複雑・ファジー小説

第2章「遠くない未来2」 ( No.5 )
日時: 2013/07/01 23:16
名前: 黒金 (ID: vLjWsTsT)

一面の雪景色、大した感動を抱く事は恐らく二度と無いだろう。あの日から幾らばかりの年月が過ぎ、少年は丁度男性と呼べる歳となっていた。あの日から一体どれだけ調べただろうか、結果として分かった事と言えば、集落を襲った者達は山賊などの類で無い事、そして、あの時手にした剣は、関所に居た兵士が持っていたのと同じ物だという事だ。あの女には何も話して無いが全てを把握しているのだろう、言う必要はあるまいて。
「さて、ここら辺でいいか…」
ある程度まで進めば無人の関所が目に入る、いや、正確には反対側を見張っている者が居る筈だ。男は剣を抜いた、イノシシや豚は殺した事は何度もあるが、人に刃を向けるのは始めてである。小さく深呼吸しては関所の門を拳で殴りつけるのである。そして
「誰か居るか!?助けてくれ!」
と叫ぶのだ、演技としてはどれほどか分からないがこれ以外方法が無いというのも事実である、男はひたすら助けを呼ぶ声を上げ続けた、そして幾らばかりの時間が過ぎ。
「何だなんの騒ぎだ?」
と声を上げる若い声が向こうから聞こえてくる、兵士がいれば門を開けて貰えるだろう。そうすればあとは開けた奴を殺せばいい。
「森に迷って集落に帰れなくなってて、それで、やっとの思いで集落に帰ったら、み、みんな…!」
と動揺したフリをして叫んだ。推測が正しければ犯人は国だ、そして生き残りが居た場合はどうだ、消しにかかるに決まっている。こんな生きた証拠がいては邪魔だろうからな。
「な、そんな馬鹿な!?関所は誰も通って無いぞ!?少し待ってろ、すぐ開ける!」
と焦った様子で言葉を返す声が静かな森に響く。しかし、騙されない、どうせ演技だろう、誰も通って無いなんてありえない、バタバタと走っていく音と共に仲間であろう誰かに話しをしている声が聞こえる、しかし、どうも雲行きが怪しげだ
「だから門の裏に居るんだよ!」
「っは、せんな事、一人の人間も守れなくて何が騎士だ!」
「あぁ、好きにさせて貰うよ、」
ぐらいがまともに聞き取れた部分である、他は喧嘩でもしているようなやかましさしか伝わってこなかった。そして少ししては鍵を開ける音が聞こえた、そして門が少し開き始めたその時、レイルは剣を突き出すのである、相手がどんな人間かなんて知らない。しかし、止まる事はできなかったのである、しかし、放たれた刃は不気味な光を放ったかのような鈍い感触に遮られた、プレートアーマー、騎士の装備する防具である。
「っ…!」
若い男は鈍い声を上げ少し後退した、その隙に門を開けては男を押し倒し刃を首へ突きつける、その男は武器を持っておらず、信じられない、といった表情をこちらへ向けるのだ。
「死にたくなかったら答えろ、もう一人の仲間はどこだ」
完全な成功である、人質を得て、尚且つ情報を引き出せるのだ、これ以上無い状態である。
勝った、そう思った瞬間
「ッ!」
肩に何かが刺さったが、それを矢だと判断するには時間が掛かった。なぜなら、待っていたと言わんばかりにそのまま蹴り飛ばされ、代わりにナイフを突きつけられたのだから。
「だから言っただろ、馬鹿が」
「あぁ、ありがと、助かった」
ある程度の信頼関係のあるであろう会話はとても耳障りであった、全て奪われた自分は誰に助けられる事も、誰を助ける事も、もう無いのだから。しかし怒りとは逆に身体は動かない、右肩に刺さった矢のおかげで右腕はろくに動かせず、ナイフを突きつけられては反撃もできないのだから。
「じゃあ、少し大人しくなって貰うからな?」
そう言っては若い男はナイフの柄で即頭部を殴るのであった、いつぞやのように痛みを感じるのは長く無かった。一瞬の内に意識はどこかへと飛ばされたのだから。