複雑・ファジー小説
- Re: 【7/20*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.52 )
- 日時: 2013/08/09 13:39
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: MXjP8emX)
■CHAPTER24■ それぞれの思惑-Your dream-
——夢。
私は夢を見ているのだろうか。
キリはぼんやりとした視界で、ゆっくりと辺りを見回した。
キリの眼前に広がっている街は、今、業火に包まれていた。
まるで戦争にでもあったようだ。
それを脇目に振り、二人の姉弟が手を繋いで走っている。
石畳の道を裸足で駆け抜ける二人。
その表情は恐怖心で凍りついていた。
——何があったのだろう。
ふとキリはそう思った。
傍観者さながらの冷静な疑問であった。
周囲にも同じように慌てふためく人々の姿が見受けられる。
街は様々な怒号が飛び交っていた。
発砲音も何処かから聞こえる。
キリは凄惨な光景を前に、ぼんやりとした頭でその現状を必死に理解しようとしていた。
一体この街で何が起こっているのだろう……。
普通ではないことは分かる。
街全体が殺気立っていた。
——何故だろう。吐き気がする。
刹那、それまで必死に走っていた姉弟が、混乱で溢れ返っている道端で、はたと立ち止まった。
姉と見受けられる少女が弟の手を振りほどき、その手を弟の肩に載せる。
「貴方は先に安全な所へ行きなさい。お姉ちゃんはちょっと様子見てくるから」
「待って……!」
弟の声は届かなかった。
少女は後ろも振り返らず、そのまま全速力で元来た道を走り始めたのだった。
行く手には、壊滅的な被害を受けている城があった。
取り残された弟は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
それから——。
姉は、戻ってこなかった。
「なんで……なんで……」
ただ泣きじゃくることしか出来ない弟。
燻る煙の中で、呆然とつっ立っている少年の姿に、キリは目を見張っていた。
その姿を、私は知っている。
見たことがある。
この子——。
++++++++++
「……リさん。キリさん!」
「——?!」
名前を呼ばれ、キリははっと目を開けた。目の前にはイズミの整った顔があった。
「イズミ……さん」
「良かったです。うなされてたので、心配してました」
イズミの表情が和らぐ。
キリは起き上がろうとして、自分の身体の上に茶色のマントが掛かっていることに気がついた。イズミが掛けてくれたらしい。
「イズミさん……」
「ん?」
澄んだ瞳でキリの顔をのぞき込むイズミ。キリはその表情に、思わずぼやいていた。
「リィさん……」
「はい? なにか言いましたか?」
「あっ……! いや、その……」
一瞬。
イズミの顔にリィの姿が被って見えたとか、思い違いだと思いたい。
キリは慌てて起き上がると、先程の夢の内容をイズミに伝えようとして、
「……あれ?」
思い出そうとするが、思い出せない。
先程の夢の内容を、綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。
「いや、あの、……なんでもないよ、うん。あははは」
乾いた笑い声をたて、キリは目の前で不信感を顕にしているイズミを一瞥した。
目の前のイズミは、何故かウェルリア兵の格好をしている。
「ところでイズミさん。なに、その格好」
「少し兵士さんに拝借したんです。お陰で紛れ込むことが出来て、なんとか逃げ出すことが出来ましたよ。それよりも、キリさん。服がびしょ濡れじゃないですか。風邪引きますよ」
「あはははっ。まあ、どうにかなるよね、うん」
「自然乾燥は無茶だと思いますが」
「そう言うイズミさんは濡れてないけど、湖をどうやって越えてきたの?」
「色々ありまして」
にっこりと笑顔を作るイズミ。
その台詞は有無を言わさない迫力があり、キリは頷くしかなかった。
イズミの本当の感情を、キリは読み取ることが出来なかった。
そして、
「はっくしゅん!」
キリは盛大にくしゃみをしていた。
- Re: 【7/20*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.53 )
- 日時: 2013/07/22 14:54
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .p4LCfuQ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33552
+++++++++
「さて。これからどうしましょうか」
