複雑・ファジー小説

第四章〜捜索編 ( No.79 )
日時: 2013/11/11 09:46
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jJ.GwC2w)

【第五章 手がかり編】
〜〜第一話:ウェルリア王国の歴史〜〜


白い石畳が眩しいウェルリア国の南部、そこは古く昔から呪術師が多く住むと言われる地域で、今もその末裔の多くが住居を構えていた。
そのとある一角に存在する煉瓦造りの古風な建物は、『喫茶店ジュリアーティ』と看板を下げて、地域の人に親しまれていた。最近は何やら不穏な噂も耳にするが——。

キリとイズミは、クラーウ氏の証言をもとに、【小箱】の行方を追って、そこを訪れていた。

立ち話もなんだから——という主人の計らいで、奥の狭い一室に通されたキリとイズミは、小さな机を挟んで、主人である老婆と対面していた。
老婆曰く、この部屋は『占いの間』というらしい。
確かに、表の喫茶店内に比べ、緊迫した空気が張り詰めている。
そうした空気感に、キリは思わず小さく身震いした。

(この部屋、なんとも言えない感じがする……)

不安にかられたキリは、ちらり、と隣に座っているイズミの顔を見上げた。
イズミは先ほどと変わらずにこやかな笑みを浮かべていたが、その目つきはとても真剣であった。

「さて、……貴様、レーゼの息子だと言っておったな」

老婆の言葉に、イズミが無言で頷く。

「こう見ると、やはりよう似ておる……」
「……そうですか? 奥方が言うほど、自分は似てないと思うのですが」
「しかし……その目の色、端整な顔立ち。若い頃のあの方にそっくりじゃて」

イズミの目が、すっと細くなる。

「父を、ご存知ですか」
「レーゼは先代のファーン家に仕えていた立派な呪術師じゃ。ここいらでは知らない者の方が珍しいて」
「そうですか」

視線を交わし合う2人。
その隣で、キリは思わず口を開いていた。

「ねえイズミさん。ファーン家、って、誰? 何?」
「なんじゃこの娘っ子は、ファーン家も知らないんか」
「ああ、この子はラプール島出身で、ウェルリア国の歴史には詳しくないんですよ」

ねえ、とイズミにふられ、釣られてこくこくと頷くキリ。
イズミは軽く息をつくと、

「では、そんなキリさんのためにも、ウェルリア王国の歴史を研究している者として、説明をしましょうか」

そう言って、イズミはウェルリア王国の歴史について語り始めた——。

第四章〜捜索編 ( No.80 )
日時: 2014/03/21 11:32
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 0.ix3Lt3)

 
「キリさんは現在この国が、アスカ王子の父親、ライベル=ウィルア氏によって治められているのは、知っていますね」
「うーん……なんとなく」
「でもそれはここ数十年のことなんです」
「と、いうと?」
「つまり、それ以前は違う人物がこの国をまとめていたということですよ」

イズミの話は、つまりこういうことだった。

——ウェルリア王国が建国されてから約200年間、この地は8代続いたファーン家によって統治されていた。
だが、今から約10年前に『ウェルリア大革命』が勃発、ファーン家は没落したのだった。
そもそもその大革命の引き金となったのが、ちょうど12年前に起こった『呪術師暗殺事件』——この事件は、ファーン八世の助言者であった『呪術師』レーゼ=ファミリアが毒殺されたというもので、犯行は複数の過激派によるものと言われている。真相は未だ不明のままらしい。

「まあ僕は、レーゼ殺しに関して、ライベル=ウィルアが主犯で、つまり父はライベルに殺されたと言っても過言ではないと思ってます」
「それって、……つまり、その、アスカのお父さんが……」
「僕の父を殺した。そういうことです」
「そ、それは……」

つい口をついて出てしまった言葉を飲み込むキリ。
そこまで冷たい口調で断定するイズミの姿を、キリは初めて目にした。
下手に口を挟まない方がいい——反射的に、キリはそう直感した。

「……失敬。つい私情を挟んでしまいました。……それで、殺された『呪術師レーゼ』に関してなんですが、」

軽く咳払いをして、イズミは話を続けた。

前々からレーゼは民衆の間で、「ファーン八世に何か良からぬことを吹き込んでいる。そのせいで長年謳歌を誇っていた戦争が悪戦苦闘に陥っているんだ」と噂されていたらしい。
そのような噂もあり、殺された時は誰もが安堵したという。
なんとも不謹慎で身勝手な話だが……。

「——という訳で、現在はその革命の中心人物であったライベル=ウィルアが国王として頂点に君臨。……これが、ウェルリア王国のこれまでの全て——『表向きの』歴史です……」
「へえええ〜〜っ」

話し終わるやいな、キリが感嘆の声を上げた。
イズミは、キリの思いもよらない反応に、思わずぎょっとなった。

「な、なんです? キリさん」
「イズミさんって、本当に研究員だったんだなあ〜って。歴史に詳しいんだねえ。うんうん」
「……それってめられてるんでしょうか、僕」
「褒めてる褒めてる!」

