複雑・ファジー小説

Re: 【初めまして!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.21 )
日時: 2013/07/09 22:08
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

■CHAPTER11■ 師弟の関係-An old teacher-


ここはウェルリア国の城内。談話室。
そこでは、この国の兵士たちを【学校】で育て上げてきた、所謂いわゆる【先生】と呼ばれている人物たちが、ふかふかの椅子に座って自由にくつろいでいた。
彼らの胸には様々な勲章や階級バッジが光っている。

「しかしヨハン先生。惜しいことしましたなあ」

舌が火傷するくらい熱いお茶をすすりながらそう言ったのは、黒の巻きひげが自慢のソラリ=ルーガル氏だった。
続いて、人目もくれずに一人で黙々とあやとりをしていたミメア=カンガジア氏が口を開いた。

「そうだわよ。あの子、特に立派な成績を修めていたから、兵士としても将来有望って期待してたのに」

それを聞いていた初老のヨハン=ファウシュティヒ氏は深くため息をついた。
いつも以上に老いた感じが否めない。

「だがなあ。あの子は兵士が簡単に逃げ出せんようにと高く造ってあった塀を乗り越えるわ、国が整備するセキュリティーを突破するわ……。捕まえたと思っても、またすぐに逃げ出すんだぞ……」
「ハッハッハ。ま、元気でなにより、ですけどな」

体を揺すって笑うソラリ氏。
自慢の巻きひげをピンと引っ張ると、ふと思い出したようにヨハン氏に言った。

「ヨハン先生。ところでその生徒、なんという名前でしたかな?」

ヨハン氏は沈むように座っていた椅子から立ち上がると、近くの窓から遥か遠くに見える城下町を眺めた。そして呟いた。

「イズミ君だよ」

刹那、談話室に静寂が訪れる。
その後、ヨハン氏は他の先生を振り返ると、「ところで」と話題を切り替えた。

「【奴ら】が現れたんだってな」

ソラリ氏が頷く。

「ああ、まだ確定ではないですがな。うちのAクラスの兵士二人から先程報告を受けた。城に戻る最中、突然、顔にバンダナを巻いた複数人の男達に取り囲まれて【小箱】を奪われたのだと」
「【小箱】とは……?」

ヨハン氏の疑問に、ミメア氏が答える。

「中身は粉々になった【水晶玉】だそうだわよ。Aクラスの兵士二人がなぜそんなものを持っていたのかは不思議だけれども。【バンダナの男たち】はその【小箱】を奪うのが目的だったと見て間違いないだわね」
「ソラリ先生、確か二人は道端で襲撃されたと言っていたな。……【小箱】を奪うのが目的だったのなら、それは計画的な襲撃と見て、ほぼ間違いないか」

ヨハン氏の言葉にソラリ氏が腕を組む。

「そうですな」
「問題は何故【バンダナの男たち】が、【小箱】を持っているのがAクラスの兵士二人だと知っていたのか」
「少なくともその【小箱】も、うちの兵士が国民から奪い取ったものに違いないです」
「そのことについてはあとで厳重に処罰しなさい。しかし……」

ヨハン氏はそこまで言って、不穏な表情を浮かべた。

「近年、【奴ら】に不穏な動きがあったと警戒していたが……まさか本格的に【ファーン家】の奴らが動き出したとは……」
「まだ定かではありませんが」
「そうだな。しかし、もしもの場合もある」
「【奴ら】がこの城に攻めて来るとでも……」
「ソラリ先生、ミメア先生。私は今からこのことを国王様に報告してくるとしよう」

ヨハン氏は早い足取りで談話室をあとにした。
談話室に取り残された先生たちは、ただ押し黙るしかなかった。

Re: 【初めまして!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.22 )
日時: 2013/07/10 00:54
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

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ウェルリア国城下町。とある場所に位置する時計店。
店内はいつも以上に賑わっていた。
キリを筆頭に、リィ、イズミ、アスカ、そして店主のクラーウ氏。
アスカの相棒であるシマフクロウのシィもお忘れなく。

キリは時計店内で、「ウェルリア・ラプール島最終便」でそろそろ本島へ帰宅してしまうリィと、束の間のひとときを過ごしていた。
その間、男衆三人は、キリとリィの邪魔にならないようにと気を利かせ、アスカは黙ってペットのシマフクロウのシィに餌をやり、店主のクラーウ氏はイズミに手伝ってもらいながら無言で時計修理の作業に励んでいた。


