複雑・ファジー小説
- Re: オオカミと嘘吐き姫 ( No.13 )
- 日時: 2013/03/31 23:39
- 名前: 飛雨 ◆xEZFdUOczc (ID: OMznPSTJ)
「おや、お目覚めですか」
視界がぼやける。
声と共に視界に飛び込んできた一人の少年。
ミリアが横になっているベッドに座り、ミリアを見て微笑んでいる。
形の良い唇から覗く鋭い2本の牙。
「だ、誰!」
何秒か彼を黙って見つめていたミリアだが、我に返ったかの様に飛び起き、声を荒げる。
目覚めたら自室に見知らぬ少年。それだけでも驚く事なのに。
加えてその少年はまるで人間ではないような姿をしているのだ。
茶色の耳に、同じく茶色の尻尾。
カーテンから洩れる光に照らされ、光の粒子が流れるブロンドヘアー。
大きな蒼い瞳の奥に隠された闇。
白地に青のラインが入ったコートを身に纏っている彼は、まるでオオカミが擬人化された様な容姿をしていた。
そう、まるでオオカミの様な—。
「俺ですか? オオカミですよ、オオカミ」
ふふっ、と悪戯っぽく笑うオオカミと名乗る彼。
そんな彼の言葉を聞いて少しばかり放心するミリア。
上手く頭が回らない様だ。
オオカミ? それは名前か? 耳に尻尾。それは種を指してのオオカミか?
「それって……、どういう……」
言葉を詰まらせるミリア。
そんなミリアの心情を見透かしたように彼は微笑む。
「だからオオカミですってば。ほら、アナタも聞いたことあるでしょう?
言い伝えで姫を食べたオオカミ」
ミリアは驚きを隠せなかった。
言い伝えのオオカミを名乗る少年が目の前にいるのだ。
本当か否か。確かめる術すらも、今のミリアには浮かばなかった。
ただただ、彼の蒼い瞳を見つめるばかりだ。
「驚いていますか? まぁ、そうですよね。
言い伝えは本当だった。そして自分はオオカミに食べられてしまう。
嘘を吐いたのだから仕方がないことですけどね」
そっと、彼の細い指がミリアの顎に添えられる。
抵抗することもせず、抜け殻のような彼女は言葉も発さない。
光の反射によってか、彼の牙が妖しく光る。
「嘘吐きなあなたを食べに来ました」
そして、妖艶な笑みを浮かべた。