キリのピントのずれた納得の仕方に、イズミは思わず苦笑いで返すのだった。

Re: 【参照555突破】ウェルリア王国物語【企画案募集】 ( No.81 )
日時: 2013/11/03 20:52
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .KuBXW.Y)


そうしてから、イズミは、黙って話を聞いていた老婆に向かって、

「そして、——この事件以降、国は『呪術師の生業を表向き禁じた』。……ですよね、ジュリアーティさん」

イズミはそう言って、老婆の返答を促す。

「……そうじゃな。……呪術師であるレーゼ氏、つまり『悪人』が殺されて……、私ら呪術師は同類と見なされて。……偉い迷惑をこうむった」
「…………」

イズミの息が、くっ、と飲み込まれたのが分かった。

「まあでも、のお。私ら呪術師からすれば レーゼさんは救世主のようなお人だからの。呪術師の力を世間一般に知らしめてくれたのもレーゼさんじゃった。無論、その後のことは言わんことはないが…………。恨んではいないぞ」
「……その節は、…………父が、ご迷惑をおかけしました」
「何を言うか。こちらはレーゼさんにお礼を言いたいくらいだよ。まあ、それも……もう叶わない、ことじゃがな」

どこか遠くを見つめてぼやく老婆と、目を伏せているイズミの姿を目の当たりにして、キリは思わず居心地悪そうに身体をもぞもぞさせた。

(わ、私、ここにいていいのかな……)

思いっきり部外者であるキリにとって、この空気感と言ったら。アウェイ感がひしひしと身体に染み渡る。

(けど、イズミさんのお父さんが、そんな凄い人だったなんて。……で、アスカのお父さんに殺されたって。……イズミさん……)

様々な想いを巡らせているキリなどお構いなしに、老婆とイズミはレーゼに関する話を続けている。

「そうじゃ。確かレーゼには、子どもが二人ほどおったと聞いたが」
「ええ。息子の僕と、……生きていれば24,5歳になる姉が1人」
「そうか……」

Re: 【参照555突破】ウェルリア王国物語【企画案募集】 ( No.82 )
日時: 2013/11/04 10:27
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .KuBXW.Y)

「まあまあお姉さん。昔話はそのくら いにしましょう」

イズミはさっきとうって変わって明る く言い放つと、「お、お姉……さ ん……? このお婆さんに……お姉さ ん……?」困惑気味のキリに、控えめ に目配せをした。
キリは、ほけっ、とした表情でイズミ を見返した。

……なんだっけ。

イズミはキリの様子にため息をつく と、正面の老婆に向き直った。

「実は、奥方に占って欲しいことがあ るんです」
「そ、そうだそうだ!そうだった。お 婆ちゃん、占ってよ!」
「嫌じゃ」

即答される。

「な、なんでえ〜……」
「レーゼのご子息であれば、そのくら いのことお茶の子さいさいじゃろ」
「さいさい……? なにそれ。お茶に良 く合う新種の食べ物?なにそれ。美味 しいの?」
「あー……キリさん。少〜し、黙って もらってても良いですか」

イズミが笑顔を浮かべてキリに言う。 その笑顔の裏に恐怖を感じて、キリは 慌てて押し黙った。

「申し訳ありません。連れが意味不明 な発言を繰り返して」 「何を言われてもワシは占いなどせん からな」
「まあ、そう言わずに……」
「だから、お前さんがやれば済む話で はないのか」

途端に、イズミが困ったような表情を 浮かべる。

「僕はただの研究員なので」

しかし、老婆は頑として首を縦に振ってくれない。

(全く……、これだから頭の固い老人 は……)

心の中で悪態をつきながらも、イズミ は「それならば」と渾身の笑顔で老婆 を見据えた。

キャラ絵〜キリ&アスカ編 ( No.83 )
日時: 2013/12/24 03:08
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: WPJCncTm)
参照: http://i1.pixiv.net/img123/img/co_noel/36876235_m.jpg

【参照580突破&執筆1ヶ月記念企画その一!】

……とは名ばかりの。
カキコ内のリクエスト板で各キャラ絵を描いていただいたので、
ご紹介していきます〜(^O^)

まずは、キリ&アスカ!
Noelle様に描いていただきました(*´▽`*)
URLからpixivサイトにとびますー

背景の街並みが細かいっ…!
とにかく服装からなにから、細かいっ…!
こんな服装で歩いてたら、王子様ってもろバレじゃないっすかアスカくん…(^-^;Aと思わずつっこみそうになりながらも…あれだよね、砂よけマントで隠してるんだよね!…という事にしておこう。

ちゃっかりアスカのペット、シマフクロウのシィもいます(*´▽`*)

Noelle様、ありがとうございました…!

