複雑・ファジー小説

第2章「遠くない未来.end」 ( No.7 )
日時: 2013/07/03 23:27
名前: 黒金 (ID: vLjWsTsT)

「.....それで、関所に着た、あとはお前の見た通りだよ」
薪を取りに行った日から今日に至るまでの事柄を語ったが、黒髪の少女、ミラと魔法については語らなかった、どうせ言っても信じて貰えないどころか狂ってると思われても仕方が無いのだ、言える訳が無いのである。
「.....成程な...」
目の前の男は少々考え込んでは小さく声を出した、一体この男はどういう反応を取るのであろうか、信じて貰えるかが一番の問題だが、信じようとしている相手を少し、ほんの少しだけ信用していた、きっと分かってくれる、いや、もしかしたら味方になってくれる可能性もあるのだ。しかし、そう甘い訳が無かった
「.....今回の件については見逃してやる、だが、次こういう事をしたら捕縛する。」
それもそうだ、相手はお国が抱える騎士団様だ、国に忠誠を誓ったような者達がそんなので掌を返してくれる筈が無かった。しては無言で拘束していたロープを解き、「真っ直ぐ帰れよ?今度は頭に刺さる事になるからな」と言葉を残してその場を後にした。終始何かを考えているようだったが、とにかく分かり易い真実は一つだけあった。真っ直ぐ帰らないと肩の次に頭に貫通痕ができる、という事である。
「クソ.....」
何をするでも無く帰る事を強要されては特に何もせずドアを開け外へと出るのだ、どうやら門の横に設置された個室のようで門は一人分開けられていた、男が何処へ行ったかは知らないがどこかにあの弓矢の男が居る筈だ、ドアを閉じては真っ直ぐ門をくぐり、閉じるのであった。

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家に帰るまでの道のりはとても長く感じた、右肩の痛みもそうだが、あのような男が居た事の方が負担が大きい。敵が良い奴では、恨めないではないか、また闘う時に、殺すのを戸惑ってしまうかもしれない。後ろめたい気持ちが後にも先にも待っているのだ。痛みが心地よかったのは今日が最初で最後だろう。そしてドアの前に立った、あの女はこうなる事も分かって送り出したのだろうか、だとしたら、そうとう性質が悪い。しかし、彼女を憎む事もできないのである。
「君は弱い」
ドアを開けて己のベッドに座る女と眼が合えば、第一声で言葉のナイフが飛んでくるのである。女は相変わらず無表情で宝石のような瞳をこちらへと向け続けていた。
「........強くしてくれ」
「嫌だ」
「.......」
素晴らしいまでの即答であった、座布団があったのならば下に敷いてやりたいくらいである。少々考え、迷いながら言った自分が恥ずかしい、あまりのことで反論することも忘れてしまった。そうして微妙な空気の中占領されているベッドは諦めて女のベッドに座っては小さく溜息を付いた。
「君は私が居る限り死なせない、君は私に守られていればいい」
溜息を吐いて少々の時間が過ぎては、唐突に壊れたラジオのように言い始めた。彼女の姿を再度見ては本を見ているようである、笑えない冗談だ、しかし、反論することはできなかった。自らの無力が分かっているだけあり、言葉に出せない。くやしくても、できないのである。その後彼女は何も言わなくなり、こちらの言葉を待っているかのようにも見えた。そして改めて言うのである。
「俺を強くしろ、ミラ」