複雑・ファジー小説

Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.124 )
日時: 2014/01/05 22:10
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: m.NeDO8r)

【第七章 真実への序章編】
〜〜第四話:うごめく影〜〜

「ひとまず侵入出来たのは良いものの……」
「お腹空いたよおう」
「ここで【例のアレ】をどうやって探すか——ですよね、王子」
「そうだ。【小箱】が見つからなかったら、オレはわざわざ危険を犯してまで城に帰ってくる意味は無かったということになる、……ん? というかむしろ、逃げ出したにも関わらず自ら舞い戻るなんてバカなことやらなくて良かったんだよな、うん。……見つからなかったら、意味がないんだよ。そうだよっ……! どうするんだよイズミ、どうするんだよお……!」
「イズミさあん。何か食材ちょうだいよおう。お腹空いたよう〜」
「全く……」

イズミはあまりの騒々しさに頭を抱えると「ハイハイハイ……」とその場を諌めた。

「キリさんはこの飴玉でも舐めといて下さい。……ひとまず落ち着いて下さい、お2人とも」

そう言ってから、「けれど……そうですね」とアスカに同意した。


「王子の言う通り、無意味ですね、それは」
「だああ〜っ……やっぱり……」
「でも」

打って変わって、晴れやかな表情を浮かべるイズミ。

「僕は信じてますからね、ジュリアーティ嬢のお言葉を」
「んなの。ただのバアさんだろ」
「ひはうほん! ほはあはんは、ふほひんはほん! (違うもん! お婆ちゃんは、凄いんだもん!)」

突然のキリの物凄い剣幕に、アスカが思わず眉をしかめる。

「お前さあ……、アメを舐めながらしゃべんなよ」
「"ほはえ"ひゃないおん! ("お前"じゃないもん!)」
「それをやめろって言ってんだっ! 何言ってるか、分かんねえ……!」
「ハイハイハイ。……あれですよ、喧嘩するほど仲が良いって言いますからね。さ、行きますよ、お2人さん」

軽口を叩きながらイズミは再度、壁越しにこっそりと辺りを見渡した。

現在——早朝のこの時間は、城中の者達はほとんど活動していないに等しかった。
これだけ騒いでも気づかれていないのは、きっと皆、寝静まっているからであろう……今のところ、前後左右、何者の気配は感じない。

動くとすれば、今この時しかない。
——何かを仕掛けるには、絶好の機会である。

「行くって、何処へ?」

ごっくんと飴玉を飲み込んだキリが、イズミにたずねる。
イズミが振り返ると、キリは飴玉が突っかかったのか激しくドンドンと胸を叩いていた。そんなキリに向かって答える。

「何処って、【小箱】探しですよ」
「ああ。ってことは、【小箱】の場所が分かったんだね、イズミさん!」
「存じません」

にっこりと満面の笑み。
キリもつられて、思わず笑い返した。

「……っいやいやいや、ダメだろソレ!」
「なんですか王子。突然叫んだりして」
「そうだよアスカ〜、また兵士さんたちに見つかっちゃうよお」
「もうすでにこの状況下が危ういと思うのはオレだけなのか?!」
「まあ王子のおっしゃるとおり。ここで油を売っても、な〜んにもなりませんね」
「え〜。ねね、イズミさん。油を売るって、どのくらいの値段?」
「やってる場合か! ……イズミ、キリ、もういい。オレは、決めたぞ!」

突然高らかに宣言したアスカに、キリとイズミはお互い顔を見合わせた。

「……何を決めたの? アスカあ」
「これからのことだ! ……ひとまず、適当に当たるぞ! それっぽいところをそれぞれ探すんだ!」

威厳たっぷり豪語するアスカに、思わずすっ転ぶキリとイズミ。

「……王子、それもどうかと……」
「さあ行くぞーっ! 王子の命令だ! 【小箱】探しに全力だあ〜っ!」

城内に潜入した3人は、かくして、王子の(無理矢理な)命令で、ひとまず手分けして【小箱】探しに当たることにしたのだった。