複雑・ファジー小説

Re: 【旅立ち編】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.33 )
日時: 2013/07/11 23:03
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

■CHAPTER16■ 追跡者の考察2-Give and take-


「ギブアンドテイクだ」
「ぎぶあんどていく……?」

オウム返しするリークに、ノアルが頷く。

「つまり、僕が一つ情報を提供する代わりに君たちも僕たちに一つ、僕たちの"知りえない情報"を提供してくれ、ということだ」
「なるほどな。"目には目を、歯には歯を"、ってわけか……」
「キメ顔で呟いてるけど、使い方間違ってるよ、リーク」
「う、うるせえフィアル! ……っ分かった。俺たちの持っている【手がかり】を公開するよ」

その言葉にフィアルが頷いた。
ポケットを探り、【水晶玉の欠片】を取り出す。

「これは……?」
「これは、ボクたちが襲撃された時に奪われた【小箱】の中身の一部です」

ノアルに【欠片】を手渡す。

「何かしら『イズミ探し』の手がかりになるかもしれない。その【欠片】について詳しく調べて欲しいんですよ。貴方がたの優秀な頭脳を駆使して」
「あらあ、可愛いこと言うじゃないの? ボウヤ」
「アロマさん。こう見えてボクもリークもイズミと同い年の17歳です。ボウヤじゃありません」
「20歳の私から見たら、十代なんてみんな子どもよ」
「そう言うアンタも、俺らと年齢、そう違わないじゃん……」
「言ったわね。ツンツン頭!」
「ツンツン頭じゃねえ! リークだ!」
「Aクラスのくせに生意気言うわね、あんた!」
「なんだとっ?!」
「まあまあまあ」

言い合いを始めたリークとアロマの間に割って入るノアル。

「今回はクラスは関係ない。僕たちは仲間だ。同等に接しようじゃないか」
「っ……。分かったわよ」

うな垂れたアロマに笑顔を向けると、「なるほど」とノアルはフィアルに向き直った。

「うん、分かったよ。僕のこの頭脳と現代の知恵を結集させて、この【欠片】の正体を暴いてみよう。確かに、なんだか禍々しいオーラを感じる……」

【水晶の欠片】を一通り眺めたノアルは、その【欠片】を大事そうにポケットに仕舞いこんだ。

「じゃあ、今度は僕たちの番だな」
「お前らの情報、公開してもらおうか」

リークは最早もはやSトリオの面々に対して敬語を使う気は無いようだ。
別段そのことを気にする素振りは見せずにノアルは軽く頷くと、急に声を潜めた。

「実はな。今、ユメノ皇女様が城を脱走しておられる」
「はいいいい?!」

——アスカ王子に続いて、今度は妹のユメノ皇女まで?! なんつう手薄な警備なんだっ……!!
リークは城の警備体制に対して不信感を抱いた。
すると、そんなリークの思考をすかしたのか、チッチッチッと指を振るノアル。

「今回のは、フェイクだ」
「は?」
「つまり、ユメノ皇女様は"自ら"城を脱したと思っておられる。けれど、それは城側が"わざ"と見逃した脱出だったんだ」
「どういう意味だよ」

聞き返すリークに、アロマが「これだからバカは面倒なのよね」と呟く。
食ってかかろうとしたリークを、フィアルが押しとどめる。

「Aクラスのボクらには理解しがたいのですが……つまり、ユメノ皇女様を"泳がせた"ということでしょうか」

フィアルの言葉に、ノアルが頷く。

「なかなか鋭いな、君。そうだ。ユメノ皇女様が城を抜け出した理由はただ一つ。"アスカ王子"の元へ向かった【可能性】が高い」
「たかが【可能性】だろ」
「ところが、有益な情報が流れ込んできたんだ」

ひと呼吸置いて、ノアルは続ける。

「今朝方、ユメノ様が何者かと【電話】をしていたというのだ」
「【電話】を……?」
「しかも午前5時頃に、だ。これは怪しさ極まりないだろう」

ノアルの言葉に、フィアルが頷く。

「なるほど。皇女がその【電話の相手】と落ち合ったということですか」
「その可能性は十分示唆される。その【電話の相手】が"アスカ王子"なのか第三の人物なのかはもう少し詳しく電話回線を分析しなければ分からないのだがね。明け方午前5時頃なんかに電話をするというのは、ユメノ皇女様がよく知った人物である可能性が高いと」
「それが今城を逃げ出している【アスカ王子】だという訳、ね」

アロマが知った口ぶりで結論をだす。
頷くノアル。
そこでリークが口を挟む。

「さっきから聞いてれば【可能性が高い】だの【その可能性は十分示唆される】だの……。そもそもその【電話】をしていたって証言は、誰の証言なんだよ」
「ユメノ皇女様のお世話係兼メイドである、ウィンク女史の証言だ」
「ユメノ皇女のお世話係の……」

