複雑・ファジー小説

Re: ~Salt Load~ 準備中 ( No.2 )
日時: 2013/06/23 23:37
名前: 世移 ◆.fPW1cqTWQ (ID: JPHHUoHb)

一話 私と塩商人と旅立ちの日
「ほら!起きなさい!アイル」
「ふぇ?なに、母さん?今日何も用事ないじゃない……。ゆっくり寝せてよ……」
「何言ってるの!?今日は旅立ちの日でしょ!おいて行かれるわよ!」

旅立ちの日。それは私たちの街にある伝統行事だ。
はるか昔から海洋貿易や運送で栄えていた私たちの街では貿易や商売の大切さ、そして世界を見て回るために一年間キャラバンや商人に付いていきありとあらゆる街を巡っていく。
恐ろしいことにこれをやらないとこの街では一人前になったとは言われないし、挙句の果てには碌な人間になれないと批判されたりする。
まあ実際こんなのができたのは『勇者』が『魔王』から世界を救った十年前からの出来事なんだけれども、
「お、遅れたら殺される!商人さんについていけなかったら、母さんに殺されちゃう!」
私は走る。母さんに殺されないために。

様々な色のタイルが敷き詰められた街道を私は全力で走る。近所のおじちゃんからは「遅れるぞー」と笑われ、去年の旅立ちの日に行った近所のおねえちゃんからは「私の代にもいたから!」とよくわからない励まし方をされる。
私はそんなよくわからない声援と全力で走っている辛さから泣きそうになりながらも街道をひたすら走った。

「着いた!」
円形状にタイルが並び中心には大きな勇者像がある広場に着く。
そこでは多くの人が出店を広げ、そして多くの商人たちがいた。
「よかった〜!」
私は心の中で安堵する。幸いなことに商人たちはまだ出発する様子はない。今うちに頼んで商人に連れて行ってもらうしかない。そう思い、すぐ近くにいた商人に声をかけた
「あ、あの!すみません!!旅立ちの日参加者なんですけど!乗せてくれませんか!?」
参加者であることが証明できる勇者の紋章が描かれたバッチを商人に見せる。
しかし帰ってきたのは悲しい言葉だった。
「すまんな、もう参加者いっぱいなんだ」
「そう、ですか……」
「ごめんなぁ。……さぁ!出発するぞ!」
商人さんがキャラバンのほうへと戻りそう号令する。
「……探さないと」

大きく鐘の音が鳴り響く。ちょうど午後0時を知らせる鐘だ。結局、私を載せてくれる商人さんはだれ一人いなかった。私は疲労で広場のベンチに腰を掛ける。
そして昨日、お父さんとお母さんが言ってたことを思い出した。
お父さんとお母さんは私に頑張れよや期待してると言っていた。
きっと今頃、アイルはもう出発したかしら? なんて言っているに違いない。
そう考えると、とても泣きたくなった。私はなんて親不孝者なんだとすら思う。
「ぅぅう……、ごめんなさい」
「おいおい、どうしたんだい?」
顔を上げると、ごつく頑丈そうな鎧を着た男が立っていた。左肩にかけているのは王国騎士団の証である、紅い勇者の紋と剣が描かれたエンブレムだ。つまりこの人は王国騎士なのだろう。
「い、いえ……その」
「ん?そのバッチ……。旅立ちの日の参加者か……。なんでまだいるんだ?」
「え、あ、遅れてしまって。何処も定員が限界で乗れなくて……」
自分のバカさにまた少し泣き出しそうになりながらも私は言った。すると王国騎士団の男は笑った。
「ああ、なるほどね。けど安心するといいよ。ちょうど俺の知り合いに商人がいるのさ、ちょっと待ってて」
騎士はそういうと広場の奥のほうに走っていく。よくあんな重そうな鎧を着て走れるものだ。
そこから10分ぐらい立ったころ鎧の男が一人の男を連れてきた。その男は短い赤髪に金色の目をしていた。
「えっと……、塩商人です。よろしく。取り扱っているものは基本的に塩を取り扱っています」
男がそう言い終わり、深々と私に頭を下げる。私も同じように頭を下げた。
「こいつもれっきとした商人だから安心してくれよ」
男の頭に手を置いて騎士が言った。男はそれが鬱陶しいのか払い除け、そして私に微笑んだ。
「とりあえず名前きいて良いかい?」
「アイル、アイルディスバーンです。」
「とりあえず、聞くよ?商人の中でも僕の通る道はとても危ないんだ。それでもいくかい?」
「はい!!」
「じゃあ、契約しようか」
塩商人がそう言って旅立ちの日の契約書とナイフを取り出す。
私たち参加者と商人は、教会から配布される『神の契約書』という物を使い身の安全を保障する。これは商人が私たちに暴行を震わせないための物で、効果は一年間の間、体に聖なる魔力で出来た防護魔法が付く。もし商人やその仲間がこれに守られたものを悪意を持って攻撃すると神の天罰が下る。……らしい。

私は指の先をナイフで少しだけ切って、血を契約書にたらす。塩商人さんも同じようにナイフで自分の指先を切り、血を契約書にたらし、契約の呪文を唱える。
「我、神に願わん。我らが邪悪な意思からアイル・ディスバーンを神の力にて守りたまえ。わが名は——————」
綺麗な声で神への契約の呪文を言う。発音が素晴らしくまるで聖歌を聞いているようだった。しかし最後の名前のところだけ良くわからない言語でしゃべられる。一体どんな言語だろうと思った瞬間、契約書が目を開けれないほど光り輝く。
光が収まった時、騎士が塩商人へと詰め寄った。
「おい、お前神代語で言ったな」
「本名はばらしたくないんだ。特にこういうところではね」
「馬鹿か! お前の力と神代語で契約が強化されてまくりじゃねえか。どうすんだよこれ!」
「いいじゃないか。道中の安全が保障されてるよ。大体、僕の使う道は相当危ないんだよ。これでイーブン」
「おまえなぁ……」
確かにさっきの光はすごかったが、なにかミスでもあったのだろうか?私がそう思い声をかけると
「ああごめんね。大丈夫だよ。じゃあ行こうか!」
「は、はい!!」
こうして私の旅は始まった。