複雑・ファジー小説

Re: 【7/10*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.27 )
日時: 2013/07/11 04:17
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

■CHAPTER13■ 旅立ち-It is meaningless.-


ゴーン…ゴーン…ゴーン…。

鐘が七つ鳴り響く。
時計塔が午前7時を知らせた。
キリ達は朝食を済ませると、各自で身支度を整えていた。いよいよ出発だ。

「……よしっ」

腰に短剣を提げて。
姿見で自分の姿を確認したキリは、満足げな表情でその場を後にした。

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「忘れ物はないかー?」

支度を終えて集まった時計店の玄関先で、キリとアスカとイズミは、クラーウから再度確認を受けていた。

「うん、大丈夫っ!」
「無茶するんじゃないぞ」
「うん!」

満面の笑みで答えるキリ。
横で見ていたアスカは心の中で、本当に大丈夫なのかよ、と、ぼやく。

「じゃあお爺さん、行ってきまーす!」
「気ぃつけてなあ!」

手を振って、キリ、アスカ、イズミは城を目指して歩き始めた。
フクロウのシィはクラーウの肩にとまってお留守番。
名残惜しそうにアスカを見て、弱々しくホウと鳴いのだった。

++++++++++++++++++++

しばらくして。

「お腹すいたあ〜。休憩〜」

立ち止まって、クラーウに持たせてもらった弁当箱をいそいそと開け始めるキリ。その手を強引に掴んで止めるアスカ。

「まだ歩いて30分も経ってないんだぞ。我慢しろ」
「お腹すいたんだもんー」
「さっき朝食食べたばかりだろうが! しかも食パンを5枚頬張ってたのは何処どこのどいつだ?!」
此処ここのコイツでーす!」
「分かってんだったら、食べるな!」

アスカの言葉に、キリはぶつくさ言いながら肩からかけていた鞄に弁当箱を仕舞いこんだ。
その様子を見て、イズミが苦笑する。

先程からこの繰り返しであった。
少し歩いては「お腹すいた」少し歩いては「お腹すいた」——一体、キリの胃袋はどうなっているのか。

確か朝食を食べる前にクラッカーを食べ漁ってたよなあ、この女——と朝のことを回想していたイズミだが、朝のことについてはあまり蒸し返したくなくて、心の中にそのことを留めておく。


三人は、特に邪魔者に阻まれることもなく、順調に城への道を歩き続けていた。
出発から1時間程歩いたところでイズミが休憩をしましょう、と提案した。
歩き疲れた二人が賛同して、近くの木陰で一時休息タイムとなった。
アスカは木の幹にもたれかかってぐったりとしている。キリは、やっとご飯にありつけるとばかりに勇み足で座り心地の良い岩を見つけて腰掛けると、鞄からおごそかに弁当箱を取り出した。
丁寧に包みを開き、かぱっと弁当箱の蓋を開ける。
そこには、色とりどりの野菜が、そしてケチャップライスが詰められていた。一気にキリの目が輝く。

「いっただっきまあーす!」

物凄い勢いで手を合わせ、早速ご飯にありつこうと——。

「おい! そこの者っ!」

声をかけられたようだが、それよりも今は食事だ。食事。
何事もなかったかのように、キリはトマトを1つ、口に含む。

「無視するでない! こら、そこのボンクラむすめっこ!」

甲高い声と共に、キリの目の前から弁当箱が突如として消え去った。
悲鳴を上げて弁当箱の行方を追ったキリは、弁当箱をふんだくってむくれている一人の子どもと目が合った。

われは王子であるぞ!」

子どもは、確かにそう言った。

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次⇒【CHAPTER14 虚偽の王子-Sister-】>>28

Re: 【旅立ち】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.28 )
日時: 2013/07/11 23:18
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

■CHAPTER14■ 虚偽の王子-Sister-


われは王子であるぞ!」

キリの弁当箱を奪い取り、目の前の子供は確かにそう言った。
王子。王子。王子。キリの頭の中でその言葉が無数に反響する。
しかし、キリは構わずに、涙目で弁当箱を返せと訴えた。
"王子"と名乗った子どもは怯んだように黙り込み、すぐに言い返す。

「……っわ、我は王子であるぞ! 無視することないであろう!! 弁当を返して欲しければ、ちゃんと謝るのだっ!」
「分かった、分かりましたああ。ごめんなさい〜〜。もう無視しないから。だから、お弁当返して〜〜」

食料を取り返すためだったら、どんな恥ずかしいことでもやり遂げるキリである。
情けない声を出して、ひたすら弁当奪還を求める。
その様子に、推定年齢6歳ほどの子どもは満足そうにふんぞり返ると、

「しょうがないのう。謝られたら、返すしかないな。ほれ」
「ありがとう、王子様!」

キリは差し出された弁当箱を満面の笑みで受け取った。
そして、

「……ん? 王子、様?」

子供の顔をじっくりと見た。
そのまま、ゆっくりと呟くように、言う。

「ねえ、キミ、女の子だよね」
「違うぞ! 我は王子なのだ!!」
「えー……。どう見ても、目がクリクリした、可愛い女の子にしか見えないけど……」
「えっ、そ、そうか? 可愛いか? ……っではなく、ゴホン。我は、王子なのだ! 誰がなんと言おうとも!!」
「うっそおお……」
「王子と言ったら、王子なのだ!! 王子なのだあああ!!」