それは信用できる情報源である。

「そうだ。しかも民衆たちの噂を聞くところによると、イズミはアスカ王子と行動を共にしているらしいんだ。つまり、」

ここで勝ち誇ったように笑みを浮かべてノアルが人差し指をビッと立てる。

「ユメノ皇女様を追っていけば、少なからず奴らの居場所は把握できるというわけだ」

ノアルの発言を一通り聞いて、今まで黙っていたファズが口を開いた。

「そうとなれば、早くユメノ皇女の後を追わないとっすね」
「まあ焦らないでくれ。フフフ。ユメノ皇女様にはもう少し"泳いで"もらおう」

小脇に抱えていたパソコンを起動させながらノアルが言う。

「これを見てくれたまえ」

立ち上がった画面を見せる。
リークたちが覗き込むと、そこにはウェルリア国の詳細な地図が映し出されており、その上には赤く点滅している小さい丸がゆっくりと移動していた。

「これは……?」
「ユメノ皇女様の居場所だ。少々発信機を取り付けさせてもらってね。この動きを見る限り、ユメノ皇女様は城へと引き返している」
「つまり、イズミたちと合流して、【小箱】を取り返しに城へ向かってるんだ……!」

リークの歓喜の声に、フィアルが大きく頷く。
ノアルはパソコンを食い入るように見つめながら、ぼやいたのだった。

「城へ自ら飛び込んできてくれるのなら、これほど好都合なことはない」

ノアルの眼鏡が画面の光を冷たく反射した。

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次⇒【CHAPTER17 見破られた正体-Disclosed true character-】>>34

Re: 【旅立ち編】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.34 )
日時: 2013/08/25 01:27
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: t1R/VCth)

■CHAPTER17■ 見破られた正体-Disclosed true character-


「アスカって、王子、だったの?」

キリが呆然とアスカを見る。
アスカはイズミに掴みかかった態勢のまま、硬直状態になっていた。
その顔には"ヤバイ"の三文字。

「アスカって、王子様、なんだよ、ね」
「いや、その…………」

正体がバレてしまった……。
アスカの表情はその悲観な状況をありありと物語っていた。

イズミからすれば、何故キリが今まで気がつかなかったのかと不思議であったが。
というかアスカ王子もアスカ王子で、よくあれでバレないと思っていたもんだと一人思考する。

そう考えながら苦笑したイズミは、呆然としているキリに言った。

「そうです。このお方は、ウェルリア王国の正統な後継者、ウェルリア王国第一王子のアスカ様です」

説明されてむすっとした顔でアスカがキリを見遣る。
キリの硬直した口が開いた。

「そ、そっかそっか……」

その表情は困惑している。

「ああ、そうなんだね。ど、どうしよう…………いやあ。そんな急に、困ったなああ……」

たははと笑いながら頭を掻くキリ。
しばらく黙り込んで、それからキリは突然ババッとかしこまって頭を下げた。

「おっ、王子、様。かっ、数々のご無礼を致してしまい、か、かたじけありませんでした。ハイ。あの、あの、も、申し訳ありませんでございます。ハイ」

はちゃめちゃな文法である。
アスカはハアと大きなため息をつくと、キリを見据えた。
その顔は、今まで見せてきたどの顔よりも真剣なものであった。

「やめろよ……」
「へ?」

アスカの言葉に、ゆっくりと顔を上げるキリ。

「だから、やめろっていってんだよ。その言葉遣い。……その…………オレは別に、お前にとって【王子】でもなんでもないんだ。ただの一介の【被疑者】だ。お前はオレに大切なものを壊された【被害者】。だから、……そんな言葉遣いで、オレに接するなよ」
「…………」
「だから、オレが言いたいのは、……今まで通り、接してもらったら、それで良い、から…………」

一つ一つ丁寧に言葉を紡ぎ出していくアスカ。キリはその言葉を受けると、

「うん。分かった!」

ケロッとした口調で答えた。

「なんだ。だったら良かったや! はーっ、慣れない言葉遣いだと、肩こるねええ」
「…………」

キリの変わり身の早さに、アスカとイズミはただ呆然とするしかなかった。

「あ、ところで、ユメノ様」

イズミが蚊帳の外のユメノに声をかけた。
今まで近くの地面に絵を描いて暇を潰していたユメノが、顔を上げる。

「なんなのだ? イズミしゃん」
「そういえばユメノ様、よくお城を抜け出すことが出来ましたよね」
「そうなのだ! さすがだろう?」

えっへんと胸を張って答えるユメノ。
イズミは笑顔でそうですねと返答しながらも、胸のうちにもやもやを抱えていた。

——おかしい。

アスカ王子が脱走中の今、城の警備はもっと厳重になっているはずである。
それなのに、たった6歳の少女がこうも簡単に逃げ出すことが出来るものか……。
きっと何かあるに違いない。

——考えすぎ、か。

ふうと息を吐いて姿勢を正したイズミは、ゆっくりと腰をあげた。

「じゃ、お城に向かいますか」

嫌な予感というものは、当たるものである。

——なにか起こりそうな気がする。

そのことが明確になるのは、もっと先のことになるが。

キリたちは、城への旅路に再度ついたのであった。

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次⇒【CHAPTER18 研究員の見解-A soldier's purpose-】>>39