複雑・ファジー小説

Re: 【参照400突破!】ウェルリア王国物語-眠れる紅い宝石- ( No.71 )
日時: 2013/09/26 19:17
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: UPSLFaOv)


「フィアルを知らないか」

今日でこの台詞を言うのは、果たして何回目だろうか。
ウェルリア兵Aクラス所属のリークは、問いかけた相手に首を横に振られるたびに、自身の気分が沈んでいくのが分かった。

ほんの少しだ。
ほんの少し、目を離した隙に……。

「俺は迷子の保護者かっ」

気を紛らわせるために少し悪態をついてみたが、それも一瞬の気の紛れである。
くそっ、と舌打ちをして、リークは再び心当たりがある場所におもむいていた。



今朝起きたら、フィアルがいなかった。
いつもなら、フィアルは他の兵士と同じように午前5時丁度に起きて、二段ベットの上から下で寝ているリークを覗き込むようにして、言うのだ。「おはよう」と。

だが——。
今日は、その声を聞いていない。
昨日はちゃんと隣にいたのに。
イズミが城に侵入していた時、確かに隣にいた。
昨日、夜寝る前も、確かに隣にいた。



……どうしたというのだろうか。


フィアルとは ウェルリア兵育成学校からの友人だった。
それからというもの、リークとフィアルはいつでもどこでも、常に一緒に行動していた。

だから——。
突然なんの挨拶もなしにいなくなるなんて——。
リークには考えられないことであった。


そうした点から不審に思ったリークは、フィアルが寝ているはずであるベッドを確認してみて。


——影も形もなかった。

リークは思わず布団の中に手を入れてみたが、その中は冷えきっていた。先程まで人がそこで寝ていたのなら、まだ温もりがあるはずだ。
だが。それがないということは、つまり、

「……真夜中に、抜け出した……?」

何者かに連れ去られたのか、——いや、それはない。
ウェルリア兵士の寮は厳重なセキュリティーシステム下に置かれている。外部からの侵入はまず無理だとみて間違いない。

だとすると——。

「フィアルが自らの意思で、この部屋を抜け出した、ってこと、だよな」

それとも、なにか。
今日に限って、挨拶もなしに、既に朝礼に向かったとでもいうのか。

そんなこと……。
あのフィアルが……?

一体、どこに……。

Re: 【参照400突破!】ウェルリア王国物語-眠れる紅い宝石- ( No.72 )
日時: 2013/10/28 22:02
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: EV6MzidG)

——とにかく、情報収集だ。

リークは朝食もそこそこに、任務の合 間を縫って同室の兵士たちや同期の兵士にもフィアルの行方を聞いてみたのだが、特に有益な情報は得られなかった。

そんなこんなで、フィアルの行方は依然知れず、すでに太陽はてっぺんをのぼっていた。兵士たちは交互に昼休憩に入り、リークも司令官から休憩するようにとの指示がなされた。

「司令官、……あの、フィアルを、見ませんでしたか」

休憩直前に、リークは若干躊躇いながらも、司令官にフィアルの行方を問うていた。 司令官は「ん?」と首を傾げ、リークを見やった。

「フィアルなら、さっき食堂の方で見かけたぞ」
「ほ……本当、ですか」
「本当だ。どうして俺が嘘をつく必要性がある……そうだ、そういえばお前、昼休みが終わったら門番だったよな。見張り役、頼んだぞ」
「は、ハイッ!」

立ち去る司令官の背中に向かって敬礼をし、その姿が見えなくなったと同時に、リークはダッシュで食堂に向かっていた。

++++++++++

「フィアルっ……!」

食堂に駆け込むと、そこで、司令官の言う通り、フィアルの姿を見つけた。

その顔には、何故か不安そうな、酷く落ち込んだ表情が浮かんでいたが、リークにその心情を知るすべは、無かった。

「ようっ、フィアル」

まるで、何事もなかったかのように、フィアルの肩にポンッと軽く手を置くリーク。
フィアルはビクッと大きく身体を跳ねさせた。