複雑・ファジー小説

Re: 【最新話*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.45 )
日時: 2013/09/24 10:25
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: DboXPOuE)

■CHAPTER21■ 侵入者の取引ーTo undergroundー


「私たちに手伝ってほしいこと……?」
「なんですか、それは」

キリとイズミはそれぞれに疑問をぶつける。
ノアルはその言葉を受けると、眼鏡を光らせて言った。

「説明するより直接見た方が早い。着いてきてくれ」


ノアルが先頭に立ち、キリたちは地下へと続く階段を降りていく。
コツコツと靴音が反射する以外、不気味なほど静かな空間は、まるで無限に続いているかのようだ。

「ここだ」

階段が終わり、一行は開けた空間へ足を踏み入れた。
かび臭い独特の匂いが鼻をつく。

「ここは……」

キリが息混じりに呟いた。
そこは実験室であった。
室内には様々な実験器具や高級そうな機材が所狭しと設置されている。

「ウェルリア城内にこんなところがあったなんて……」

イズミも知らなかったようだ。
ノアルはその感想をうけ、そうだろうそうだろうと満足げに頷いた。

「ここはねえ、ボクらSトリオのために作られたと言っても過言ではない、実験室なのだよ」
「へええー。メガネさんって、凄いんだね」

キリが素直に感心する。

「メガネさんではないっ!ボクはノアルだ!」

すかさず言い返すノアル。

「いや、でもメガネかけてるじゃん。分かり易いでしょ」
「めっ、"メガネさん"だって」

ノアルの横でアロマがぷっと吹き出す。
ノアルはそんなアロマを軽く睨みつけると、

「とりあえず、君たちにこれを見て欲しいんだ」

話を元に戻した。

2人が視線を送った先には、小指の爪くらいの大きさの"透明な欠片"があった。
白い布の上に大切そうに置かれている。

「あっ、あの欠片っ……!」

キリは思わず叫んでいた。
無理もなかった。
その欠片は、リィの大切な水晶玉の欠片だったのだから。

「なんでアンタが持ってるのよ! 返しなさいよっ! 返してっ……!!」

言いながら、キリは素手でノアルに掴みかかっていた。慌ててファズがそれを引きはがす。

イズミはそれを横目に、即座にノアルに向き直っていた。目が座っている。

「それはとても大切なモノです。返して下さい」

重く、静かな声色だった。
途端にノアルの眼鏡がキラリと光った。

「イズミ。やはり君はこの欠片を知っているのか。ボクはこの欠片の正体を知りたいんだ」
「無駄なことを」
「なんだと?」
「僕たちはただ〝水晶玉〟を返して欲しいんです。貴方達に協力する義理はない。さあ、返して下さい」
「……って、水晶玉、と言ったか? それならここには無いが」

ノアルの言葉に、瞬間、空気が音を立てて凍りついたような気がした。

ファズの巨体から逃れようと必死で抵抗していたキリの動作が止まる。イズミの表情が強ばる。

——今、なんて言った?


「だから、ココには、アンタたちの言う"水晶玉"とやらは無いって言ってんのよ。残念ながらね」

アロマが腕を組みながら鼻を鳴らす。

「ここには無い、と言うことは、……何かあったんですか」
「そ。その水晶の"欠片"を持ってきたAクラスの連中が言ってたんだけど、ここに来る前に、なんか怪しい奴らに襲われたんだって。で、水晶玉は盗られちゃったんだけど、Aクラスの一人がたまたま手にしてた"欠片"をアタシたちSクラスに『解析して欲しい』って持ってきたってわけ」
「でもボクの頭脳を持ってしても、流石にこんな小さな欠片じゃ解析のしようがなくてね。だからイズミ、君の頭脳を借りたいと思ったんだ。……おい、聞いているのか? イズミ」
「…………ここに水晶玉は、無い……」

なおも反復するイズミに、ノアルが問いかける。

「イズミ。ボクと手を組んでくれるか?」
「…………」

無言で立ち尽くすイズミ。
その顔は何事かを思案していた。
キリがイズミに近寄って、周りに聞こえぬよう気をつけながら囁いた。

「逃げよ、イズミさん」

イズミの茶色のマントを引っ張る。

「こいつらの言う通りにしたら、きっとロクな目にあわないよ。早くここから逃げよ」

そう言われてもしばらく目を閉じていたイズミだったが、刹那、白衣の内ポケットに手を入れた。

突然の動作に、Sトリオの面々は俊敏に警戒態勢をとる。

イズミが取り出したのは、煌々と紅く光る水晶玉の欠片であった。
大きさは先ほどの欠片と比べ、5倍はありそうだ。

「そ、それは……?」

ノアルが目を丸くして問いかける。
キリもなぜイズミが水晶玉の欠片を持っているのかと、驚きを隠せない。

そんなキリに、イズミは、

「僕たちが兵士さんたちに小箱を奪われ、時計店を去ってしまったあとに、この欠片に気づいてポケットにしまってたんですよ。あの時机の上に僕が置きっぱなしにしていた水晶玉の欠片を」

あの時——イズミが水晶玉の欠片を手にとり、何故か欠片が紅く光り輝いた瞬間——確かにイズミは欠片を手にしていた。そしてそれを、イズミは確かにクラーウ時計店の机に置きっぱなしにしていた。

「それは、このボクらの持っているモノと、本当に同じものなのか……? なにやら紅く光っているが……」
「疑うのなら顕微鏡で構造を確認してみると良い。このくらいの大きさなら解析も簡単に出来るだろう。ただし……」

にっこりと笑ってイズミは続けた。

「僕たちを逃がして下さい。そうしたら引き換えにこの水晶玉の破片をお渡し致します」

ノアルがごくりと喉を鳴らした。
————————————————————————-−−−−━━━━★
次⇒ 【CHAPTER22 決死の逃走劇】>>48