複雑・ファジー小説
- Re: 君を、撃ちます。 ( No.53 )
- 日時: 2014/02/16 11:49
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: Ti.DGgQd)
ご飯を食べて、お皿を洗って、春の部屋に移動した。小柄な春には大きすぎる、殺風景な部屋。春は月の大半を一人で過ごして、それも家自体が大きな場所で、一人ぼっちで。そう考えると、私と春は少しだけ似ている気がした。
親が殺された子どもと、親とあまり会わない子ども。一緒にするな、なんて怒られるかもしれないけれど、私は同じだと思った。抱えた辛さは種類が違っても、きっと同じ。春の見せる笑顔には、きっと私も、美優も真浩も知らない深い深い闇がある。
「椿、僕の顔に何か付いてる?」
不思議そうに言う春に、私は慌てて首を横に振った。お父さんとお母さんが殺されてから、誰かの心の闇を探している自分を、改めて確認した。
私と同じ重さを、私と同じ辛さを、誰か誰か。
「どーかしたのか、椿」
頬を、真浩の指で押される。ふに、とした感覚が生まれたほうを見れば、真浩が私をじっと見ていた。
「暗い話でも、別にいーぞ? 思ってること、話してみろよ」
にっと笑う真浩に、春と美優も頷いた。広い部屋の一部分が、驚くほど暖かい空気で包まれる。頬に刺されたままの真浩の指をどかし、一度三人の顔を順に見た。
頼もしい表情ばかりで、躊躇うことを、少しだけやめて、口を開く。言葉にするのは難しくて、俯いた瞳が泳ぐ。開いた口は、なんどかパクパクしたあとに、一度閉じた。
「……皆は、どんな、心の闇を、持ってるのかなって」
そうか細く、ゆっくりと呟く。周りの世界が、凍った気がした。数分の沈黙。最初に沈黙を壊したのは、美優で、私は意外だった。美優はいつも、誰かの話しに便乗する子だったから、自ら話を始めるとは思わなかった。
「私はさ、みんな知ってると思うけど、おばあちゃんとおじいちゃんと暮らしてるじゃん? それでね、初めて会った子とかに毎回、“どうしてお母さんとお父さんがいないの?”って言われるの」
其処まで少し言葉を詰まらせながら、美優は言う。
「私ね、お父さんとお母さん、仲悪かったんだよね。お父さんは、家に全然帰ってこないし、お母さんは覚せい剤にはまちゃって。だから、私のこと引き取ってくれたの。おじいちゃん達が」
あははと笑いながら言った美優に、春も真浩も、申し訳なさそうな顔をして、だんまりとしていた。この話を聞いたことがあるのは、三人の中で誰も居ない。私も、真浩と春も、いつも笑顔で天真爛漫な美優しか知らなかった。
気付いてあげられなかった。そんな悔しさと、聞いてしまった罪悪感に襲われている。
「はい! 私の話はおわりーっ! 次は、真浩と春のどっち?」
普段と変わらないで言う美優だったけど、声色は少し、曇っていた。選手交代と、春が口を開いた。
「僕は、一人っ子で美優や椿と一緒。だけど、美優の家みたいに父さんと母さんの仲は悪くない。椿の家みたいに、誰にも殺されてなんかない」
そこまで春が言った所で、私達三人は今から始まる話が、三人の誰よりも深く暗いことを悟った。