複雑・ファジー小説

第3章「遠のいた未来.2」 ( No.9 )
日時: 2013/07/05 23:51
名前: 黒金 (ID: vLjWsTsT)

なんだか身体がフワフワする、空気になったみたいな、服の重みも感じない。それに、とても暖かく、凄く落ち着く。此処は何処だろうか、真っ白で何も見えない。俺はどうしたんだろうか、俺は...
「っ......!?」
眼を覚ましては周囲を見渡す、其処にはいつもの家の内装があり、ベッドに両手を縛りつけられていた。何があった、分からない。ただ言える事としては、嫌な胸騒ぎがする事と黒髪の女が其処に居ない事である。
どうも相当きつく縛りつけられているようで力を加えても動く気配すらしなかった。
「ミラ....あいつ....」
そして、ごめん、という言葉が脳裏に浮かぶ、一体彼女は何をしているのか、剣まで無くなっている徹底振りで脱出する事はほぼ不可能である、右肩の傷が完治しているあたり治療をされたのだろうが。いかんせん分からない、彼女の全てが、分からないのである。
そして少し落ち着き状況を整理しようとすれば、外で雷を伴う雨が降っている事に気が付く、それも結構な勢いである、風はそんなに強く無いが、とても暗雲とした気持ちにさせる。何だ、この胸騒ぎは、俺は知っている気がする。この先何が起こるのかを、知っている気がする、ただそれだけの筈なのに、不安に押しつぶされそうになっているのだ。前にもこの感覚は見に覚えがある、そして、考える時間は無くなった。
「.....大丈夫か!?」
考えていては赤髪の男がドアを蹴り開け飛び込んで着たのである。見覚えのある男は焦った様子で、とても憔悴していた。明らかに冷静さを欠いている、まるで、俺のようにだ。そして男の背後に小さな黒髪がなびいた気がした。
「後ろだ!」
気付いたら咄嗟に叫んでいた、その声を頼りに男は前かがみに倒れ込みベッドに座るようにして背後を向く、そして、黒髪の女は言うのだ。
「この事象はもう25,371回も見てるの、無駄だよ?」
と、男は言葉の意味を理解できていない様子だったが、自分には理解できたのだ、少なくともこの女は、それだけの回数、この場所で同じ事をしたという事だ。
「レイル、考えたら駄目だよ、感じないと、君は駄目になっちゃうからさ.....」
そしてその言葉を聞いた赤髪の男は言葉にならない雄たけびを上げて腰にぶら下っていた剣を引き抜きベッドの上で立ち上がりながら斬りかかった。そして、俺は初めてこの男が泣いているのを理解した。
「1,627回目...」
そして女は、それだけ呟いて片手を煌かせた。そしてその瞬間に女の言葉を理解する事となる、それもそうだろう。自分の真上で、何の前触れも無く圧死体が出来上がったのだから。言葉が出なかった。嗚咽も何も、でる事は無かった。ただひたすらに、脳が思考する事を拒んだ。それを見透かすように女は続けて
「私が君を守るの...私がいないと、君は駄目になっちゃうからさ....レイル、愛してるよ...」
背筋が凍るのを実感した、狂っている、完全にイカれている。果てしない恐怖が目の前で呼吸をしているのだ。怖かった、そして、男の中で何かが弾けた。この女を使えば、復讐は簡単に済むんじゃないだろうか。そして男は自分が壊れているのを実感しながらも
「...愛してるよ.....」
と呟くのだった。