ジタバタと暴れ始めた少女に、それまで木陰で休んでいたアスカが無言で近づいていった。
かと思うと、いきなりその頬をギュッとつねる。

「ひててててっ!!」

涙目の少女に、キリがもう一度問う。

「ね、キミ、女の子だよね」
「だあから、我は王子で……!! …………ひてててっ」

涙目で暴れる少女、その頬を無言で引っ張っているアスカ、問い詰めるキリ。
イズミはその光景を傍から見つめながら、

「これは、立派な集団リンチですね……」

呟いたのだった。


そんなイズミの存在に気づいた少女。
手を伸ばして助けを求めた。

「イズミしゃああん! 助けてなのだああっ」

キリとアスカがその言葉に瞬時に反応した。

「……イズミさん。この子と、知り合いなの? なんでイズミさんの名前を知ってるの?」

とキリ。

「おいイズミ。なんでコイツがこんなところにいるんだ。説明してもらおうか……!!」

とアスカ。

イズミの頬に冷や汗が伝う。
と、少女が口を開いた。

「イズミしゃんは我の下僕しもべであるぞ! な、イズミしゃん?」
「……ユメノ様、…………もう、大丈夫です。ハイ。お付き合い、ありがとうございます……」
「なに? もう王子の真似はしなくても良いのか? ふうっ。それは良かった」

自己完結型にそう言うと、ユメノはアスカを見据えた。

「やはり王子とは堅苦しいものだな。な、アスカ兄上」
「……兄上…………?」

少女・ユメノの言葉に、キリは思わず首をかしげる。
そこにアスカが慌てて割って入る。

「あっ、あっははははははは!!」

笑ってから、アスカはユメノを素早く振り返り、素早く頭をはたいた。
その顔は焦燥感たっぷりだ。

「こらユメノ! 何言ってんだ! 兄上言うなっ!!」
「え〜〜。良いではないかあ。どうせ城では一人だし。遊び相手といえば、お世話係のウィンクだけ。……奴はドジな上にバカだからユメノの遊び相手としては暇を持て余すのだー。だから、兄上といたほうが楽しいのだ!」
「んな問題じゃないっての!! ……って、お前…………」

ユメノの言葉に、アスカの顔からサッと血の気が引いた。

「今、"城"って……言ったか」
「言った。それがどうかしたのか? ユメノたちの住んでいる"ウェルリア城"のことだが……」
「わあああああっ!!」

アスカの叫び声に、キリは驚いた。
そしてユメノの言葉を反芻する。

「"ウェルリア城"……?」
「あ、い、いや、それはそのっ……!!」

どうすることも出来ず、ひとまず頭を掻いてごまかすアスカ。

イズミはその様子を内心ハラハラと見守っていた。
どうすることも出来ないので、黙って見ているしかない。


——しかし…………。

イズミは心の中で、一人ごちた。

——この女、やはりもうアスカ王子のこと、気がついているんじゃないか……?そうじゃないと、いくらなんでも鈍すぎる。
というか、バレているバレていない云々よりも、もはやこの妹さんが素でアスカ王子の正体をバラしにかかっている。

「ねえ、アスカ。顔色悪いけど……」
「な、なんでもない! 大丈夫だ。いや、本当に。……とにかくキリ、コイツ(ユメノ)には構うな」
「兄上〜。この者はなんなのだ? 兄上の彼女なのか?」
「いっ……?!」

そう言ってアスカの後ろからひょっこりと顔を出したのはユメノだった。
アスカの表情が固まった。
キリは"彼女"という言葉の意味が理解できておらず、首をひねっている。

「ちっ、違うっ……!!」
「じゃあなんで一緒にいるのだ?」
「こっちにも色々とワケがあるんだよっ!」
「やはりアレか、"駆け落ち"ってやつか」
「違うっ! というかお前、どこでそんな変な単語を覚えてきた。……さてはウィンクの仕業だな」
「いやあ、"昼ドラ"というのは面白いモノだな。この前ウィンクがビデオを持ってきてくれたので、一緒に鑑賞会をしたのだぞ」
「あんのメイドっ……!!」

6歳の少女に、ドロドロ不倫三角関係ネタ満載の昼ドラを見せる"お世話係"がどこにいる。
アスカは頭を抱えた。
それを横目に「そう言えば」とキリがユメノに尋ねる。

「ユメノちゃん、だっけ」
「そうなのだ。ユメノ=フィファルーチェ=ウィルアであるぞ! ここに来たのは、今朝イズミしゃんに電話で呼ばれてなのだが……」

その言葉にイズミがギクリと身を震わせた。
全く、要らぬ事まで喋ってくれる娘である。

怒りに震えていたアスカが、イズミに詰め寄り、

「おいイズミ。どうしてユメノを呼んだんだ」
「だ、だってですよっ、お城に入るには証明用のカードを出さないと入れないじゃないですかあ。ホラ、特に今、城は、反政府軍を警戒していますし。おかげで近年、入門チェックも厳しくなったと聞きます。僕だけ侵入するならまだしも、アスカ王子とキリさんの三人で"潜入"となると……。とすると、ウィルア家のお嬢様のお力を借りてですね……」
「そ、それだったらオレも王子だぞ! お前も元々兵士じゃないか!」
「しかし、アスカ王子と僕はお城から逃亡中の身なんですよ? もし城に入れたとしても、同行していたキリさんは牢屋行きとなる可能性だって……!」
「んなの、まだバレてないんだから大丈夫だろ?! それに、なんでよりによってユメノなんだよ。オレ、ユメノ苦手で…………!!」

キリをそっちのけで話がヒートアップしていた二人は、「ねえ、」とキリに声をかけられ、思わず我に返った。

「……ねえ、さっきから"王子""王子"って、……アスカって、王子なの?」

……どうやら地雷を踏んでしまったようだ。

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