複雑・ファジー小説

Re: 神将狐と神子の記録語 ( No.8 )
日時: 2013/06/19 14:34
名前: 結縁 ◆hj52W3ifAU (ID: tuakPBCn)

第一話【九尾との対面】

九尾宮前

「紫織、分かっていると思うけれど失礼の無いように、ね」
「分かってるよ。だから、そんなに心配しないで母さん」

心配そうに私を見つめる母さんを安心させるようにそう伝える。そして、九尾の神が宿る宮の前で柏手を数度叩き呼びかける。

「狐神の長である九尾よ、契約の儀を行う許可を頂きたい。どうか姿を拝見させてもらいたく申します」

そこまで言い終えると目を閉じ頭を下げ跪く。平静を装ってはいるけど、緊張と場に満ちる神気で体は小刻みに震えていた。震えを振り払うようにきつく拳を握る。
 ーーまさにその瞬間だった。場の温度が数度下がり一陣の風が横を吹き抜けたかと思うと、目の前には凄まじいまでの威圧と神気を感じた。

「ふむ、我に問いかけたのはお前か。人の子よ」

凛としていて、何処か恐ろしいと思ってしまう声音。姿を見ずともこの声の持ち主が九尾の狐神であることが容易に理解できた。

「そうです。私が拝見を望みました……」

声の震えを抑え込むように応えたつもりだった。だけどそうして発したにも関わらず、私の声はあまりにも弱々しく聞こえた。

「そうか、ならば顔を上げ名を名乗れ。……儀式を行い加護を受ける資格があるか見極めてやろう」

そう言われて、ゆっくりと顔を上げる。……人である私に拒否権はない。拒否して神の機嫌を損ねたりすれば妖魔を浄化する術も失ってしまうのだから。
 そう理解していた。だけど、いざ九尾と目があってしまったら、全てを見透かすような鋭く冷たい瞳に射竦められて体が凍り付くかのようだった。

「どうした? 黙っていては分からんぞ」

九尾の視線の中に私を試すかのような意思が見えた。早く応えなければ、そう思うのにどうしても喉元で言葉が詰まってしまう。落ち着け、落ち着かないと……そう自分に言い聞かせて、一度目を閉じ深呼吸をした。そして再び九尾を見つめると今度こそしっかりとした声音で告げた。

「……狐静紫織です。それが私の名でございます」

やっとの思いでそう告げて九尾の反応を待った。
 数十秒野間を沈黙が満たして、それから九尾がニヤリと笑うと、威圧するかのようだった神気が、緩やかなものへと変化したのが分かった。それを感じて体から緊張が抜け落ちていく。

「紫織、かよい名だな。資質もそこそこある、がまだまだ未熟そのものだ。儀式を行う権利は与える。だが、召喚された神将が従うかはお前次第だと肝に銘じておけ」
「よく、心に刻んでおきます…」

九尾の言葉は事実だった。私には経験がほとんどなく、未熟で弱い。だけど、今日少しでも認めてもらえた気持ちに応えるためにも努力しよう。そう思っていた。

「我の加護はお前の持つ短刀に宿す。それを覚えておけ」

それだけ九尾は告げると、人の姿から本来の九の尾を持つ狐へと戻り姿を消した。
 それを見届けて、体から力が抜ける。その場に座り込んでしまった。そんな姿を見て母さんが駆け寄ってくる。随分と心配をさせてしまったみたいだけど、儀式のことを伝えると喜んでくれた。

そうして、休憩を数時間とった後、召喚の儀式を行うために霊服を纏う。懐には九尾の加護もある短刀も入れて。これで準備は整った。
 身形を再度確認し、儀式を行うため再び九尾宮へと足を運んだ。