複雑・ファジー小説
- Re: キリと黙示の王国物語【題名が迷子】 ( No.92 )
- 日時: 2013/11/10 00:36
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jJ.GwC2w)
入ってきたのは、喫茶店のアルバイトのようだった。
なんだか、酷く慌てた様子である。
「…………、なんじゃと?」
アルバイトに何事かを耳打ちされ、老婆の表情が曇った。
何事かと、キリとイズミも思わず顔を見合わせる。
と、老婆はすぐさまキリとイズミの方に向き直り、急き立てるようにこう言った。
「お前たち、早くここを出るんじゃ」
「なんですって?」
「ウェルリア兵たちが見回りに来たようじゃ」
イズミの表情に驚きが広がる。
「実はここは反政府軍の溜まり場だとして、前々から国に目をつけられておってな。突然抜き打ちでこうしてやってくるんじゃ」
「そうなんですか……」
「ね、イズミさん。私たち、兵士と鉢合わせしちゃマズイんじゃないっけ」
「ですねえ……」
キリとイズミは顔を見合わせると、お互いに頷きあって、立ち上がった。
「スミマセン。それでは裏口から失礼します」
「おお、こっちじゃ」
「で、お婆ちゃん、【小箱】の行方なんだけど……」
「おお、忘れとった」
ぽん、と手をうち、老婆は答える。
「【小箱】の今ある場所じゃがな、……『ウェルリア城内』と出ておる」
「……へ、お城……?」
「キリさん、何してるんですか……! 早く、急いで!」
「あ、イズミさんが呼んでる」
「まあ、また暇があったらおいで」
「ウン。ありがとう、お婆ちゃん」
キリは笑顔でお礼を述べると、裏口付近で外の様子をうかがっていたイズミの隣にぴったりくっついた。
イズミは老婆に軽く会釈をすると、キリを連れてこっそりと喫茶店をあとにしたのだった。
その背中に向かって、老婆は神妙な面持ちでぼやく。
「この先、お前さんにとって辛い選択肢が現れるとは思うが……最後に信じられるのは自分の本当の心。判断を間違えるでないぞ」
そう、この先に待ち受けている運命から逃れられる術は、無いのだから——。
「マスター、ウェルリア兵が表の喫茶店で待ってます」
「待て待て、そう急かすな。今行くからな……」
全てを悟った老婆は、椅子からゆっくりと腰をあげたのだった。