複雑・ファジー小説

Re: 姫をさらったのに誰も助けに来ない件 ( No.23 )
日時: 2013/07/14 00:58
名前: 茅 ◆ge5ufvrJxw (ID: UTKb4FuQ)



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「シオ、財布は持ったか」
「はい!」
「ノア、日焼け止めは塗り終わったか」
「バッチリです」


シオは片手に札が詰まっているであろうスーツケース(財布)を持ち、
ノアリットは頭にヴァルが夏季に愛用しているという麦わら帽をかぶる。
そんな二人を見て、確認したように頷くとヴァルは城の扉を開けた。


と、その瞬間。



「まっままま魔王様ァァァ!!大変でへぶっ」
「あだっ」


同じタイミングで外から扉を開けたらしい一人の兵士がヴァルと派手にぶつかり合った。


「ヴァル様ーっ!大丈夫ですか!」
「舌噛んだって痛い痛いマジで」
「ヴァル様キャラ忘れてます!」


よろけかけたヴァルを、シオはスーツケースを放り出して支える。
兵士は慌てながら必死に「申し訳ありません!」と頭を下げ、不意に思い出したように目を見開く。


「そ、そんなことより!大変なんですよ!」
「そんなことって貴様…この魔王ヴァル様が舌を噛んだんだぞ…別にいいが」


いいんだ、と思いながらノアリットは表情一つ変えぬまま兵士を見上げ口を開く。


「何が大変なんですか?」
「え、女の子…?あ、えっと、市場に変な動物が現れて!頭は兎で体は鳥のような!」


兵士の意味不明な発言に、兵士以外の三人は揃って首を傾げる。


「意味が分からん。貴様も舌を噛んだのではないか兵士A」
「オレ一応ピートって名前があるんですけど…」
「では兵士Pか」

「とりあえず…その市場に行ってみませんか」
「小娘と意見が一緒なのは癪に障るけど、まあ仕方ないか…行きましょうヴァル様」















「…何だコレは」


市場に着くとまず目についたのが、民衆の群れ、群れ、群れ。
想像以上のザワつきように、ヴァルは顔をしかめた。

シオは半ば無理矢理に群がる民衆を掻き分けて、群れの中心にいるであろう、"頭は兎で体は鳥"と言われた生物を探す。


「道を開けろ!ヴァル様のお通りだ!」


シオによって発せられた魔王の名前を耳にした民衆が、次々と道を開けて行く。

やがて完全に開かれた道の先にいたのは、数十人の兵士にその身を取り押さえられている生物。
その風貌は——


「兎…鳥?」


兵士A、否兵士Pの言っていた通り、"頭は兎で体は鳥"だった。
全身は真っ白な毛で覆われており、非常にふさふさしている。
大きさはノアリットよりも一回り大きいくらいなので中々大型だ。


「兵士Pさんの言っていた通りですね」
「正確には"頭は兎(くちばし有り)"だな」


どっちにせよ可愛いです、とノアリットは瞳を輝かせる。


「どうしますかヴァル様、この兎みたいな鳥みたいな生物」
「どうするノア」
「飼いたいです」
「よし、ではそのまま捕獲して…そうだな、とりあえず地下牢で飼うか」


喜ぶノアリットとは対照的に、シオはただ呆然とした。
こんな得体の知れない生物を飼うなんてどうかしている、と。
だがいくらつっこんだところでどうにもならないだろう。

諦めたシオは小さく溜め息をつき「了解です」とだけ呟いた。