複雑・ファジー小説

Re: 裏切りゲーム ( No.78 )
日時: 2014/03/21 20:29
名前: 咲楽月 ◆//UrPiQv9. (ID: bG4Eh4U7)

「う、あいたたた……」
 メイはその後10分間、ぐっすりと眠っていた。薬が効いたのか、副作用で頭が痛いらしい。それにしても、さっきの篠の言葉は何だったのか。早速、訊いてみなければ。そう思い、ゆっくりと起き上がると、下の方でグチャッという音がした。何かと思い下を見ると、紅い紅い、血が水溜まりのようになっていた。

「なっ……。何、これ!」
 メイは悲鳴をあげてその場から飛び退いた。血は見せないと約束した筈なのに、何故だ。
 ———抑、一体これは誰の———。
 血のある場所の、その先には。綺麗だった銀髪の毛先が紅く染まり、白い雪の結晶に紅い斑点が付着し、背中に大きく斬り込まれた跡のある、変わり果てた結縁の姿があった。俯せなので、顔は見えなかったが、その変わり様に思わず吐きそうになる。
 慌てて堪えると、鼻と口を手で覆って部屋から出ていこうとした。

 ええと、扉の位置は———と、壁に大きな血痕が有るのを見つけた。まるで、人が撃ち抜かれたかのような———。
 まさか、あれは。考えるよりも先に身体が動く。果たして、それは。

「み……やざわ先輩……?」

 ———篠が居た。

「せ、先輩! 宮沢先輩! ———何で、どうしてこんな、ねえ、起きてよ! 先輩っ…… ねえ!!」
 メイの叫びは届くことは無かった。
 胸を撃ち抜かれ、崩れ落ちたようなその格好。それが、見ているだけで耐えられなかった。紺色のニットベストが、血で染まって黒ずんでいる。漆黒のその髪が振り乱されて、そこから真っ赤な血が滴り落ちている。綺麗な漆黒の瞳は濁り、瞳孔が開ききり、焦点が合わない。———何よりも、メイがもと居た場所に向かって伸ばされる、力のない腕が、大きくメイの胸を突き刺した。

『———メイ———』
 篠の声が聞こえたような気がして、はっと篠の方を見る。肩を掴んで、揺する。反応はない。ただ、首がガクガクと揺れるだけ。頬を叩く。反応はなかった。ただ、ぺちぺちと叩く音がするだけ。自分の手を見る。真っ赤に染まった、自分の手。思いきり自分の頬を捻る。痛かった。ただ、それだけ。ただ、それだけで、これは本当だと思い知らされた。神に見捨てられたような気がした。そう思ったら、涙が込み上げてきた。
 メイは、篠をぎゅっと抱いた。冷たく、重い。瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。そんな、馬鹿な。何故、篠が———。


 部屋の中にメイの泣き叫ぶ声が木霊する。その様子を、Ⅶは部屋の隅で見ていた。手裏剣から綺麗に血を拭い取り、磨いて袖に仕舞った。それから、愛用の銃を撫でると、こう言った。

「さよなら、篠さん」

 ———貴女がそんな人だとは、思わなかったよ。
 もっと楽しませてくれると思ったのに。死ぬ1秒前までさ。
 ああ、本当に、

「黒に紅って、映えるよね〜」
 彼女はニヤリと微笑った。