複雑・ファジー小説

Re: 裏切りゲーム ( No.86 )
日時: 2014/03/23 22:13
名前: 咲楽月 ◆MawehM.pH2 (ID: bG4Eh4U7)
参照: サニ。様の「。」は省略させて頂きます。申し訳御座いません。

トリップもうひとつ作りました〜!
これからはこれらを交互に使っていきます!
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 Ⅶに連れられて、メイは部屋を出た。Ⅶのちらりと見えるミニスカが、所々紅い斑点に染まっている。きっとパーカーは変えたのだろう、返り血に染まっているはずのパーカーは真っ白だった。微かに汗の匂いもする。
 彼女が、殺したのだ。あの映像の時のように。

 扉を開けると、隣には吠兎と拓が居た。

「……メイ、大丈夫か」
 大丈夫なわけない、と叫びたくて、でも叫べなかった。吠兎の顔は腫れていた。特に目の周りが。彼女も見たのだろう、靴には血が付いていた。そんな吠兎を見ていたら、涙がまた込み上げてきた。ぐしっと手の甲で拭うと、Ⅶを見た。

「それで何処に行くの、Ⅶさん」
 声が掠れて(かすれて)、震える。喉が痛かった。本当は、何処へも行きたくはなかった。ずっと、篠の隣に居たかった。
 否、居たくはない。独りで居たいのだ。もう、立ち直れる気がしなかった。何も考えたくなかった。何故なら、自分が———

「うーんとね〜、こっちだよー」
 彼女は拓の居る方向を指すと、先頭に立って歩き出した。心なしか、機嫌が良いようにも見える。
 しかし、この建物は本当に広い。ゲーム前に移動してくるときも思ったが、行き止まりの箇所を見たことが無い。まだ小学生であろうこの少女は一体何者なんだろうか。

 行き着いたのは、扉が両手開きの部屋だった。扉の背丈が2m以上はある。あの背が高いので有名な格闘家も楽々通れるのではないかというような高さだった。
 Ⅶの肩程に存在する金色の取っ手に手をかけて扉を開くと、中は辺り一面真っ青だった。否、青いライトが部屋を照らしていた。部屋には3段程階段があり、その上には半円状の機械が設置されていた。その両サイドにはDr.クロと白い手袋を着けた少女が居た。

「あれ、サニじゃないか。クロちゃん、どうしたの?」
「俺も実験とかで忙しいんでな。これからは此処の担当はサニにやって貰おうと思ったんだが」
「ふーん。何、例の薬が?」
「ああ、もうすぐだ。上手くいけばな」
「人体を溶かす薬でしょう? ああ、楽しみだな〜」
 彼らの話を他所に、メイは何かぶつぶつと呟いていた。目が虚ろになってきている。吠兎の腕にしがみつくようにしていたその手に、なんとなく力が入ってきた。

「……私のせいだ。何で、勝っちゃったんだろう。どうして、こんなことに……」
 そこで口をつぐむと吠兎から手を離し、吠兎に向き直って俯いた。

「ねえ、吠ちゃん? 先輩は、先輩はもう還って来ない。そんなの、嘘だよね? ねえ、嘘だと言ってよ。いつもみたいにさ、冗談だって笑ってよ。ねえ「メイ」吠ちゃん、」
 つらつらと、喋り続けた。口元が緩んで笑っている。けれど、いつもの"笑顔"ではない。ふっと顔を上げると、微笑んだ。けれど、顔が引き吊っている。

「———私が、先輩を殺しちゃったんだ」
 そう言った途端、堰を切ったように涙が溢れ出した。笑みが崩れる。また俯くと、吠兎の胸の中で声を上げて泣き崩れた。吠兎は、ただメイを抱きしめていることしか出来なかった。そんな自分がとても情けなく感じた。屈辱だった。勝ってしまったのは自分も同じだから、何も出来なかった。


 機械の前に立つと、Ⅶはサニにあとは任せたと言ってクロと共に出ていった。サニはめんどくせ、と呟くと機械の前に立った。

「これより願いを叶える。って、これⅦの台詞なんだけど」
 そう言うと拓に向き直って、貴方の願いは何、と尋ねた。何、の部分が欠伸に重なってふぁに、になる。欠伸が出ること事態、適当だ。

「ああ、俺はいいよ。元々、面白半分で参加しただけだから。君たちのどちらかが2つ叶えなよ」
 そう言って2人に笑いかける。青いライトの中ではその微笑みも不気味だった。面白半分で参加して、よくも残れたなと思ったが、口には出さなかった。

「私も…… いいよ。吠ちゃん、3つ叶えなよ」
 メイは力なく笑った。吠兎は少し考えると、分かったと言ってサニに向き直った。

「俺の願いは———」




『——そしたらですね、なんとそいつが俺を裏切りやがって、俺の彼女にプロポーズしたんですよ!』

 点けっ放しのテレビからそんな声が聞こえ、少女は目を覚ました。