複雑・ファジー小説
- Re: キリと黙示の王国物語【題名が迷子】 ( No.93 )
- 日時: 2013/11/11 17:20
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c.0m5wa/)
【第五章 手がかり編】
〜〜第三話:再会〜〜
「ここまでくれば大丈夫でしょう」
イズミが後ろを振り返りながら、言う。
キリは今まで溜め込んでいた息を一気に吐いた。
クラーウ時計店までは、今走ってきた道と同じくらいの時間をかければ、着くだろう。
キリとイズミが立ち止まった場所は城下町、様々な店が立ち並ぶ通りだった。
昼頃だからか、食材などを求めて、様々な人が行き交っている。
「キリさんは先に時計店に戻っていて下さい」
そして、突然告げられた言葉。
「へ? イズミさんは?」
思わず聞き返すキリ。
イズミは困ったように苦笑しながら髪の毛をかくと、
「少し用事が出来ました。……僕一人で大丈夫なので、キリさんは先に時計店に行ってて下さい。僕は後から向かいます。それじゃあ、気をつけて」
「あ……」
言うやいなや、イズミは人混みに紛れるようにして、元来た道を戻っていった。
雑踏にまぎれてイズミの姿はすぐに見えなくなった。
- Re: キリと黙示の王国物語【題名が迷子】 ( No.94 )
- 日時: 2014/01/20 18:50
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: A7M9EupD)
キリは、突然のことにしばらくぽかんとしていた。
が、納得がいかないとでも言うように首をかしげ、それから口をぐっと一文字に結ぶ。
(——どこに行ったのか、……気になるっ!)
キリを一人置いて、理由も告げずに独断で行動するなんて。
イズミの不審な行動は今に始まったことではないが、キリの中でふつふつと疑問が湧くのであった。
(うじうじ悩んでても仕方無いじゃん。追いかけよう!)
決心したように大きな瞳をさらに見開くと、キリはすぐに、先ほどイズミが向かった道を辿り始めた。
——が。
(む……。見失っちゃった……かな)
歩くスピードが早いからか。
前方にイズミの姿を確認することは出来なかった。
「むーん……。困った。どうしようかなあ……」
このままイズミに言われた通りにクラーウ時計店に向かうのが無難だが、それでは癪である。
キリはその場に立ち尽くした。
このままイズミを探し出して追いかけるか、否か——。
考えてみたが、いっこうに良い選択が出来ない。
キリは、ふとイズミが歩いていった先に視線をやって——なにやらメイド服の裾をたくしあげて眉をしかめながら歩いてくる人物が目に入った。
どこかで見たことある顔だが、——あいにく、キリにはメイド服を着るような趣味の知り合いはいなかった。
「……げっ…………」
その人物は、キリを見ると、そのような声を発した。
キリからすれば、初対面同然である。
そのような人物に、「げっ」と顔を引きつらせて声をあげられた。……なんと失礼極まりない奴だろう。親の顔が見てみたい。
キリは心の中で、思わずそうぼやいていた。
メイド服を来た人物は、キリの姿を認めるや、慌てて元来た道を走り出して、——転んだ。
長いスカートの裾を踏んでしまったらしく、華麗にすっ転んで、その場に潰れたカエルのごとく四肢を放り出して、しばらく動こうとしなかった。
その一連の流れを傍観していたキリは、さすがに可哀想に思って、メイドさんに近寄る。
「……大丈夫?」
言いながら、手を差し出した。
「…………」
「…………」
反応、無し。
もう一度試みようとして、——やめにした。どうせ同じ反応だろう。
メイド服は黙り込んだまま、その姿勢から動こうとはしなかった。
キリはため息をついて、メイド服の横に座り込んだ。
「あのね、メイドさん、……ちゃーんと反応、してよね。……『大丈夫』?」
——そこでキリは、何故か既視感を感じていた。
(前にも似たようなことが……それもこの逆の立場で……。……いつだったっけ)
それが実は、アスカとキリの最初の出会い方なのであるが、【小箱】探しでいっぱいいっぱいのキリは、そこまで思考が回っていなかった。
キリの言葉に、メイドさんが『ばっ』顔を上げる。
今まで真っ青なほど血の気が引いていた顔が、上気していた。
「『大丈夫?』、だとおおお?! 大丈夫な訳、ねーよ!! こんな格好っ……、お前に、見られたくなかった……!!」
「ハイ?」
見ず知らずのメイドさんにいきなり胸ぐらを掴まれた挙句、唐突に捲くし立てられたキリは、なんのことか分からず、目を白黒させた。
——突然喚きだして、なんなの、このコ……。
「あ、あのねえ、……私にはなんのことかサッパリ……」
言いかけて、口を閉じた。
メイドさんの顔を間近で凝視する。
「…………」
見たことがある。
どこかで。
懐かしい……。
——この顔は。
- Re: キリと黙示の王国物語【題名が迷子】 ( No.95 )
- 日時: 2013/11/12 22:58
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c.0m5wa/)
「……………。あの、一度、どこかでお会いしましたっけ」
「…………」
メイドさんが喚くのを止めた。
その顔は、なんだか哀しそうな、安堵したような、複雑な表情だ。
「……お前は、…………相変わらずなんだな」
「ほへ?」
「鈍過ぎるんだよ」
がっと掴んでいた服を離すと、メイドさんが、男っぽい口調で言った。
キリはその顔をじっと見つめて……。
「…………っああああぁぁあああ! アスカっ……!!」
「だあああっ!! 静かにしろっ……!」
慌ててキリの口を塞ぎにかかるメイドさん——の服を来た、アスカ。
アスカは眉をしかめながらも、状況が理解出来ていないキリに、これまでの経緯を事細かに——主に、女装していた誤解を解くために、必死になって説明をした。
「なるほどねー。アスカも大変だったんだねえ。……うん。……………似合ってる、よ。うん。似合ってる似合ってる」
「だからその間はなんだ、その間はっ……!」
「あっ、そうだ。アスカぁ」
キリはアスカの女装に別段気にする素振りは見せず、平然と別の話題に切り替える。
「ここに来るまでに、イズミさんを見かけなかった?」
「イズミだあ……?」
頭をポリポリとかくアスカ。
その様子からすると、何も知らないようだ。
「イズミがどうかしたのか」
「うん。実は……」
今度はキリがこれまでのことをかいつまんで説明する。
話終えると、アスカは唸りながら腕を組んだ。
「……ひとまず、追いかけてみるか」
「心当たりでもあるの?」
「無い!」
ビシッと言われ、反論する気も失せたキリは、ひとまずアスカの言うように、イズミの歩いていった道を、辿ることにした。