イズミの言葉に、茶色のマントにくるまったキリが、うむむと唸る。
「アスカたちもお城に閉じ込められちゃったし……」
「何故か水晶玉も城にありませんでしたしね」
「そうよう!」
いきなり叫んで立ち上がるキリ。
「まず水晶玉の行方だよう! あのメガネのやつうう!」
拳を突き上げるキリに、イズミが苦笑する。
「ひとまず、クラーウ時計店に戻りますか」
イズミの提案に、キリは大きく頷いた。
その目は不平不満に満ち溢れている。
「水晶玉が盗まれたとか、納得いかないっ!」
++++++++++
「納得いかんっ!」
実験室に居座り、先程から不平不満を述べているのは、リークであった。
フィアルはその横で困り果てた表情を浮かべてその話を聞いている。
アロマはいらついているのか、ひたすら人差し指で机をコンコンと叩いていて、ノアルは一人別世界で顕微鏡を覗いている。その様子をオロオロと見守っているのは巨体のファズであった。
「Sトリオのお前らにイズミのことを頼んだのがそもそもの間違いだったんだ」
「それは酷いよ、リーク」
「でも本当のことだろ! イズミを逃がすなんて、頭がどうにかしてるんじゃねえの」
「なんですってえ?!」
それまで黙って聞いていたアロマが机を叩いて勢い良く立ち上がった。
眉が吊り上がっている。
「アンタね、黙って聞いてれば勝手言ってくれちゃって。アタシらはね、別にイズミなんかどうでも良いのよ!」
「じゃあなんで今回のことを引き受けたんだ!」
「ヨハン先生の命令だからよ!」
その言葉に、リークは返す言葉もない。
ヨハンはウェルリア軍創始者の立場にあり、よって、ウェルリア兵たちからすれば、ヨハンは絶対的な存在であった。
「アンタこそ、なんでそんなにイズミにこだわるのよ。なに? 好きなわけ?」
「す、好きな訳ないだろっ……!」
顔を赤くして怒鳴るリーク。その隣で
フィアルが苦笑する。
「オレはな、Sクラスに上がるためにイズミを捕まえてやるんだ! それだけだ!」
「あー。そういえばアンタら、イズミと同い年なんだっけか」
リークの代わりにフィアルが答える。
「そうなんだ。イズミの方が先に先に昇格していって……。リークも僕も、それが悔しくて……」
フィアルの感情を押し殺した声に、アロマは興味なさげにふーんとぼやくと、どかりと椅子に座り、フィアルに向き直った。
「……ねえ。なんでアンタは兵士に志願したわけ?」
ウェルリア兵になるには、10歳になると同時に、ウェルリア兵育成学校に入学しなければならない。
学校入学は志願制で、入学試験に通った者のみが2年間の訓練を受けることができる。基礎科と本科に分かれており、それが終了した者が晴れてウェルリア兵になれるのだ。
しかし、入隊してからも、S、A、B、Cと隊がランク付けされており、手柄を立てるとランクが上がっていく仕組みだ。
自分より上のランクの者に従うのが絶対なので、もともと人に従うのが好きではないリークはそれをよしとしていなかった。
その総監督の役割を果たしているのが、Sクラスの指導者でもある、ヨハン=ファウシュティヒであった。
「なんでウェルリア兵に志願したかって?」
リークが横から割って入る。
「それは、かっこいいからだ!」
「アンタに聞いてんじゃないわよ。そっちの薄い奴」
「僕?」
「そうよ。フィアル、とか言ったわね。アンタ、見かけは細くてうっすいし、アンタから殺気も感じられない。……よく兵士になろうと思ったわね」
「それは……」
「あ、そう。ワケアリってやつ? まあみんな同じようなもんだから、そんなビビらなくても良いわよ。アンタらが今お熱のイズミ"くん"だってヨハン先生の子どもって言われてるけど、実際は血が繋がってないって聞くしね」
「イズミがヨハン先生の実の子供じゃない?」
「つまり、養子ってことですか?」
「ま、あくまで噂だけどね。だっけ? ノアル」
ノアルから仕入れた情報なのか、アロマはノアルに確認の旨をとる。
しかしノアルは水晶玉の欠片に夢中で、反応はなかった。
「……ま、そういうことなのよ。それよりも。反政府軍の動きは、どうなのかしらね」
立ち上がったアロマは、そのまま実験室を出ていったのだった。そのあとに続くファズ。
研究に夢中になっているノアルと共に取り残されたリークとフィアルは、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
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次⇒ 【CHAPTER25 小箱の行方】>> 7/24更新予定
- Re: 【7/22*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.54 )
- 日時: 2013/07/28 20:07
