複雑・ファジー小説
- 第4章「追憶の日々.1」 ( No.11 )
- 日時: 2013/08/04 11:40
- 名前: 黒羽 (ID: vLjWsTsT)
いつの日か感じていた感触を受けていた。何処でだろうか、ただ。とても心地良く、安心するという事だけ分かれば充分だろうか。
「ん……」
そして頬に冷たくて柔らかい物が触れて、ゆっくりと瞼を上げるのである。ボヤける視界は、一際色彩を鮮やかに飾る赤・青・黒の三色で埋められていた。
「おはよう、レイル」
「おはよ……」
聞き覚えのある声に反射的に返事をする。なんだろうか、この感覚は。頭の中が空になったような気分である。そして女は告げた。
「帰ってきたらそのまま倒れ込むんじゃなくてベットで寝て」
そうか、俺は兵士に捕まって、帰ったらそのまま寝ちゃったんだっけか…?少々の違和感を覚えるも、納得しては頬に触れる女の手を掴みどかした。相変わらずの無表情、不満を吐く事は無い。
「どのくらい寝てたんだ?」
「二回夜が明けるくらい」
「まじかよ…」
一応聞いてみては返って来た返事に苦笑を漏らすのである、そんなに疲れていたのだろうか。そして、その間ずっとこうだったのか、とても申し訳ない気持ちになり
「じゃあ…飯の準備をするか…」
と、言葉を掛け立ち上がるのである。自身の空腹感もそうだが、この女は食事という行為をしない。なんでも栄養は摂っているらしいが、こんな小柄なのを見れば最小限だという事は分かるだろう。
「私は要らない」
「大切な食糧を無駄にしたくないなら食え」
「私には関係無い」
相変わらず無愛想な返事であるが上体を起こし軽く伸びをしては床下収納の場所まで立ち上がり向かっては戸を開けた。中にはキャベツやニンジン等が入っており、それ等の野菜となかに入っている鍋とまな板と包丁を取り出した。無論、二人分の材料だ。
「私は要らないって」
再度口を開いた女に対し言葉を遮るように
「シチューでいいな?」
と言葉を掛け、返事も待たずに野菜を切り始めるのである。
女は諦めたのか口を開く事は無く、黙って地べたに座ったままこちらを見上げるのである。なんだ、可愛い所もあるんじゃねーか、言葉にせず頭に浮かべては
「失礼な事を考えてる暇があるなら手を動かせ」
と言われ苦笑を零して料理を再開するのである。なぜバレた
そしてその日は作ったシチューを二人で食べ、眠りにつき終わった。
この時はなぜ気付かなかったのだろうか、しかし、その時には考えもしなかった事であろう。
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肌寒さに揺すられ瞼を開けた。視界にはただひたすらな闇が続き部屋の中だと教えてくれる。布団を剥がし上体を起こせば掌に小さな光の球を出し辺りを照らす、無論女の姿は無い。してはそのままベッドを後にし住処から出るとした。ドアを開ければ空いっぱいに散りばめられた星が輝き、天高く登った月がその夜の深さに弾みをつける。一通り空を眺めては夜道を歩き出す、こんな日には必ず行く場所があるのだ。大樹を幾つか横切り、梯子の掛けられた背の高い木にたどり着く。慣れた手つきで梯子を上っていき、大きな木の幹を目指した。視界に映るのは綺麗な星と、赤と青の宝石を埋め込んだ小さな人形である。
「君は此処が好きだね」
梯子を登りきり幹に手を付けた男に告げるのである、相変わらずの無表情からは何も感じる事はできずただ言葉を言葉として返す。
「…良く、観れるからな」
彼女の隣に座り込みながら、眼下に広がる光景を見下ろしたのは、焼けた落ちた家屋と並べられた墓石であった。