複雑・ファジー小説
- イズミさんの過去編 ( No.107 )
- 日時: 2014/03/07 12:25
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: bh4a8POv)
【第六章 真実への序章編】
〜〜第二話:イズミの過去、キリの過去〜〜
「僕の姉・アリスは、今から10年前の【ウェルリア大革命】の際に、行方不明になりました」
キリは刹那、黙り込んでいた。
イズミは構わず、とつとつと喋り続ける。
「呪術師であった父は、自分が【何者かに殺される】と言うことを事前に予言していたんでしょうね。今から12年前の【呪術師暗殺事件】の前日、僕と姉にまで被害が及ばないように、父・レーゼはこっそりと城下町に逃がしました。それから2年間、僕は姉と2人きりでひっそりと暮らしていたんです」
——だけど、今から10年前の【あの日】。
ウェルリア王国全土が震撼した【あの事件の日】。
「……農夫の【ライベル=ウィルア】が中心となり、【ウェルリア大革命】が起こったんです」
城下町で暮らしていたイズミらの耳に入ってきたのは、革命軍が城に乗り込んだという知らせ。
街の人々は大歓声をあげて、次々に鍬やつるはしを持って、加勢し始めた。
女・子どもは、荒れ狂う国民から逃れるように教会に避難を始めた。
城下町は怒りと興奮で溢れ返った——。
「姉は僕を連れて安全な場所に逃げようと、街中をひたすらに走りました」
街中は、業火に包まれていた。
幼いイズミの目に写ったその光景は、まるで戦争にでもあったような悲惨なものであった。
様々な怒号が飛び交い、何処かから発砲音らしきものも聞こえる。
大革命のとばっちりに合わないように街中を必死に走っていたイズミとアリスは、刹那、混乱で溢れ返っている道端ではたと立ち止まった。
アリスはイズミの手を振りほどくと、その手をイズミの肩に載せ、
『貴方は先に安全な所へ行きなさい。お姉ちゃんはちょっと様子見てくるから』
『嫌だ。待って、行かないで……!』
アリスは後ろも振り返らず、そのまま全速力で元来た道を走り始めた。
その行く手には、壊滅的な被害を受けている城があった——。
「そして、……その後、いくら待っても【姉】は戻ってきませんでした」
「…………」
ただ泣きじゃくることしか出来ない幼いイズミ。
燻る煙の中で、呆然とつっ立っている少年の姿——。
キリの中で、何かが弾けた。
「あれは、…………イズミさん、だったんだね」
「え?」
- Re: ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.108 )
- 日時: 2013/11/27 22:05
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: sCSrO6lk)
イズミがキョトンとした顔でキリを見る。
キリの頭の中では、この間見た夢がフラッシュバックしていた。
——幼い姉弟の夢。
あれは、イズミの昔の記憶だったのか……。
「あの……キリさん?」
「……あっ、ごめんごめん。独り言、独り言」
続けて、とキリはイズミに話の続きを促す。
イズミは困ったように眉を下げると、しかし、言われたとおりに話を続けた。
「……そんな僕を助けてくれたのが、現在ウェルリア兵の主任兼Sクラスの先生で、当時は反政府軍の一員として活動していたヨハン=ファウシュティヒ先生です。……なんでも、1人で燃え盛る炎の中に突っ立っていた僕が心配になって拾ってくれたんだって」
そう話しながら、枯れ木で焚き火をつつく。
乾いた音を立てて、積み上げた薪が崩れる。
「それから、ずっとヨハン先生に育ててもらった。戦争で奥さんと子どもを亡くされていたから、僕のことを実の子どものように可愛がって下さったんだ」
「そう、だったんだ……」
「それから数ヶ月して、ライベル=ウィルアが国王になった。かと思うと突然軍を作るって言ってヨハン先生を責任者として任命した。兵士を育てるためのウェルリア兵育成学校もその時開校して、10歳になった時に、僕も無理矢理入れられた」
そこで2年間兵士としての教育を受けさせられたよ、と告げるイズミの表情は、なんとも言い難いものだった。
「で、卒業してウェルリア兵になったんですが、まあ色々ありまして、……どうしても【ウェルリア大革命】の【真相】を知りたいと、研究員になるためにウェルリア兵から逃げ出しました」
「【ウェルリア大革命】の、【真相】……?」
「ええ」
「それって、つまり、……どういうこと?」
「僕と姉が逃げる間際に、父のレーゼが言ったんです。『これから起こる【革命】は、全て仕組まれたものなのだ』と」
「ん……?」
