複雑・ファジー小説
- Re: 【感想お願いします】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.23 )
- 日時: 2013/07/10 00:52
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
■CHAPTER12■ 不穏な行動-He telephones-
「んん〜〜っ!」
大きなあくびを一つ。
キリは目をこすって、それから思いっきり伸びをした。
そして窓に近寄ると、ガコンと音を立てて上下開閉式の窓を開けた。
現在の時刻は午前5時過ぎ。朝日が水平線の向こうから微かに顔を出していた。
「しまったな……やっぱり自分の布団じゃないと、早くに目が覚めちゃうや……」
朝日の光に目を細めながら、キリはクラーウ時計店の2階の窓から顔を出した。
風が頬に当たる。
潮の匂いが遠くの海から風に乗ってほのかに鼻を掠めた。
キリが一晩明かしたこの部屋からは、ウェルリア国城下町が一望できた。
特に周りに高い建物は無い。
唯一高い建物といえば、街に時刻を知らせてくれる時計塔の存在だった。
銅で出来た鐘が吊り下がっている時計塔は、ウェルリア国のシンボルと化してした。
「あっちの方向に、ラプール島があるのかな」
視線を向けた先にはただ真っ青に透き通った海が広がっていた。
キリは昨日お別れをしたリィの顔をふと思い浮かべる。
「リィさん……」
その名前を呟くと淋しい気持ちが胸を満たすが、すぐに頭をブルンブルンと左右に振り、窓枠をギュッと握り締める。
——自分で決めた道だもん。【小箱】を取り返して、リィさんのところに早く帰るんだ。
そんな難しいことじゃない。
強い想いを胸に、しばらく見慣れない景色を眺望していたキリは、遥か向こうに目的地であるウェルリア城を見つけた。
大きな湖の中央部に突如として建てられた城。
城の周りは当然のように湖で囲まれているのだが、ある一定の時刻になると、城へと続く一本の道が湖の下から現れるのだった。
潮の満ち引きが関係しているのでは、とは学者の見解だ。
そもそも何故、湖の中央部という不便なところにこの城は建っているのか。
それには、ウェルリア国の歴史が深く関わっていた。
今から約200年前、ウェルリア国一帯は、10年前の【大革命】が起こるまで、【ファーン家】一族によって統治されていた。
建国当初は、農業を中心に、平和に暮らしていたウェルリア国民。
しかし、王位がファーン三世へ継承されてから、ウェルリア国は隣国と激しい戦争を始めたのだった。
そのまま次々と周りの国に攻め込んで行き、気が付けば周囲の国からは、ウェルリア国は【悪魔の国】だと恐れられるようになっていた。
もちろん、戦争は攻め込んで行くだけではない。攻め込まれることもある。
他国に簡単に侵略されないようにと、当時のファーン三世は"湖"に"城"を造るよう命じたのだった。
その城は、まるで湖に浮かんでいるようであった。
——しかして、この当時建てられた城と現在の城は、"別物"である。
現在のウェルリア城は【革命後】に建築されたものだ。
というのも、ファーン家統治時代に建てられた【ファーン城】は【大革命】の時に反政府軍によって破壊されたのだった。
【大革命】が起こった理由にも、辛く長い歴史がある。
最初のうちは有利に進んでいたウェルリア国の他国侵略。
が、それからしばらくして。ファーン八世の時代。
次第に戦況は悪化してきた。それによって国は財政難に陥った。
物資は減り、国民は貧困に苦しむしかない。
そのような生活が続いていた国民の間で、次第に反ファーン派が勢力を増していった。
そして遂に、今から約12年前、ファーン八世の補佐役であった"呪術師"が暗殺される事件が起こる。
それが発端となり、"呪術師暗殺事件"から2年後、当時の王政に「異議あり」とばかりに畳み掛けるようにしてウェルリア国最大の革命が起こった。
ファーン一族は反政府軍の武力によって抹殺され、ファーン家によるウェルリア統治時代は終焉を迎えた。
そして新しく王位に君臨したのは、革命の中心人物であった"とある農民"だった。
現在のウェルリア国王、ライベル=ウィルアその人である。
しかして、その【ファーン家】が近年、【ウィルア家】に復讐しようとしているという誠しなやかな噂がウェルリア国中に広まっていた。
革命からちょうど10年。
ファーン家一族は滅亡したはずだが、その手の内の者が密かに集結して、ウィルア家を狙っているというのだ。
それを聞いて恐れおののいたウィルア国王は、警備を今まで以上に厳重にし、兵士たちに湖に城を造るよう命じたのだった。
皮肉なことにウィルア国王が中心となって破壊したファーン城は未だその湖に沈んでいる。
が、その瓦礫の山は回収することなくそのままに、そこから離れた場所にこのウェルリア城を建てたのだという。
