複雑・ファジー小説
- Re: 【最近】キリと黙示の王国物語【毎日更新】 ( No.104 )
- 日時: 2013/11/25 16:09
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: AAEf2Lwl)
【第六章 真実への序章編】
〜〜第一話:闇の中〜〜
明日の早朝に潮が引くと推測したキリとイズミの二人は、その日の夜のうちにクラーウ時計店を出発して、城が浮かぶ湖を囲んでいる林で一晩明かすことにした。
2人が城近くの林に着いた頃には、もう天上は真の闇に包まれていた。
木々の隙間から、ちらちらと星たちが垣間見える。
さて、と一息ついて、イズミはその場に荷物を下ろすと、キリに近くから枯れ木を拾ってくるように告げた。
言われたとおりに手頃な枯れ木を選び、それを手渡すと、イズミはしゃがみこんでそこに薪を組んだ。
白い息を吐いて、キリはそれを眺める。
イズミはシュボッと音を立ててマッチでおこした火を薪にくべると、辺りが途端にぼんやりとだが、明るくなった。
「ではここで、一晩明かしましょうか」
焚き火を囲んで、イズミが言う。
キリは寝袋を取り出して、横になった。
+++++++++
やはり深夜ともなると室温がぐんと下がる。
白い息を吐きながら自身を暖めるのだが、キリはなかなか寝付けないでいた。
キリの真横で焚き火の番をしてるイズミに、
「私が起きとくから、イズミさんは寝てていいよ」
とキリが言うと、イズミは苦笑した。
「奇遇ですね。実は僕も寝れないんですよ」
「"怖い"の?」
キリがすぐさま切り返してきた。
イズミは再度苦笑した。
「……ハイ。恥ずかしながら。……夜は嫌いです」
「どうして?」
「【暗いから】です」
「【暗い】と怖いの?」
「はい」
「どうして?」
「……一人だなと、感じるから」
「【独り】なの?」
「……【孤独】、なんです。だから夜は嫌いです」
「そうだよね。クスクスクス。【お父さん】、殺されちゃったしね、ふふふふふ」
ハッ、と、イズミは息を飲んだ。
否、呼吸が止まった。
——違う。
背筋を氷のようなもので撫でられた感触に、思わず身を硬直させる。
——違う。
今話している相手は。
——キリではない。
「【お姉ちゃん】は【アナタ】を置いて何処かへ行ってしまったんだ。クスクスクス。可哀想な子。独りぼっちなんだ。クスクスクス」
目の前の、【キリではないモノ】が、笑いながらこちらを見てくる。
イズミの目が、大きく見開かれる。
「…………お前、なんでそのことを知っている……お前は、……誰だ」
「ねえ」
次いで、ハッと顔を上げると、その目の前に少女の顔が迫っていた。
そして——。
その顔には、あるべきはずのものが無かった。
通常は眼球がある場所、そこには、暗くて深い穴が二つ、穿たれていた。
底なし沼のような。
見つめれば吸い込まれそうなほど、暗くて深い暗闇——。
奈落の底へ堕ちたら、二度と出てこれない——そんな底知れぬ恐怖が押し寄せてくる。
「ねえ【イズミさん】、なんで【夜が嫌い】なの?」
目の無い少女が、そう質問してくる。
「眠れないの? 怖いの? 寂しいの? なんで? なんでなの? 答えてよ。ねえ。ねえ」
なんだこれは、
——なんだ。なんなんだ、
イズミは退こうとして、思うように体が動かないことに気づいた。
金縛りにでもあったようだ。
これは、
——なんの拷問だ。
- Re: 【最近】キリと黙示の王国物語【毎日更新】 ( No.105 )
- 日時: 2013/11/27 00:48
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: B81vSX2G)
『夜は【孤独】なの。だから眠れないの? クスクスクス。そうか。そうだよね。【お父さん】死んじゃったもんね。【お母さん】も、【アナタ】を産んで死んじゃった』
「黙れ……」
『アナタが産まれ無ければ【お母さん】は死ななくてすんだのに。【お父さん】も、【お母さん】も、【お姉ちゃん】も、——誰も不幸にならなかったのに』
「黙れ……黙れ黙れっ…………!」
『アナタが不幸を運んできた。クスクスクス。【独りぼっち】になるのは当たり前』
「っ…………!」
ハッ——。
目が覚めた。
「夢、か……」
パチパチと焚き火の爆ぜる音。
「イズミさん……」
キリの声がした。
はっと声のした方を見る。
「寝汗、酷いよ。大丈夫?」
「…………すみません。キリさん。寝言か何か、言ってたりしました? 僕」
「ううんー。ただ、すっごく苦しそうだったよ。だからずっと頭をこうしてぽんぽん撫でてあげてたんだ」
そういえば——。
キリの右手はイズミの頭に乗っかっていた。
「……ああ、……ありがとうございます」
——まさか、こんな小さな女の子に頭を撫でられながら眠る日が来るなんて。
イズミは思わず、軽く息をついていた。
キリは悪びれた様子もなく、しきりに手を振っている。
「いーよいーよ。私も小さい頃、怖くて眠れないとき、よくリィさんに頭撫でてもらってたからさ。えへへ、良いでしょー」
小さい頃——その言葉でイズミの和やかな笑みが若干引き攣った。
ああそういえば、とキリが話しを切り出す。
「イズミさんの小さい頃ってどんなだったの? 気になるなあ〜、…………」
聞いてから、しまったという顔をするキリ。
先ほどのジュリアーティ呪術師との会話を思い出したのか。
……しかし、
「ああ、気にしないでくださいキリさん。……そうですね、僕には、7歳離れた【アリス】という姉がいました」
「アリス、……さん?」
「そうです。アリス=ファミリア。彼女はよく、僕を連れて色々と遊んでくれました。そして、王様の補佐で忙しい【父】も、合間を縫っては、僕たちによく色々なお話をしてくれました」
「へええー」
「当時のファーン家当主であったファーン八世の噂話から、何気ない世間話まで。あ、おとぎ話とかもしてもらってましたね」
思い起こすように、とつとつと喋るイズミ。
「アリスという姉も、亡くなった母に代わって、僕の面倒を本当に良く見てくれた」
「……そう、だったんだ」
「だから、寂しいと思ったことは一度もありませんでしたよ」
キリの気持ちを汲んだのか、イズミは微笑みながらそう言った。
相変わらず、真意の分からない表情を浮かべて物を言う人物である。
「……ねえ、イズミさん」
「なんですか?」
「今その【お姉さん】は、何処にいるの?」
「ん? さあね」
「え。さ、『さあね』って……、え?」
イズミは、動揺するキリに優しく微笑みかける。
そうしてから、少し思案する素振りをみせると、ゆっくりと口を開いたのだった。
「そう、僕の姉・アリスは——」