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複雑・ファジー小説
- Re: はきだめと方舟 [R18,短編集] ( No.2 )
- 日時: 2014/02/03 12:02
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: y3VadgKj)
- 参照: http://id43.fm-p.jp/data/333/epason/pri/9.png
「僕の世界は暗闇だけだ」
そう呟いていた自分の愚かさに、僕はようやく気付いた。
何が大事で、誰が大切で、何を守るべきか、ようやく気付いたんだ。
忘れていた記憶を、蓋した過去を、静かに開く。
手帳に書きとめていたわけじゃない。
音声を録音していたわけじゃない。
確かに僕の中に刻まれた、小さな思い出だった。
「からんからんって、僕の耳で音がするんだ」
そう言って、画面の向こうの君と話しをする。
不登校で、昼夜が逆転した生活を送る僕と君。住んでる所は違うけれど、置かれた状況は同じ。
『……私と、見てる、世界は、変わっちゃった?』
か細く出て、君の声。震えていたのは、気のせいなんかじゃないんだ。
僕は小さくかぶりを振った。音声通話だから、君には見ることが出来ないだろうけど。
「君が見るだろう世界を、先に確かめてるんだ。君が、怪我をしないように」
自分でも、驚くくらい優しい声色だった。
君が息をのむ音が、聞こえた。
『ありがとう』
しっかりとした、可愛らしい声。今迄聞いた君の声で、一番しっかりとしていた。
数週間後、また君と通話をした。
「最近、どう?」
『やっと、やっとね、学校に行けたんだよ。まだ、保健室登校で、お昼からしか行けないんだけど、ちゃんと、行けるんだよ』
「そっか、おめでとう」
僕とは違う、表世界に進んでいく君を、心から祝福する。
「それじゃ、また今度」
『うん、またね、お兄ちゃん』
「……うん、楓」
そうして、妹との通話を切る。
僕と違って親戚に引き取られた妹への、羨望や嫉妬の感情も、まとめて切り離した。
★裡蔵 裕樹
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わちやさんに、心からの感謝を込めて。
からっぽらっぽの主人公、裡蔵 裕樹(うちくら ゆうき)です。
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