複雑・ファジー小説

Re: はきだめと方舟 [短篇集] 新作うp ( No.18 )
日時: 2014/03/26 21:45
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: saz7BosX)



 私には、知らないことが沢山ある。
 一つ、夢の続き。
 二つ、私自身のこと。
 三つ、感情のはらみ方。

 えとせとら。えと、せ、と、ら。






■グランシャリオンは殺された。



 
 雲はいったい何処に流れていくのかも、私は分からないで今を過ごしている。風がどうして吹くのかも、私は知らない。だけれど、波が起きる理由は、何となくだけれど私は知っている。答え合わせは、一度もしたこと無いけれど。それで、私は構わない。
 ふらふらと瞬いて、私は一人、あなたを見つけた。殺風景な街中でぽつんと、座っている。わびしそうに空を見ては、頭を垂れての繰り返し。ちくりと痛くなった。初めて見つけた、何も分からないあなたなのに、どうしてか、気になって仕方が無い。

「どうして」

「どうして」

 小さく二回。あなたは言った。無気力そうに、ぽつりぽつりと。深いため息を後に連れてきて、あなたは静かに涙を流し始める。
 そして、

「I wish I didn't love you so much」

 流暢な異国語であなたは言った。また、深いため息。あたたかそうなあたなの心はきっと、この街のように廃れて、凍てついてしまっているみたい。どうにかして助けてあげたい、だなんて。私の胸が騒ぎ出した。
 けれどやっぱり、叶わないこと。伸べた手は、あなたに届く前に行き先を見失った。心の底から、あなたを。あなただけを助けてあげたいと思っているのに。

「——どうして」

 声が、無意識に震えていた。ひどく寒いこの街の一部になってしまいたいくらいに、心が痛んだ。私じゃあなたを助けることなんて、出来ない。私には、あなたを助ける資格なんて無い。辛くて悲しくて、どうしようもないほどの、もどかしさ。
 私はあなたの心に残れない。
 頬を伝った小さな粒に、あなたの姿がぼんやりと映った。

 
 私は知ったことが沢山ある。
 一つ、波が立つ理由。
 二つ、無力さ。
 三つ、愛することの儚さ。






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 たった一度で良いから、手を重ねて。
 いつまでも、あなたを見守っていることを、忘れないで。

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本当は、笑顔でこのSSをあげるつもりだったけれど。
少しだけ実話を混ぜてみました。きっと、読む人によって表情を変える作品になったんじゃないかな。

さて、【グランシャリオン】は、どちらでしょう。
作者からの、小さな質問です。