複雑・ファジー小説

Re: 【最近】キリと黙示の王国物語【毎日更新】 ( No.98 )
日時: 2013/11/13 18:04
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c.0m5wa/)


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しばらく通りを散策していたキリとアスカは、とある店からイズミらしき人物が出てくるのに出くわした。
偶然の産物だ。
遠目から見ているので顔ははっきりとは分からないが、民族衣装に白衣を羽織っている独特のスタイルは、イズミに間違いない。

「やった! 見つけた! おーい、イズミさ……っモゴ」
「待て。このままあとをつけよう。イズミが何をしているのか、気になるだろ」

アスカに口を塞がれているので、こくこくと頷くしかないキリ。

「よしっ、角を曲がった。オレたちも行こう」

慎重に追いかけるキリとアスカ。

——が。


「あ、あれ……?」


角を曲がった先は袋小路だった。
だがしかし。

「いない……」

そこには人影一つ、なかった。

Re: 【最近】キリと黙示の王国物語【毎日更新】 ( No.99 )
日時: 2013/11/13 22:41
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: c.0m5wa/)

「一体どこいったんだ……」
「ここですよ」

背後で声がした。
咄嗟とっさに振り返ると、そこには腕組みをしたイズミが、二人を見下げるようにして立っていた。

「全く……。あとをつけられてるとは思っていましたが。キリさん、先に時計店に行ってて下さいと言ったでしょう」  
「だ、だってだって……気になったん だもん」
「……キリさん」

前髪をかきあげ、ため息をつくイズ ミ。
そして、キリの隣で身を固くしているアスカを見やる。

「……ああ。誰かと思えばアスカ王子じゃないですか。お似合いですよ、王子」
「おっ…………!」

急速にアスカが赤面する。

「お前にっ……お前にだけは、"絶対に"見られたくなかった……!」
「じゃあなんでキリさんについてきたんですか。僕に見られたくないのであれば、真っ直ぐクラーウ時計店に戻れば良いでしょう」
「そっ、それは……」

イズミに正論を言われ、アスカはたじろいだ。
キリの横顔をちらりと見て、すぐに目 を背ける。

「きっ、気まぐれだよ」
「おやおや。顔が赤いようですが。熱でもあるんですかー?」
「からかうのもいい加減にしろよ!牢屋にぶちこむぞ!」
「からかってなんかいません。本当のことを言ったまでです」
「お前はっ……! もう、ウェルリア城に戻れっ!」
「ねえ」

二人のやりとりに終止符を打ったのは キリだった。

「イズミさん。……その、……用事ってなんだったの?」
「え?」

そしてそれは唐突な質問であった。

「私に言えないようなこと?」
「キリさん? なんでそんなことをいきなり……」

言ってから、イズミはすぐにキリの心情を察した。

不安なのだ、と思う。

先ほどの喫茶店でのやりとりの中で、キリは、リィの行動に驚き、戸惑って いた。
今までずっと信じてきて、いつでもどこでもずっと一緒に生きてきた——そんなリィが、キリの知らないところで訳のわからない行動をしているのだ。——不安になるのも当然だ。

そして、今度は一緒に行動していたイズミが別行動をとった。
——当然、不安 になる。か。

ましてや、キリはまだ10歳の女の子なのだ。
思春期の少女は、心身共に不安定な時期なのだ。


それにしても、とイズミは人知れずぼやく。


(僕も……信用されたもんだな)

思わず苦笑したイズミに、キリは首をかしげた。

「イズミ……さん?」
「いえ。スミマセン、独断で行動して しまって。実は、この近くで待ち合わ せをしている人が居まして」
「待ち合わせ?」

ハイと肯定して、イズミが頷く。

「——ただ、残念なことに、今日はもう来ないようです。また今度にします」

イズミは路地裏から表に面したとおり に出た。
時計店へと続く道を歩く三人。

その後ろで、ある人影が唇を噛み締めて三人を見つめていた——。