複雑・ファジー小説

Re: ケイオズミックス・ホラーズ【久々に更新】 ( No.10 )
日時: 2013/10/23 06:47
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: 9Mwiczqn)

1-6

*  *  *  *

 私は激しい衝撃に目を醒ました。
 腹の上に、アレが居る。 顔の無い、黒くて粉っぽいゴムの様なアレが。
 アレはお決まりの様に私の首を締め上げ、私は激しく悶えながら抵抗する。 相当に苦しい。 今までの夢のような拘束的な締め上げではない、今日この化け物は、確実に私を殺す気でいる。
 そう思って私は必死に手を振り足を振り、辛くもアレを振るい落とす事に成功した。 咳き込みながら弟のベッドを抜け出し、蹴り破る勢いで戸を抜ける。
 抜けた瞬間、私の首は再び尋常ならざる圧搾感に襲われた。 水死体の様な淀み、膨れ、そして弛緩した手が見えた。

「黄の印を……見付けたか?」

 黄色い制服の、雨避けのフードの下で、ブヨブヨとした青白い唇が、そう問いかけた。
 嗚呼、アレだ、耳障りな音を立てる白い袋を引っ提げて、黄色い制服を纏った、あの男が、私の首を掴んで笑っていた。 嗚呼、今日まで聞き取れなかったあの問い掛けは、これだったのか。
 そうして腐り落ちる寸前の様な淀んだ瞳が、私のズボンのポケットへ向けられる。 その瞬間、私ははっとした。 "何も入れていないはず"のそこに、確かに何か異物があるのを感じる。 普段ズボンのポケットに入れるのは携帯電話と財布だけだが、今携帯電話はベッドの上に、財布は尻側に収まっている。 前ポケットには何も入っていないはずだ。
 だが、その私の確信は、背後から寄ってきた黒い魔物が打ち砕いた。 異物感を感じたポケットから、黒い魔物の鉤爪がくすんだメダルを取り出すことで。

「黄の印を見付けたな。」

 黄色い悪鬼はそう言ってまたブヨブヨとした青白い唇を吊り上げ笑った。
 そいつの空いた手が黒い魔物からメダルを受け取るのと、私の首を捕らえている手が一気に締め上げられるのは殆ど同時だった。 水を吸って膨らんだ様な、巨大な蛆虫の様な手からは全く想像できない圧搾力で握り潰され、私の喉は元の半分程度の太さに見えたことだろう。 痛みは殆ど感じなかったが、反射的に私は酸素を求めて口を開けた。 そこに黄色い悪鬼のメダルを握る手が捩じ込まれる。
私は酷い痛みと異物感と、そして気道に詰め込まれた掌大のメダルによる苦しさに力無く手足をばたつかせ、必死に抵抗したが、黄色い悪鬼はただその醜悪な笑みを深めるばかりだった。
 そいつは私の首を掴んだまま軽々と私をベッドへ運ぶ。 もう動かなくなった私をぞんざいにベッドへ放り、それはまた酷く醜い顔を歪めて笑った。
 ——気付くと其処は変わらない弟の自室だった。
 唯一の違いは、私がもう、息をしていない。 それだけだ。

*  *  *  *