複雑・ファジー小説
- Re: ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.112 )
- 日時: 2013/12/24 02:51
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: WPJCncTm)
【第六章 真実への序章編】
〜〜第三話:突然の来訪者〜〜
早朝、立ち込める靄の中を、キリとイズミは歩いていた。
2人はウェルリア兵に顔を知られているため、マント付きフードを目深に被って行動していた。
しかし、既にキリは邪魔だと言わんばかりにフードを脱ぎ捨て、城につく以前に当初の意味をなしていなかった。
そんなキリを見て、イズミは軽くため息をつく。
——コイツは相変わらず……。
何事も楽観的な思考なキリに、イズミはこの際なにを言っても無駄だという結論に至っていた。
イズミに半分諦められているとは知らないキリは、相変わらずの好奇心を持って森の中を進んでいる。
「本当に湖に道なんか出来てるのかなあ。ねえ、イズミさん」
アスカの話では、森を抜けた先には、湖があり、潮の満ち干きによって城へと続く一本の道が現れるという。
イズミはフードの下で、黙って笑みを浮かべた。
しばらく靄の立ち込める森をズンズンと進む。
——ふと、2人は揃って立ち止まった。
「……気がつきましたか、キリさん」
「うん……」
身を固めるイズミとキリ。
「人の気配、だよね」
そう言って、キリは腰に提げている短剣に手をかける。
イズミも隠し持っていた短剣を強く握り締め、この先の展開に備えた。
ザッザッザッ——。
足音が、近くなってきた。
確かに——、
靄の向こうに、誰かがいる。
- Re: ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.113 )
- 日時: 2013/12/15 10:57
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: kG5vJqWm)
「アスカ!」
「アスカ王子でしたか……」
アスカがシマフクロウのシィを連れて、そこに立っていた。
その表情は、なにやら吹っ切れた様子だ。
「なんで、ここにいるの……?」
未だ状況が理解出来ていないキリに、アスカが頭を掻きながら弁解する。
「いやあ……。その、昨日は、ああ言っちゃったけど、さ。……やっぱ、……心配になって……。その……シィに頼んで2人の安否を確認してもらったんだ」
言いにくそうに、だが慎重に言葉を選んで発言するアスカ。
そういえば昨日はやけにフクロウの声がうるさかったなと、イズミは昨晩のことを思い返してみた。
「——って、王子。なんです、フクロウに僕らの安否を頼んだんですか?」
「なんだよイズミ。バカにしてんのか」
「いっ、いえ。別にそういうつもりじゃ……」
「そうだよイズミさん! フクロウはフクロウでもね、シィは賢い子なんだからね!」
「いやいや、なにもキリさんまで僕を責めなくても良いじゃないですか……」
慌てるイズミを前に、笑い合うキリとアスカ。
イズミはそんな2人を見て、軽く微笑むのだった。
——それに、だ。
イズミは人知れずアスカを一瞥していた。
——昨日感じた【異様な気配】、今日はしない。
(そう。昨日のあの気配は、一体……なんだったんだろうか)
「イズミさーん、置いてっちゃうよー!」
向こうの方で、キリが大きく手を振って叫んだ。
隣で慌てて口を塞ぎにかかるアスカの姿を見て、イズミは再度、微笑するのだった。
+++++++++++++
「……門番は、2人、か」
「ですね、王子」
「どうする? このまま突っ切っちゃう?」
「なに物騒なこと言ってんですか、キリさん。らしくないですよ」
「えへへへへ。ごめんごめん。言ってみたかっただけー」
「キリさん、もうちょっと真剣になってください」
「私はいつでも真剣だよう!」
「食べもんのことしか頭に無いくせにな」
「むっ……アスカっ……! そ、それは関係ないと思うけどな! そういうアスカだって、さっきまで変だったじゃん!」
「なんだよ! それこそお前に関係ねーじゃん!」
「か、関係ないって言ったあ?!」
「まあまあまあ、落ち着いてください2人とも。すぐそこには、凄腕ウェルリア兵さんがいるんですよ。見つかりますって」
