複雑・ファジー小説

第1章:「少年の始まり.end」 ( No.3 )
日時: 2013/07/03 23:37
名前: 黒金 (ID: vLjWsTsT)

肺が痛み足をつんのめらせようとも彼は止る事がなかった、どんどん近くへと足を踏み入れ赤く染まった集落へとまっすぐに向かっていくのである、きっと大丈夫、母さんや父さんは助かってるさ、きっと集落のみんなもう逃げてる、きっと火を止めれなかっただけなんだ、早く顔を見せてあげないと、錯乱した脳で同じ言葉を繰り返す、大丈夫、大丈夫と自身に言い聞かせ、集落までもうスグの所へ来ていた、決して、転がっている黒い点だった物は目視せず、炎とは違う赤色も、見ないように、そして、少年は始まった事を理解しようとしなかった
「........っぅ...」
しかし、理解させられた
集落の中心にある井戸の前に立てられていたのは吊るし上げ台、そして、其処に吊るされ力なくぶら下がっていたのは、間違いなく彼の両親だったのだから。
激しい嗚咽が胃から込み上げてきたのがハッキリと分かった、そしてそれを止める事もできず嘔吐を繰り返した、その場に膝を付き、まるで情報を遮断するかのようにうずくまって胃液を吐き続けるのだ、若年17歳の少年、彼に叩きつけられた現実はあまりにも残酷で、受け入れがたい物だった
それから少年は動かなくなり、ただただボーっと地面を眺めていた、パキパキ、と木材の燃え崩れる音を聞きながら、思考を止めた、もう、このまま死んでしまえたら楽なのだろう、そうとも感じた、しかし
「泣いているの?」
唐突に聞えた少女の声に少年は振り返った、無感情で、無機質で、人形のような少女、もはや彼女に八つ当たりする気力も無かった、そして言葉も返せないまま、少年はただ頬に伝う雫の感覚だけを感じていた
「君は泣いているだけ?」
続く少女の言葉に激しい嫌悪感を覚え、俯くと同時に悔しくて悔しくて、反論を考える、違う、そうじゃない、俺は、泣いてなんていない、ただ、ただ....
「ちくしょう.........!」
何も言えなかった、思考を止め、逃げて、現実を見せられて、泣いて、また思考を止めて、何もしていないじゃないか、言葉と同時に地面を殴り、拳に激しい痛みを覚えながら黒い点だった物の同じ色が己の拳にも滲む、何かしなくちゃいけないんだ、何かを、するんだ
「そうだ....お墓を作らないと.......」
呟き顔を上げた時には少女の姿は無かった、しかし、そんな事よりも大切な事があるのだ、背負っていた重い薪をその場に落とし、吊るし上げ台の横に落ちていた剣を手に持った、それは少年にとっては随分と重く、血糊のついたそれからは確かな悪を感じたのだ、少年は自分が変わって行くのを感じた、明確な怒りと憎しみに蝕まれていくのを、そして少年は太いロープへと悪の刃を振り下ろした。