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: schoyfso)
■CHAPTER25■ 小箱の行方-Coming home-
「ひとまず、クラーウ時計店に戻りましょう」
イズミの提案に、キリは反発していた。
「でもアスカたちがまだお城にっ……!」
「アスカ王子とユメノ様は、もともとお城の住人です。心配しなくても大丈夫ですよ。なにも危害は加えられませんって」
「でも……っ!」
「落ち着いてください、キリさん。今は落ち着くことが先決です。それにキリさん、お洋服ずぶ濡れですし……。クラーウ時計店に戻りましょう。ね」
キリはイズミの言葉に渋々頷くしかなかった。
******
半日かけてようやく時計店にたどり着いたキリとイズミは、今か今かと待ち構えていたクラーウ氏から熱烈な歓迎を受けた。
しかして、久々に対面したクラーウ氏の第一声は、
「お前さんたち、なんじゃその格好は」
クラーウ氏が驚くのも無理はない。
キリは自分の背丈以上ある茶色のマントを引きずるようにして羽織り、イズミはウェルリア兵士の軍服に身を包んでいたのだから。
キリとイズミはお互いに顔を見合わせ、頭をかいたのだった。
時計店内に入り、まず着替えを済ませた二人は、クラーウ氏に促されるままに一階リビングのテーブルについた。
目の前には温かいお茶が用意されている。
キリは、テーブルの上で毛繕いをているシィのもこもこの身体に、頬ずりをした。
その目の前に、ライ麦のパンが入ったバスケットを手にしたクラーウ氏が腰を下ろす。
バスケットをテーブルに置き、クラーウ氏はキリとイズミに視線をやった。
「ところで、アスカたちはどうしたんじゃ?」
その言葉に、キリは思わず身を固めた。
「あ、アスカは……」
『アスカとユメノは、城に連れ戻された』
その事実が今さらになって現実味を帯びる。
「アスカとユメノちゃんは、……」
——いない。
ここには、いない。
アスカは、ユメノちゃんは、もう、
——一緒には、いられないんだ。
唇を噛み締め、それ以上は言葉を発さないキリに、黙って見ていたイズミがゆっくりと口を開いた。
キリの代わりに、これまでのことを事細かに説明する。
終始黙って聞いていたクラーウ氏は、イズミの話が終わるやいなや、
「そうか……。やはりこちらの行動が読まれておったか」
そうポツリと呟くのだった。
「それもこれも、あのメガネさんたちのせいなの。……そうよ! 奴らが……アスカとユメノちゃんを…………。そ、それにだよ? 水晶玉も結局お城に無かったしさ! ホント、無駄骨だったってゆーか、……こうなっちゃったの、全部……私のせいだ…………」
困惑と怒りが混じった表情を浮かべ、キリが声を振り絞る。
最後の方は、声が掠れて上手く言葉にならなかった。
クラーウ氏は震えるキリの頭を、ポンポンと軽く叩いた。
「自分を責めるな。キリくんのせいではないじゃろ」
「〜〜〜っ」
キリの大きな瞳に、ぶわっと大粒の涙が溢れた。それを零さまいと、必死に涙をこらえている。
が、しかし、その努力虚しく、ぽろっと一筋の涙が頬を伝ったかと思うと、瞬間、次々ととめどなく涙が溢れ落ちていた。
「泣きたいときは泣けばええ」
クラーウ氏の大きな身体に抱擁され、その胸元でキリは大きな声を上げて泣き始めた。
シマフクロウのシィが心配そうにその様子を黙って見ている。
イズミも横槍を入れずに黙ってその様子を見ていた。
そうしてひとしきり泣いたところで、イズミが、
「さて、」
話を切り出した。
「僕たちがすべき事ですが……」
「水晶玉を取り替えす!」
赤い目を腕で擦って、キリが叫ぶ。
イズミは柔らかい表情でこくりと頷いた。
「じゃが……」
そこでおずおずとクラーウ氏が手を挙げる。
「城に水晶玉は無かったんじゃろ? 心当たりでもあるんか?」
「あるんです」
イズミが頷く。
「そこでクラーウさんに質問なんですけれど、」
「ワシにか……?」
「はい。クラーウさんはここら辺のことに関して、詳しいんですよね」
「まあな」
「今回、リークくんたちが水晶玉を盗られた相手なんですが、僕は反政府軍の仕業だと思ってるんです」
「思う、のか」
「あくまで推測ですが」
「……なるほどな。それでそいつらの溜まり場を教えてくれって魂胆だろ」
「察しが良くて、助かります」
「ふーむ。そうじゃのお。軍に反感を抱いている輩たちか……」
しばらく顎髭を撫でながら思案していたクラーウ氏は、ぽんっと軽く手を打った。
「そうなると、あそこじゃな」
「あそこ、ですか」
「そうじゃ。そこの店の名前は……」
クラーウ氏の口から溢れ出た店名に、キリの表情は瞬時に強ばっていた。
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