複雑・ファジー小説

Re: 裏切りゲーム ( No.76 )
日時: 2014/03/20 22:10
名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: bG4Eh4U7)
参照: Ⅶsideっ! うわぁ、変人←

 あぁ、眠い。意外と長期戦で、こっちも疲れる。うーんと伸びをして、欠伸をしたら、拓さんに顰めっしかめっつらされたけど、気にしない。と、1人が立ち上がった。すかさずズームして、主の姿を観た。あれは、

「———吠兎さん、おめでとう。これで君が血を見ることは無くなるね。メイさんは解んないけどさ」
 ぐっと彼——おっと、彼女の顔が強張る。拳を握り締めて、俯いた。残りの確率は1/3。心配になる気持ちも、ちょっとは解らなくもないけどさ。まぁ、ゲームなんだから。この後どうなるのかは彼女の行動しだいなのさ。君が何かすることで彼女の運命が変わるのなら喜んでそうするだろう? それが出来ないから、ゲームは愉しいのさ。本当、愉快。

 僕の予想は、篠さんが勝つこと。ギリギリだけれども、カードももう1番少ない篠さんが勝つのは何となく見える。結縁さんには悪いけど、ジョーカーずっと持ってる結縁さんが勝つとはちょっと思えないなぁ。それに、ジョーカー持ってたら相手がジョーカーを取るようになんかするよね。何もしないのが一番勝ちにくいのにさぁ、馬鹿じゃないの?

 ゲームは進んでいく。メイは残り2枚の壁をなかなか破ることが出来なかった。篠からカードを引くも、対のカードがなかなか出ない。しかし、それは他の2人も同じだった。カードが立ち代わり入れ違っていくなかで、重なる事が殆ど無かった。
 そんな中で、遂に結縁が動き出した。1枚のカードを他のカードよりも上に出し、相手が取るように仕向けたのだ。でもさぁ、これだったら普通、出てるカードは引かないよね。出てるカードの隣を引くことが1番多いんじゃないの? それか、結縁さんのカードは3枚だからできないけれど、あえてどちらにも属さないカードを引くとかさ。篠が選んだカードは、———あぁ、やっぱり。右端の、出てるカードの隣だ。そのカードを裏返すと———
 ジョーカーが出てきた。

「っ!?」
 その光景を見ていたメイは、思わずひっ、と声を出した。こんな状態でジョーカーを引かせるなんて、なかなかだ。ジョーカーは笑っていた。篠を嘲笑うように。このゲームが、楽しいとでも言うように。
 それからと言うものの、メイの慎重さが際立つようになってきた。カードをじっくりと選んで、すっと抜き取る。そのため、篠が結縁のようにカードをずらしても効果は無かった。カードは同じなのだから、どうやろうと同じなのだが。しかし、その甲斐あってか、遂にカードは自身の対のカードに出会った。と、いうことはつまり。

 メイの勝利を表していた。


 正直、驚いた。僕に言わせたら、メイさんは"反吐が出る善人"に過ぎないし。メイさんは"好き"だとは言えなかった。なんだか、認められない、というか———。

「私が、負けた? いや、そんなわけ、ない。私が、負ける、なんて。有り得ない。有り得ないよね?」
 結縁さんは壊れたレコードみたいに、譫言うわごとのように何度も何度も言い続ける。夢じゃないよ、とはあえて言わないでおこう。だってさ、夢の中で死ねる方が良いでしょう?
 そろそろ、僕の方も準備を始めるか。パーカーの袖には手裏剣を隠してあるし、大丈夫だ。うん、大丈夫———

「ねえ、待ってよ」
 振り返ったら、瞳孔を開いて、俯いたまま呟く篠の姿があった。髪が下に垂れ下がって、表情が隠れている。

「私、まだ言ってない。メイに、言ってない。何にも———」
 言ってない、言ってない、と繰り返す。なら、言えば良いじゃない。篠の身体は震えていた。

「ねえ、メイ、私、貴女を、助けた。助けるためだけに、ゲームに参加し続けた。なのに、なんでよ? どうして? 忘れちゃったのよッ!!」
 顔を振り上げる。篠の顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。ああ、綺麗な顔が台無し。Ⅶは率直にそう思った。泣くにしろ、もっと綺麗に泣けば良いのに。ああ、でも、これ以上は言わせられないな。じゃあ———

「!?」
 ぐっとメイにハンカチを押し付ける。勿論、薬を染み込ませてある、ね。メイは間もなくして意識がブラックアウトしたらしかった。そして、そのまま倒れていく。
 ふっとメイから離れると、吠兎が慌てて抱き止めた。そんな中で、篠の悲痛な叫びだけが、部屋中に木霊していた。まるで、助けを求めるかのように。