複雑・ファジー小説

第3章「遠のいた未来.1」 ( No.8 )
日時: 2013/07/04 19:41
名前: 黒金 (ID: vLjWsTsT)

「私は無駄な事をしたくない」
しかし、帰ってきた言葉は冷たかった。無駄、だと言うのだ。それはつまり、いわゆる才能が無い事を告げられたのだ。
「…俺に大人しく死ねって言うのか?」
そして一つの疑問が脳裏に浮かんだ、この女は全てを知っている、と言った、俺が何時死ぬかも知っているということになる、病死、事故死、これらが絡む物だとしたらこの問いには釣られない、そして今あるこのもやもやした物が、もし合っているのだとしたら。どうなのだろうか、自分でも分からない。だが、聞くことは、止められなかった。
「私が守る、だから君は死なない」
「いつか俺が殺されるのを知ってるんだな」
「………」
いつも冷静で常に俺を導こうとしてきた女が、始めて迷っていた。常日頃から疑問だったのだ、なぜ俺なのか、と。彼女はきっと未来での俺を知っている、それがどのくらいかも分からない。ただ一つ言える事は
「俺は何回お前の見た中で死んだ?」
という疑問だった。
繰り返し何度も同じ光景を見てきたから返事を用意できるのだろう、そして迷ったという事はまた違う結果が生じたからなのだ。そして彼女は今俺を守る事にやっきになっている、となれば近いうちに危険があるという事になるのだろう。質問に対し答えあぐねている女は小さな声で呟いた」
「…レイル」
「なんだ?」
そして返事は帰ってこなかった、だが、待つ。彼女は今考えているのだろう、新しい可能性を、そして彼女の選んだ可能性はこれまで己を助けてきた。成長させてくれた。しかし男は、彼女を信用している事に気付く事は無かった。
「君は何回繰り返しても変わらない。何回も、何回も、何回も、繰り返したけど、君は必ず変わってしまう。私は、それでも、それでも……」
随分と無茶苦茶な文脈で言葉を繋げる女、そこには普段の堂々とした姿は無く、あの時会った弱い少女が重なった。それきり女は俯き、言葉を止めた、何も言う事ができず、待つのだ。そして暫く女の姿を見ていては、顔を上げ…「ごめん」と呟いた気がした。ただ其れを考える暇は無く彼女の手が一瞬煌めき、視界は暗転した。