複雑・ファジー小説
- Re: 君を、撃ちます。 /保留解消 ( No.20 )
- 日時: 2013/04/04 13:42
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: qQixMnJd)
- 参照: 嗚呼もう。僕の描写を書く時は、辛いなぁ。
何時もとは違う所。
一、普段よりきつく巻いた首の包帯。
二、普段より醜い身体。
三、普段より白く気味が悪い身体。
ユニットバスに張られた白濁としたお湯に浸かりながら、僕は僕の嫌いな部分をあげていく。何を考える気にもなれないあの夢のあとに、風呂に入るのは気分が悪かった。あの日の記憶をなくす寸前までの記録。頼んでいないのも知らん振りをして精神的外傷として残された、あの日の記憶は僕を呪っているみたいだ。
残された傷はいつ何時も僕を監視して、いつかまた殺してやるぞって脅しをかけるような。そうしてまた、僕を見つけて七年前のあの日を再現するループを繰り返す。連れ込まれ、倒され、脅され、殺人未遂に至るループを延々と。
「××ー、着替えと換えの包帯持ってきたから置いておくわね」
「母親」のいつもの声の後、足音が遠ざかっていくのを聞き水圧におされつつも立ち上がる。およそ十分くらい座っていたため、血が下がっていき目の前がくるりと反転した錯覚に囚われた。“やばい”と思ったときには遅く、頭を軽くユニットバスにぶつけ盛大な音を鳴らし、背中からお湯に浸かった。
頭の痛みが一番酷かったが、それ以上に視界の治らなさに悶々とする。チカチカと、アナログテレビの砂嵐の中に現れる小さな光が瞼を閉じた状態でも現れ続けた。思わず不幸体質だと、僕を嗤ってしまいたくなった。けれど、嗤いたくても笑顔が出来ない。
——感情も、死んだのかな。
ようやく視覚が正常になったことを確認し、頭の痛みに堪えながら再度立ち上がりさっさと浴槽から出る。風呂場の扉を開けると、程よい涼しさの風が僕の身体を撫でた。桃色になりかけた肌が、その風のお陰で正常な白へと戻る。冷たく、凍てついた印象しか与えない肌へと。
ぺたぺたと滴る水はそのままにして、タオルを取り髪にばさっとのせる。そのままの状態で——産まれたままの姿で——僕は蹲った。流したくても流れない涙に、叫びたくても叫べない喉に、言いようのない悲しみをぶつけるために。心は涙を流したまま、何事も無かったかのように僕は髪の毛の水滴をある程度とり、身体の表面にういた水滴をすいとった。
肋骨の凹凸をタオル越しに感じ、また少し悲しくなる。つうっとつたった液体にはっとして顔をあげた。真っ白な肌の上を黒い瞳の中から出てきた透明な汁が、一筋の道を作り上げながら顎の下までやってきていた。それから、声を上げられないままに只管汁がこぼれる。
意味の分からないまま流れ出るソレは、僕の制御が聞かなくて。望んでいないのに僕の弱さを外へと吐き出した。迷惑で、どうしようもない位お節介。望まないままに、僕の知らない位精神的な外傷が僕には残っていたらしい。たった一夜の短い夢に壊されるほどの精神しか、僕には無かった。
まだ流れてこようとする液体がたまった目を、タオルで雑にごしごしと擦る。目の周りが赤くなるまで擦った。目の周りだけ薄桃色のアイマスクをしているような風になったが、気にも留めず服を着る。下着も全て、「母親」が持ってきてくれていた。
服を着終え、見たくない自分の首を鏡に映す。映す必要は、本当は無かった。けれど、今だけは傷を見て包帯を巻こうと思っていた。湿ったままついていた、朝おきて直ぐつけた包帯をはずし洗面台の中にべちゃりと入れる。
巻き数が少ない包帯を、首にくるくると巻いていく。一周、もう一周と巻いていくたびに傷は見えなくなり、首は圧迫されていった。全て包帯を使い切り、留め具で留める。首に包帯が巻かれた何時もの光景に、また少し悲しくなった。
何時もとは違う所。
一、何時もより多く巻いた包帯。
二、何時もより正常じゃない僕の感情。
三、何時もより辛く感じた存在意義。