複雑・ファジー小説

Re: ウェルリア王国物語【URLが貼り付けられなくて困惑…】 ( No.87 )
日時: 2013/11/15 07:14
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c.0m5wa/)

【第五章 手がかり編】
〜〜第二話:小箱の行方〜〜


——探しものの【小箱】の行方を占ってもらえる。
やっと、やっと手がかりがつかめるかもしれない。リィさんのためにも——。

キリは、水晶玉に向かって先程から何語かを呟いている老婆を前にしながら、傍目から見たら笑みを浮かべ、そのようなことを思っていた。


少しして老婆の動きが止まった。

思わず身を乗り出すキリとイズミ。


「どう、です?」

「ん……その【小箱】じゃがな。一度見たことがあるのお……」


占い後、老婆は開口一番そう言った。

え?と驚きの表情を浮かべるキリとイズミに、老婆は間髪入れずに答える。


「あれは確か……先月あたりに、黒髪の綺麗な女性が持ってきたんじゃ」

リィさんだ、とキリが声を上げる。
老婆は、「確かそんな名前じゃった」とぼやきながらも、当時の記憶をたぐり寄せ、曖昧な記憶に顔をしかめる。

「その小箱の中身は水晶玉でな。その水晶玉には強力な呪術師の力がまとわりついていたんじゃ」
「強力な呪術師の力……?」
「そうじゃ」
「それって、つまり、レーゼのような強い力を持った呪術師のもの、ですか」

イズミの問いに、老婆はただじっと押し黙って、肯定も否定もしなかった。ただ、

「そのくらいの強い力だった……」

とぼやいて、

「話を続けて、良いかの」
「あ、ハイ」
「どうぞどうぞ!」

「とにかくその力があまりに強いのでな。……呪術師としては、一応結界を張っておるこのテリトリーにそんな強い力が入り込んできたんじゃあ仕事にならん。自分の仕事の妨げになるとその女性に告げて、次回からその小箱は持って来ないようにと追い返したんじゃ」
「なるほど……」

イズミが納得したようにしきりに頷く。

「それで、なんですね」
「なにがじゃ」
「ここに入った瞬間、何故か耳鳴りや異様な雰囲気を感じた理由ですよ。そうか……。結界が張ってあったからか……」
「私、ぜんっぜん、微塵もそんなの感じ無かったけど」
「小僧、お前さんにはレーゼの血が流れておるからな。タダの一般人は結界に気づかんが、その筋の者はたいてい顔をしかめる」
「ふうん。なるほどねえ」
「ぷーんだ。どーせ私は"タダ"の人間ですよーう」

老婆の言葉にキリは頬を膨らました。

しかし、ふと真顔になって、それからいきなり老婆の方に向き直る。


「だからだったんだ……」

その顔は、妙に腑に落ちたものだった。
キリは、思わず呟いていた。

Re: ウェルリア王国物語【URLが貼り付けられなくて困惑…】 ( No.88 )
日時: 2013/11/09 15:51
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: SDPjcky.)

——だからか。


1人納得しているキリに、イズミが「どうしたんです?」と尋ねる。

「いやー……んとね、こないだリィさんと初めてここに来たんだけど……」

つい先日、キリが買い出しのついでにリィと初めてここを訪れた際のことだ。


——これはね、とっても大切なものなの。だから少しでも中の物を見たり、触れたり、ましてや壊してしまうなんてことは、絶対にダメよ。もし守れなかったら、ただじゃ済まないからね。


リィはそう言って、喫茶店の前でキリに【小箱】を持たせ、自分だけ喫茶店に入り、キリを外で待たせた——その理由が、今のキリには、理解できた。気がした。


そして。
それよりも何よりも、キリが気になったのは。

「……リィさんがそんな頻繁にラプール島からウェルリア国の喫茶店に通っていたなんて……」

今まで隠し事というものをしている素振りを見せもしなかったリィに、キリは何故か胸がじくじくと痛むのだった。




「そうなると、ますます気になりますね。その【小箱】の【水晶玉】の正体……」

イズミはイズミで、顎に手を当てて、興味津々とでも言うように笑みを浮かべ、ぼやいた。

その【小箱】は、ウェルリア兵たちによって持ち出されてしまった。しかもその後、【謎の集団】によって奪われている。もちろん、奴らは【小箱】の中身が【水晶玉】だと承知の上で。

「【小箱】に【水晶玉】、……なにかありそうですね」

そうつぶやいて、先ほど気になった単語を順に述べていく。

「『強い力』に『呪術師』に『水晶玉』……ですか」

そう繰り返していると、ふとイズミの脳裏に、ある言葉が蘇ってきた。



——この水晶玉を、お前に託す。

何故だか分からないが、突然だった。

誰かに、そう言われたのだ。
ずっと昔、——子供の頃。
確かに。
言われた。

それを今、思い出していた。


——何故このタイミングで……。


分からない。分からない、が。
その声、その顔は……。

「まさか……」



そこでイズミは息を飲んだ。



昔言われた言葉、何故か12年たった今でも鮮明に覚えている。


——実の父親、レーゼに言われた『言葉』。

Re: キリと黙示の王国物語【題名が迷子】 ( No.89 )
日時: 2013/11/08 20:48
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .KuBXW.Y)



それは、今は亡き呪術師・レーゼに託された【水晶玉】のこと——。


「そうだ、思い出した……。そしてその【水晶玉】を持っていたのは、…………まさか、」
「どうしたの? イズミさん」
「…………いや、」

イズミは小さくつぶやいた自分の考えに、頭を振った。


——まさか。そんな訳が、あるはずが、無いだろう。何を考えてるんだ俺は。

「すみませんキリさん。……ああ、なんでもないですよ」
「……そお?」
「ハイ。なんでもないです」

笑顔で答えながら、イズミの中では、ある疑問が解消していた。


——あの【水晶玉】がレーゼの物だとすると、合点がいくのだ。

一番最初にイズミが【水晶玉の欠片】を手にした時、何故か透明な欠片が『石楠花色しゃくなげいろ』に輝いたこと。
あれはイズミがレーゼの血筋だから、【水晶の欠片】がそうやって反応したといえる。となると、他の者が触れても透明なままだったことにも納得がいく。

しかしその一方で、イズミの中で新たな疑問が浮上していた。


——何故ラプール島のリィが【水晶玉】を所持していたのか。


(…………まさか彼女は、やはり……)

「ねえイズミさん。急に黙りこくっちゃって……おまけに顔色も良くないし……大丈夫?」

キリにそう言われ、はっと我に返ったイズミ。

「あ、ああ……ハイ。スミマセン何度も……」
「もおー、しっかりしてよね」

お前には言われたくなかった、という悪態は封印して、イズミは「面目ないです」と苦笑した。

そうしてから、襟を正すと、

「——それで、ジュリアーティ女史。その【小箱】の行方は、ご存知ですか」
「なんじゃい、いきなりじゃな」
「答えてくださったらそれで良いんです。ご存知か否か。どうです?」
「なにもそんな慌てんでも……。分かっとるわい」

老婆の言葉に、イズミは再度苦笑した。

——そうだ。何も慌てなくても……。いつもの僕らしくない。

「失礼しました」
「まあよいがな。……して、その【小箱】の行方じゃがな……」


『ガチャリ』


気を取り直した老婆の返答と同時に、『占いの間』のドアが慎重に開けられたのだった。
何者かによって——。