「呪術師レーゼは、自身の占いで、その3年後に【ウェルリア大革命】が起こることを予言していたんでしょう。——つまり、【大革命】の裏で暗躍していた人物がいるということです」
「…………アンヤク……?」
「そうです」
イズミが大きく頷く。
「【ウェルリア大革命】の表向きの歴史では、『呪術師レーゼがファーン三世をたぶらかしてウェルリア王国を貧困に至らしめ窮地に追いやり、そんな腐った王族を、立ち上がった農民が片っ端から片付けた』と言われています。——しかし、実はそうじゃなかった」
「レーゼさんは、悪者じゃなかったってこと?」
「何者かが【嘘の噂】を流したんでしょう。レーゼが失脚するように。そして、ファーン家も滅亡させようと企んだ。……それが誰なのかはまだ掴めてませんが、……だいたい目星はついてます」
「…………むーん」
キリはしばらく黙り込み、それから、ばっと頭を抱えた。
「うう……、頭がこんがらがってきたっ!」
「アハハハ。まあ、そういうことです」
そうして1人納得してから、
「って、何話してるんですかね、僕。すいませんね、キリさん。僕の身の上話なんて。疲れたでしょう」
そう言って節目がちにキリの方を向くイズミ。
キリはそれに対して、大きく頭を振っていた。
「ううん。……ありがとう、イズミさん」
「え?」
思いがけないキリの言葉に、イズミら思わず聞き返していた。
キリは満面の笑みを浮かべていた。
「イズミさんの、子どもの頃の話。話してくれて嬉しかったもん。ありがとう」
「ああ、…………いえ」
イズミは持っていた枯れ木を焚き火の中へ放り込んだ。
パキッと音を立てて、枯れ木が燃え上がる。
「そんな、お礼を言われるようなことは……」
しばらく、焚き火が燃える音だけが辺りに木霊す。
と、
ふいにキリが口を開く。
「ねえ、イズミさん。イズミさんは、【お姉さん】と会いたいとは思わないの?」
「え?」
イズミも予想だにしなかった質問を投げかけるキリ。
イズミは、くすりと微笑した。
「どうですかね」
目をすっと細める。
「でも、……案外、僕たちの近くにいたりして。ね」
「…………え?」
その言葉の真意を問う前に、 イズミは再度誤魔化すように笑い声をあげるのだった。
- Re: ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.109 )
- 日時: 2013/11/28 14:16
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: sCSrO6lk)
「そうだ。私の小さい頃の話なんだけどね、」
むくれていたキリが突然放った言葉に、イズミは反射的にコクリと頷く。
キリの次の言葉を待つ。
しばらく静寂が2人を包み込む。
——が、しばらくしてキリが放ったものは、笑い声だった。
「……って言って。話したいんだけどね。私、【記憶無い】んだー」
「え……?」
驚くイズミに、キリがあっけらかんとした口調で続ける。
「パパもママも、顔も名前も知らないし」
「……あの、両親の顔も分からないって、……じゃあ、キリさんの名前は、どなたにつけてもらったんですか?」
「ああ、名前?」と復唱して、キリは答える。
「名前はこの【短剣】に彫ってあったんだって。リィさんが言ってた。あ、リィさんって、こないだ時計店で挨拶した黒髪美人のお姉さんね。小箱に入って海岸に流れ着いてた赤ん坊の私を、拾って育ててくれた人なんだよ」
「【短剣】に名前、ですか」
「そうだよ。ほら、短剣の持ち手のところに、『キリ』って、彫ってあるんだ」
キリに示された場所には、確かに、筆記体で『キリ』と彫られていた。
「でも、良いんだ、私。リィさんが家族だと思ってるし、今こうやってイズミさんやアスカとも一緒に居られるし」
そう言ってから、タオルケットに顔をうずめる。
キリの顔は、不安に満ち満ちていた。
「……アスカ、突然、どうしちゃったんだろう」
「……そうですね」
自分のせいとはいえ、なくなくキリの【小箱】奪還に尽力していたアスカ。
反政府軍の勢力が拡大してきて不安が募ったのか、それは分かるが、しかし——。
「突然、過ぎますよね……」
あの怯えよう……。
今までのアスカには想像出来ないほど、切羽詰まっていた。
「キリさん、心当たりはありますか?」
「…………知らない」
キリは、そのままタオルケットにくるまって埋まってしまった。
ため息をついて、イズミは1人、思案する。
——確かあの時、アスカ王子から、何か、異様な気配を感じた。気のせいかもしれないが。
少し、アスカ王子の周辺を探ってみるか。
イズミは1人で納得すると、キリの頭に優しく右手を添えた。
キリは軽い寝息をたてて、眠りについていた。
何処かでフクロウがホウと一鳴きした。