複雑・ファジー小説

Re: ウェルリア王国物語-眠れる紅い宝石- ( No.62 )
日時: 2013/11/13 12:59
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c.0m5wa/)


「本当に……そっくりじゃ。呪術師レーゼ 様に」

老婆の言葉にイズミは笑みを浮かべると、そうしてからゆっくりと唇を舐めた。

「そうでしょうね。前ウェルリア王国頭首の補佐役であった呪術師レーゼは、僕の父親ですから」

表情は変えずに、笑顔でそう答えた。

キリと老婆の表情に驚きが広がる。


「…………って、何者?」
「……キリさん…………」
「レーゼ様はな、ウィルア王に殺された、呪術師 のことじゃ」
「え……殺され、た……?」
「つまりこの男は、呪術師レーゼ の息子ということじゃ」
「その通りです、貴婦人」

イズミが頷く。

「つまりのつまり……、」

そこまで言って、キリは続きの言葉を飲み込んだ。
頭の中で、先程のことを整理する。

——イズミさんは、レーゼさんの息子さん。レーゼさんは、この国の王様に、殺されたので……。

「つ、つまり……だから……」

言葉を続けようとして、やはり詰まってしまう。
キリは息を飲み込むと、代わりに心の中で、自問自答した。

——つまり、イズミさんは、お父さんを、……アスカのお父さんに殺された、ってこと……?

思わず、ちらりと隣りを盗み見てしまうキリ。しかして、そのイズミの表情は、笑顔のまま、微動だにしていなかった。

Re: ウェルリア王国物語-眠れる紅い宝石- ( No.63 )
日時: 2013/09/13 10:56
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: h7vJo80q)


**********

一方、ウェルリア城内では——。
王子アスカはユメノと同様、各々自室に軟禁されていた。

勝手に城から脱走しないようにと、食事を摂るのも見張りつき。
入浴するのにも見張りつき。
当然、トイレも見張りつき。

なにをするにも、見張りつき。

……そんな生活を強いられ、いい加減、アスカの限界はピークに達していた。


「なあ、ウィンク」

自室に着替えを持ってきたメイドのウィンクに、アスカは思わず声をかける。
黙り込んで机に突っ伏していた王子に突然声をかけられ、ウィンクはとっさに姿勢を正す。

「は、はいっ、なんでしょう、アスカ王子」
「オレは脱走するぞ」
「……ふへ……」

これまた唐突な宣言に、しばらく呆然とするウィンク。そして、

「そっ、それはいけませんってば王子い! 国王様から、あれほど、こってり、たっぷり、しっかり、怒られたじゃないですかあ!」
「いや、そうなんだけど……それでも、オレは、……約束したんだ」
「はあ。約束、ですか」

突然なにを言い出すのだ、とウィンクは眉根をきゅうっと寄せる。

だが、背を向けたまま話すアスカに、ウィンクの表情が見えているわけがなかった。

「そうだ。約束したんだ、オレは。アイツと、……アイツの大切な物を取り返してやるって、オレは約束したんだ」
「…………」
「オレが、……オレがアイツのために、やらないといけないんだ。他の誰にも成しえない約束を。……だからな、ウィンク、オレは……!」

少々勢いづいて喋っていたアスカは、そう言いながら聞いているであろうお世話係を振り返り、——滝のように涙を流すウィンクの姿がそこにはあった。

そう、まさに涙腺崩壊という言葉がぴったり。
ダーーッと大量の涙をとめどなく流し、かと思うと、勢い良くアスカに駆け寄り、

「感動致しました、王子っ」
「は……」

がしっ、と力強くアスカの手を両手で覆うように握りしめるウィンク。 
それから一気にマシンガンのようにまくしたて始めた。

「そうなんですね。アスカ様、そうなんですよね」

なにが"そう"なのか。
アスカには理解できなかったが、ウィンクの切羽詰まった独説は続く。

「そうなんです。離れ離れになってしまった許嫁いいなずけとの忘れじの約束……、しかしてそれが守られることは無かった。……などと、そのような悲しい結末で物語が終わるわけにはいかないのですっ……!」
「あ、ああ……そうだな」
「この間の昼ドラでもやっていました。すれ違う恋人たち、しかして幼い頃の約束は、どうにかして守られるものだと」
「…………」
「それが涙無しに見れますか?!」
「まあ……」
「見れないでしょう?! そうでしょう?! だからこそ、王子!」

ぐぐっと握り締める両手に、より一層力が加わる。
それによってアスカは顔をしかめたが、ウィンクは気づいていないようだ。

「ワタクシ、アスカ様がそのお方と交わされたお約束を、必ず成し遂げられるように、応援させて頂きます!」
「ああ……」

その結論に至るまでの過程がちょっとよく分からないが、理解者が増えることは良いことだ。
ひとまず、アスカは理解のあるメイドのウィンクに感謝するのであった。

「で、本題なんだけどな、」

アスカの言葉に、こくこくと頷くウィンク。
その目がやけに輝いているのは、どうやら気のせいではなさそうだ。

「存じておりますとも。この城からレッツ脱走! ……ですよね、王子っ」
「バカっ、声がデカいっ。この部屋のドアんとこにいる見張りの奴に聞こえるだろうが」

慌てて自分の手で自分の口を塞ぐウィンク。

「……そう、オレはとにかく、こんな城から早く抜け出さないといけない」

小声でウィンクに告げたアスカは、そこまで言ってから、ふと眉尻を下げた。

「なあ、ウィンク。……何か、いい案はないか?」
「案、ですか」
「そうだ。この厳重な警備から、簡単に、かつ怪しまれずに抜け出す方法を」
「そうですねええ……」

しばらく、ううう……とうなっていたウィンクは、突然、パンッと手を打つと、

「ひらめきましたっ! 王子!」

そう言って、急に、ぐふふふと奇妙な笑い声を漏らす。

「ど、どうかしたか、ウィンク……」
「ひらめきましたよ王子、ここを脱走するための、華麗でいて、なおかつキュートな作戦を!」
「きゅ、きゅーとな……?」
「早速取り掛かりましょう! これは素敵な作戦に違いありませんよ、ぐふ、ぐふふふ。あ、いや、オホホホホ!」

ウィンクの言葉に、一抹の不安を抱くアスカであった。