/01 21:37
- 名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: arQenQl7)
———え?
そうとしか返せなかった。
「あ、全員死ぬ訳では無いんですが…… 正確には3人残ります。今回は2人死にますね」
淡々と話す篠。表情が変わらない。
死……ぬ?
「ぅえええええええええええええええええ!!!」
吠兎は飛び上がるように立ち上がると、壁の隅へ後退りした。ガン! と音がするほどの勢いだった。その衝撃でメイが目覚める。
「ん…… く…… ふわぁぁ…… ……え? ば、吠ちゃん? 先輩? あと、…誰? え? えぇえ?」
辺りを見回して、ふらふらと立ち上がる。Ⅶを見ると、はっとしたようで、顔が引き締まった。
「……どういうこと、ですか?」
自分より年下の子供には敬語を使うのを躊躇うらしい。一瞬間をおいてから、ですか、と付け足した。
Ⅶはにやりと微笑う(わらう)と、フードで自分の目を隠し直した。
「メイさんは寝てたし、吠兎さんもいまいち呑み込めてないみたいなので、特別にモニターをご用意しましたぁー」
後ろのモニターを指差して、またあのマイクに何か言うと、指を鳴らした。
モニターに、2人の男女が映し出された。
『…あれ? もしかして今、私達映ってる?』
『あぁ、そうらしいな』
少女はⅦと同い年か、年下くらいだろう。茶髪のボブで、あおい瞳をしていた。いや、青と言うより蒼と言うべきか、藍色に近い、夜の海のような色だった。少年の方は、黒い眼帯が一番に目に入った。その深紅の瞳でこちらを見つめていて、メイは咄嗟に“血”を想像してしまった。真っ赤で、滴り落ちていく、血の雨、血飛沫、忌々しい、あの思い出———。と、払い落とすようにかぶりを振った。
『初めまして。俺は、そうだな、Dr.クロとでも呼んでくれ。』
『は、初めまして。鈴香と申します……』
Dr.クロと鈴香。どちらからも普通ではない雰囲気を醸し出していた。
『で? 何か用か、Ⅶ』
「えっとねー、昔の、1個前のでいいや、ゲームの動画見せてー」
『…それは、参加者に見せちゃいけないんじゃ……?』
「うん、そうなんだけどねぇ、もう1回説明するの面倒だからさー」
『全く、仕方のない奴だな…… まぁ、見せたらいけないって公式で決まってる訳でもないしな』
「ありがとー、クロちゃん♪」
『その呼び方はやめろ。 ———鈴香』
『はい、分かりましたよ……』
そういって、鈴香は黒いタブレットを取り出すと、なにやら操作をして、それからこちらを向いてこう言った。
『今から5秒後に映像が切り替わりますので。それでは!』
……何処の中継リポートだよ。吠兎がそう呟くのをメイは微かに聞き取った。
- Re: 裏切りゲーム ( No.54 )
- 日時: 2014/04/15 23:51
- 名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: bG4Eh4U7)
- 参照: メイsideに戻ります!
『……っ!』
モニターに現れた6人の男女。そのうち2人がアップで映されている。どうやら、チェスをしているようだ。場所は、今居る場所らしい。机は違うが、大きなモニターと白い壁は同じだ。もしかすると、同じような部屋が他にもあるのかもしれない。
メイはチェスのルールは解らないが、かなり危険な状況にあるようだ。白のルークが黒のキングを追い詰めていた。黒の方の少女は拳を握りしめて青い瞳で白の少女——篠を睨み付けた。篠は、変わらないその微笑みで、こう言った。
『……チェックメイト』
黒の少女は小さな体を震わせて、俯いた。腰くらいの黒髪が垂れ下がる。大粒の涙が零れ落ちた。
『……負けました』
そう言うと、黒の少女はかぶりを振って上を向き、手の甲で涙を拭った。
「うーん、これは1番最後の試合だねー。確か、既に2試合終わってたんだっけ、篠さん」
「えぇ、確かこのあとにせーちゃんが「おっと、それ以上は言っちゃいけないよ」……」
Ⅶは手で制すると、立ち上がってこう言った。
「このあとはちょっとグロいんだけど、見たい?」
「うん、お願いするよ」
「……是非」
拓と結縁は頷いた。篠は黙っていたが、なにか気まずそうな顔をしていた。腕を組んで、そっぽを向くと、どうぞ、とだけ呟いた。
『……篠さん、でしたよね』
『えぇ』
『私は…… 最期の試合相手が貴方でよかった。私のこと、忘れないでくださいね。——対戦相手として』
『 ……勿論よ。私は、貴方のためにも——』
握手を交わし、終わりを告げる、ところだった。
『……そんな暇はないよっ!』
後ろに現れたⅦが、少女の肩を掴み、思い切り引っ張って胸を反らせ———
持っていた短剣で、刺した。
『せ、Ⅶさん…… や、め…… て……』
声は届かなかった。Ⅶは剣を抜いた。血が飛び散る。傍にいた篠の制服にも、顔にも飛び散った。篠は、手を下ろした。篠は俯いて、歯を喰い縛った。
「——もう、ここで良いよね。これ以上見ると、流石に吐いちゃうでしょ。ねぇ、メイさん?」
彼女は、にやりと微笑った。
- Re: 裏切りゲーム ( No.55 )
- 日時: 2014/03/05 21:31
- 名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: arQenQl7)
Ⅶが指を鳴らすと、モニターの映像は止まり、黒の少女が大きく目を見開く瞬間が映った。それもやがて消え、画面は元通り黒くなった。
「確かこの後、篠さん含めた3人が願いを叶えたんだよね〜」
彼女はにこにこと笑い、パーカーの裾を翻した(ひるがえした)。気がふれている。狂っている。さっきまでのあの殺人犯の顔を思い出して、メイは背筋が冷えた。
「早速、始めようか」
Ⅶがそう合図をかけると、吠兎は手を挙げた。
「なんだい、匡匪さん」
「ひとつ提案があるんだが」
吠兎は自身を落ち着けるように深呼吸した。顔つきは凛々しいが、微かに手が震えている。あぁ、やっぱり。メイはあることを思い返していた。
———小学生になったばかりの頃だったろうか。メイは吠兎家族に連れられて、お化け屋敷に入った。それは当時7歳だったメイにはとても恐ろしいもので、入って少ししたら泣き出してしまうほどだった。それを見た吠兎もまだ9歳で、怖かったろうに、メイを励まし、最後まで連れて行ってくれた。
それ以来、吠兎はいつも一緒にいてくれる。
そんな吠兎が、頼りであり、憧れだった。
「最後なんだけど」
メイは思い出から連れ戻された。はっとして、顔が引き締まる。背筋を正して、Ⅶを見つめた、否、睨んだ。
「メイも俺も、血が苦手だからさ。血を見る殺し方をしないでほしいんだが」
「うん、分かった。じゃあ、君達には見せないようにするよ」
Ⅶはそう言うと、マイクに指示した。
「それじゃ、始めるよ。拓さん、結縁さん、待たせてごめんね」
彼女はパーカーのジッパーを開くと、内ポケットから小さな青い箱を取り出した。その箱を開けて、カードを取り出すと、机の上にざっと片手で並べた。
「今回のゲームは ——トランプだよ」
あぁ、トランプ。メイは少しほっとした。篠の話を聞いて、もう少し過激なものだと予想していたらしい。そんなメイの表情が少し緩んだのをⅦは見抜いていたらしい。
「あ、気は抜かないでね。あくまでも、生き残れるのは3人だけなんだからさ」
クスクスと笑い声を残して、Ⅶはトランプを切り始めた。