「…………あ」
アスカに連れられ、キリとイズミは城の正門に近い茂みに身を隠していた。
こっそりと様子を伺うに、キリの何倍もある大きな門の前には、門番が二人。
アスカとイズミ曰く、両脇を固めているのは武術に長けたウェルリア兵だという。
3人はしばらく顔を見合わせてタイミングを見計らっていたが、やがて、ふっと立ち上がった。
イズミだった。
「さて。行きましょうか、全てを終わらせに」
キリは腰に提げていた形見の短剣を、ぐっと握り締めた。
- Re: ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.114 )
- 日時: 2013/12/21 23:35
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: twODkMOV)
++++++++++++++
アスカが先頭を歩き、その後をキリとイズミが追いかける形で3人は正面玄関を目指す。
わざわざ正面から侵入するのはどうかと思うかも人もいるかもしれないが、こっそり裏口から侵入しようにも、このご時世である。城の守備は通常よりも強化されているに違いない。
なにより、こちらにはウェルリア王国第一王子のアスカがいるのだ。
アスカ王子に招待されたという名目で正面から堂々と侵入するほうが、かえって怪しまれないというのがイズミの算段だ。
「……では、お伝えした通りに、お願いしますよ、王子」
「ああ、分かってる」
声を抑えて会話するイズミとアスカの目の前に、ウェルリア城の正門が立ちはだかる。
しばらく門を眺めていると、案の定、門番の1人に声をかけられた。
「お前ら、こんな朝っぱらから何のようだ……」
そこまで言って、ひっ、と息を呑む。
「これはこれは、アスカ第一王子ではないですか……!」
門番が驚きの入り交じった声をあげ、深々と一礼してアスカに近づく。
「アスカ王子様。こんな朝早くに、どちらに行かれてたのですか?」
「ああ、ちょっとな。用事があって」
「はあ、……そうですか」
曖昧な返事をしてから、門番はふいにアスカの後ろにいる2人の男女に気がついた。
——な、なんだコイツらは。
男の方は、何故か顔が隠れるくらい目深にマントのフードを被っている。
——怪しすぎる、……何者だ?
「王子様、こやつらは……」
「コイツらは私の客人だ。何か文句でもあるか」
アスカの言葉に、門番はとんでもないと言って頭をぶんぶん振り回すが、それでも気になるようで、
「あのお……。出来ればそちらの客人の フードをとっていただきたいのですが……」
「何を言う。彼らは私の客人だぞ。無礼を申すな」
「しかしですな、王子。これは国王様 からのお達しで……。このご時世です。怪しい輩や見知らぬ者を城内に入れる時には必ず顔をお見せくださいと」
言い終わらない内に、もう1人の門番が無理矢理フードを脱がしていた。
直後、イズミの端正な顔があらわになる。
フードを脱がせた門番が「あっ——!」と息を飲んだ。
「おまっ……、い、イズミっ……!」
「あれっ、リークくんじゃないですかか」
「『リークくんじゃないですか』、じゃねーよっ! イズミっ、こないだはよくもSクラスの連中をたぶらかして逃げてくれたなっ……!」
「……ああ。そういえば」
思い出したように、ポンと手を打つ。
「こちらこそ。この間は本当にお世話になりました」
にっこり。
腹の中では黒いものが煮えくり返っていそうな爽やかな笑顔を浮かべて返答するイズミ。
この間城に侵入した際にされた仕打ちのことを言っているのだ。
——ああ、とキリも頷く。
「この人のせいで、確か逃げるとき湖に飛び込まなきゃいけないはめになったんだもんね……」
ぼそりと呟くキリであった。
「そういえば、いつも一緒にいるフィアル君がいませんね」
イズミの言葉に、そうなんだとリークが眉尻を下げて素直に返答する。
「別の仕事だとかで、今は一緒じゃないんだ。……フィアルの奴、こないだから、なんかおかしくて……」
「……フィアルくんが?」
「そう……。……って、そうじゃなくてえ!」
リークは雑念をはらうように頭を振ると、所持していた剣を引き抜いた。
「イズミ、覚悟しろっ! 今日こそお前を捕まえて、Sクラスに昇格してやるんだからなあ!」
「やっぱりこのパターンですか……」
やれやれとため息をつくイズミに、苦笑するキリであった。