複雑・ファジー小説
- 第1章:少年の始まり ( No.1 )
- 日時: 2013/07/04 08:41
- 名前: 黒金 (ID: rMENFEPd)
蝉の鳴き声が響く晴天の空の下、森の中を歩く一人の少年がいた
茶色の髪を肩まで伸ばしており手入れはしていないのか随分と雑な伸び方で所々におかしな癖毛があった、そんな少年が一つ口に出した言葉は
「薪拾うのにわざわざ此処までこさせる必要ってあるのかよ....」
という愚痴である、彼の住む国では城下町以外の場所はまともに整地もされておらず険しい環境の中で小さな集落が何万何千とあるとても平等とは呼べない絶対王政の国であった、まともな生活資源は田畑を耕し家畜を飼う事しかできず税金の滞納をしている真っ最中、丁度良い働き手とされている者からすればあまり面白い話でないことは当然であろうか
「にしても....熱いっての....確かここら辺に川があったっけか....」
そう愚痴を零し続けてなおも歩き続ける、拾った薪は何十キロ分もあるのだが、そんな事は慣れている、毎日している事なのだからそれも当然であるが、そんなことよりもこの熱にはどうも慣れていないらしく愚痴を零し続けるのであった、そうして少年は水音のする方向へと歩いていった、木の葉を踏む音が少し湿りだし、川が近い事を己へと教えてくれる。
「あー....水....ん...?」
少年は目の前に浮かぶ風景をもう一度見る、其処にはボロボロになったローブをまとった少女が水を飲んでいたのだ、集落同士は関所で遮られており集落の人間程度ならば全員覚えている、しかし、この少女は何者なのだ?見た事がない、関所で他所の者が来れないようなっている、ならば、この少女は何者なのだ?
しかし少年の脳裏には年頃として仕方の無い不安が反芻されていた、小さな頃から馴染みを持ってきた相手としか会話をした事のない少年からしては初対面、というのはとても緊張する場面であった、そのまま見なかった事にして帰ろうかと後ろ足を引くと、小さな枝を踏んでしまいパキ...と音を立ててしまうのだ、川のせせらぎしか聞えない森の中でその音は呼応するような錯覚を孕ませ少年の耳に響いた、まずい、と思うのが少し遅かったようだ、水を飲んでいた少女は此方を見てキョトン、とした表情を浮かべている、地面にすれている綺麗な黒髪を小さく揺らし小さな顔の中に宝石のような色彩を放つ赤と青の瞳をパチクリとさせ、チェリーのように艶やかな小さな唇をそっと開いた
「......」しかし、其処から言葉が発せられる事が無かった、相手はただパクパクと口を開閉し何かを言っている様子だったが少年には魚が地上に出た時のようにしか見えなかったのである、
「どうか、したのか?」
それを見て少しばかり緊張がほぐれたのか少年は小さく首を傾げで口をパクパクとさせる少女へと語りかけるのである、こちらの言葉を聞いた少女は一度口を閉ざし、指をこちらへと向けるのだ、そして再度口を開き
「君の運命を変えに着てあげた」
そう言ったのである、とたんに少年は鐘の鳴るよう頭痛を受け思わず其の場に膝を付いて頭を抑えた、何か知ってはいけないような事を知っている気がする、何か見てはいけない物を見たような気がする、家に帰りたい、帰りたい、帰らなきゃ、いけない
そこで少年の思考は潰え、視界は暗転し意識を落とすのだった。