それから少ししてキリが叫んだのは、部屋中の時計が午後3時をさした時だった。

「船は午後四時出航なの。私、リィさん見送りに行ってくるね」

男衆が揃って頷くと、キリは満面の笑みを浮かべながら「じゃあ行こう、リィさん」とリィの背中を押して店から出ていった。
帰りがけにリィが丁寧にぺこりとお辞儀をしていった。


「……っはああああああ〜〜〜」

キリとリィが出て行くと、直後、アスカが溜めに溜め込んでいた息を吐きだした。


「疲れたあああ……」
「お疲れ様です、アスカ王子」

イズミがにっこりと笑ってアスカに飴玉を差し出す。

「ハイ。これ、頑張ったご褒美です。どうぞ」
「子供扱いすんなっ」

そう言いながらも、ちゃっかり飴玉を受け取るアスカ。
飴玉を口に放り込むアスカを間近で見ながら、イズミは思ったことを質問していた。

「アスカ王子。家出しているのに、キリさんについて行っても大丈夫なんですか?」
「なんで」
「キリさんはあの【小箱】を取り返しにお城へ行くんです。君がお城へ行ったらそれは酷い騒ぎになりますよ。王子が帰ってきたって」
「そういうお前もなんじゃないの?」

アスカはイズミの顔は直接見ず、作業に没頭しているクラーウに視線を投げながら言った。

「最高ランク・Sクラスの兵士のくせに」

その言葉に無表情を努めるイズミであったが、それでも微かに自分の頬が引きるのがわかった。
アスカはそれに構わず、続ける。

「あのヨハン先生のお弟子さん"だった"んだろ? オレの父さん……あ、国王な? ……とよく話してたからな、ヨハン先生。……お前の話ばっかしてたぞ。優秀なやつだ、って」

「……あくまで過去のお話です。僕は集団行動ってやつに向いてなかったんです。自分の自由もままならなかったですし。そう、文字通り鳥籠とりかごから逃げ出してやったんですよ。……君も城から逃げてきたんでしょう? なんで王子なのに…………」
「わかりきったことを聞くなあ、イズミのくせして。……別に。城に嫌気が差しただけだ」
「じゃあなんで城に戻るんですか? 連れ戻されてしまいますよ?」

イズミの問いに、アスカはふっと表情を緩めた。

「アイツと約束したからな。【小箱】の中身を、直してやるって」

そこまで言うとアスカはイズミにびっと鋭く人差し指を突きつけた。

「一つだけ忠告しとく。流れとは言え、城から逃げてきたのに城に戻らないといけなくなってしまったのはオレもお前も同じだ。バレないように変装はしていくんだと思うけど、城内では気をつけろよ。あの兵たちのことだ。お前を連れ戻しに掛かるに決まってる」
「ご心配ありがとうございます、アスカ王子」

「あっ! と、もう一つ!」

思い出したように声を上げるアスカ。
イズミが何事かと目を丸くしていると、アスカが咳払いをして、言った。

「アイツの前ではオレのことを【王子】って呼ぶなよ。アイツはオレの正体を知らないほうがいい。もし仮にオレが城に連れ戻されることになってもアイツは俺の正体を知らなかったってことで【誘拐罪】には問われないだろうし。逆にアイツがオレの居場所を国側に吹き込むという可能性も考えられなくもない。……ま、アイツに限ってそんなことはないと思うが…………だから、どっちにしろ、オレが【王子】だってことは、アイツには知られちゃダメなんだ」
「そうですね……」

あれだけバレそうな状況がたくさんあって、気づかない方がおかしいと思うけどな……。
そんな言葉を喉元で押しとどめて、イズミは笑顔で了承する。

「承知しました。アスカ"王子"」
「だから、それをやめろって!」
「なんでっ。今キリさんいないじゃないですかっ」
「普段から意識しろっ!」
「仕方ないじゃないですかっ。兵士の時の癖がですねえっ……!」

言い合いをしている二人を横目に見ながら、作業に集中していたクラーウは軽くため息をついた。

「こんな状態で城へ潜入とは……先が思いやられるわい」

横で毛繕づくろいをしていたシィが、心配そうにホウと鳴いた。

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