明鈴

Re: ウェルリア王国物語【URLが貼り付けられなくて困惑…】 ( No.84 )
日時: 2013/12/24 03:06
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: WPJCncTm)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/data/img/1146.jpg

【参照580突破&執筆1ヶ月記念企画その二!】
お次はイズミさん(^O^)
ラフ絵からわざわざ描き直しをして頂くという力の入れよう…汗
多寡ユウ様、お手数をおかけいたしました本当に…<m(__)m>ベコリ

イズミさん!イケメンです、イケメン(´∀`〃)!
描いていただく際に目の色を青色にするか赤色にするか迷って、
でも赤色に金髪って、某ハンターのクラ○カなるやんってなって、
自重しました(^_^;)青色もしかり…
……だし、アスカ王子が青色系だったし、
じゃあヒスイ色(うす緑?)でお願いしますーってことで、
一件落着した模様。
しかしこのイズミさんにべたぼれです。
いや、ウン、ごめん、アスカもキリもユメノちゃんもウィンクさんも大好きよ。
リークんはネタキャラで大好きよ

しかし最近のイズミさんはどんどん腹黒くなっていく…(^_^;)

明鈴

Re: ウェルリア王国物語【URLが貼り付けられなくて困惑…】 ( No.85 )
日時: 2013/11/06 06:44
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .KuBXW.Y)


「それともなにか」

イズミが突然声を上げる。

「もしかしてジュリアーティ女史は、僕たちの頼み事を解決できないほど、力が衰えてしまった、……そういうことですか」
「なっ……!」
「失礼を承知で申し上げます。貴女は呪術禁止令が発令されてから満足にその方面の力を発揮することが億劫になった……当然、力は衰えてきますよね」
「なにを言うんじゃ、この小僧は。この地域では呪術師の最高峰とも言われておるこのワシに……生意気じゃぞ!」
「生意気? ……ああ。もしかして、僕の言ったこと、図星でしたか? ……それとも。歳のせいで呪術師の力が衰えてきたと……」
「もうやめたげてよ、イズミさん!」

キリが憤ってその場に立ち上がった。
その目はしっかとイズミを見据えている。

「いくらなんでも酷いよ! イズミさんのバカ!」
「はい……?」
「いくら本当のことかもしれなくても、お婆ちゃん気にしてるかもしれないのに……酷いよっ!」

(お前のその言い方もだいぶ追い討ちをかけてるぞ……)

という心の声はさておき、イズミはひそかに微笑した。
全く。思った通りの子だ……。

「お婆ちゃん、」

キリは立ち上がった場所から老婆の方へ歩み寄ると、その節くれだった手をとった。枯れ木のような腕は、少しでも力を加えると、ぽっきり折れそうだ。

「私は、お婆ちゃんがどんな人か知らないけど。でも、その人にはその人の事情があるし、私はそれに深くは関わらないでおこうって思ってるの。それは人によるけど……、嫌だ、って言ってる人に無理やりさせることはないし。自分がされて嫌なことは、他人にもしない。って、決めてるんだ」
「…………」
「じゃあね、お婆ちゃん。元気になってね」

行くよ、イズミさんっ!とキリはイズミに対して厳しくあたると、そのまま占いの間を後に、背を向けた……。

「……待て」

直後、背後でため息をつくのが聞こえ、老婆が二人を呼び止めた。

「お嬢ちゃん、アンタは綺麗な目をしてる。……どうやら悪い奴じゃあなさそうじゃな。仕方が無い。占ってあげようぞ」
「お婆ちゃん……!」

満面の笑みを浮かべて、ダッシュで座っていた椅子に向かうキリ。
イズミはやれやれと息をつくと、同じように腰をおろした。

そのイズミに、老婆がこっそりウインクする。
びっくりして老婆の顔を凝視したイズミに、老婆は耳打ちした。

「上手くいった。……そんな心持ちかの?」
「…………っ?!」

Re: ウェルリア王国物語【URLが貼り付けられなくて困惑…】 ( No.86 )
日時: 2013/11/06 23:20
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .KuBXW.Y)

「気づいとらんとでも思ったか。あんなにあからさまにされたら、誰でも勘づくわ。……ワシはな。何も意地悪で占いたくないと言ったわけではない。占いを悪用しようとする者も中にはおる。それを見極めるために、ワシはいつもああして相手を見極めとるんじゃ」

イズミは黙って老婆の言葉に聞き入る。

「あの子は素直な子じゃ。それはもう、……怖いくらいにな」
「だからこそ……」
「だからこそ、アンタはワシを焚きつけて、あの子の良心を突っついた。……そんなところか」
「まあ」
「……レーゼのご子息とやら、」

老婆はそう言って、ばっちりとイズミを見つめた。

「アンタの心は真っ黒くろすけ——どす黒いようじゃな」
「そういうジュリアーティさん。……貴女もね」

あっはははと乾いた笑い声をたてた2人に、何も聞こえていなかったキリは、はてなマークを浮かべながらも、つられて笑うのだった。