「あー……お腹すいたなー……お腹ー」
窓から陽の光をたくさん浴びて満足したキリは、窓から離れて、お腹をさすりながらぼやいた。
「そだ。下の台所になにかないかな」
ギイイ……と軋んだ音を立ててドアを開ける。
狭い廊下に出る前に部屋の中からこっそりと周囲の様子を伺う。
どうやらまだアスカ達は別々の部屋で就寝中のようである。
「いざ、食料を求めて……!」
強く右手を握り締め、キリは寝巻きのまま、ゆっくりと階段を降りていった。
皆を起こさないように……そーっと、そーっと……。
不意に、階下で人の話す声が聞こえた。
ボソボソと喋っている。男性のようだ。
「…………?」
こんな時間に誰だろう、と、キリは静かに手すりから身を乗り出して階下を覗き込んだ。
- Re: 【感想お願いします】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.24 )
- 日時: 2013/07/11 04:25
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
そこには、時計店の受話器を耳に押し当てたイズミの姿があった。
誰かと電話をしているようだ。
「なあんだ、イズミさんかあ。ビックリしたあ」
胸を撫で下ろし、キリはそのままどんどん階段を降りていく。
降りると同時に、イズミの声もだんだん聞き取りやすくなってきた。
微かにだが、聞き取れる位置まで来た。
イズミは電話に集中しているのか、キリが階下に降りてきていることには、気がついていない。
「……で、…………そうか。よろしく頼みますよ。……はいはい。ではまた後ほど、……様」
電話を終えたイズミはふうと深い溜息をついて——キリに気がついた。
「えっ? うわっ……。き、キリさん?! い、いいいつからそこに?!」
「さっきからだけど」
「さっきって、え、……そんな。まさかこんな時間に降りてくるとは……」
気がつかなかった、と、珍しく慌てふためくイズミに、キリは「ああ」と気楽そうな声を出した。
「心配しないで、イズミさん。電話の内容、さっぱり分からなかったから♪」
ケロっとした口調のキリ。
イズミはひとまず、コイツが馬鹿で良かったと安堵した。
「で? 何の話してたの? こんな時間に。誰と?」
畳み掛けるようなキリの質問に、イズミは冷や汗を流しながら答える。
「あ、あれですよ。色々あるんです、僕も」
「ふうん」
ここで更に問い詰めたくなるのが人間の性。
しかしキリの心中は、好奇心よりも食欲の方が優っていた。
「ところで何か美味しいものないかなあ〜〜」
イズミに背を向けてキッチンに向かおうとするキリ。
その肩をイズミが軽く掴んで進行を阻んだ。
「キリさん」
「へ。あ、ハイ」
間の抜けた返事をして、イズミを振り返る。
「何か用ですかね、イズミさん」
「一つお聞きしたいことがあるんです」
「うん」
「アスカ、くんのことについて、なんですけど」
「アスカ? アスカがどうかした?」
「キリさんはアスカくんのことについて、どのくらい知ってるんです?」
「……ハイ?」
突然の質問だった。
キリは思わずあっけにとられた様子でイズミを見上げていた。
「どのくらいって……それ、どういう意味?」
「あ、いや、まあその…………色々ありまして」
電話が終わった直後から、イズミが妙に挙動不審だ。
キリは訝しがりながらも、指折り答えていく。
「えーっとね、アスカはフクロウ飼ってるでしょお。なんか突然走り出すでしょお。女のことを見くびってるでしょお。王子探してるでしょお。平民って言ってたでしょお。なんかに怯えてるでしょお。……このくらいかな」
「…………」
「イズミさん?」
「本当に、それだけですか」
「うん」
「それだけ、ですか」
「うん」
「……そうですか…………」
予想はしていた、が。
イズミは思わず口の中を噛み締めていた。
——いくらなんでも、鈍すぎだろ。なんなんだ、この女は。
アスカがウェルリア国王位継承者第一王子であるのは、読者の皆様も知っての通り。
イズミも当然知っているのだが、キリは気づいていないという。
こんなにそばに居るのに。
そのことについて、イズミは納得出来ないでいた。
「ありがとうございますキリさん。お答えいただいて」
「いやいや〜」
気楽に返事をして、キリは再びキッチンに向かっていた。
その後ろ姿を眺めながら、リビングに一人残されたイズミは凝然としていた。
——まあでも。
自問自答するように心の中で呟く。
——アスカ王子の正体を知られていない方がこれから遂行する作戦に支障は出ないだろう。……アスカ王子には悪いけど。
そしてちらりとキッチンの方を見た。
キリは何食わぬ顔で他人のキッチンからクラッカーの缶を取り出していた。
何も知らずに。
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