複雑・ファジー小説

Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.126 )
日時: 2014/01/10 18:03
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: uqFYpi30)


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「……で、どうだった?」

集合時間になり、城内をこっそり捜索し終えた3人は、別れた場所で落ち合っていた。
開口一番、アスカがそれぞれに報告をうながす。

「僕は、手掛かりなしです」

イズミが諸手を上げて溜息をつく。

「そうか……」

やはり、何の情報も無い中で闇雲に探し回るのは効率が悪いのか。
成績優秀な元ウェルリア兵のイズミでさえ、手掛かり無しと来た。
アスカはイズミと同じように溜息をついた。
次いで、キリを振り返る。

「お前はどうだった?」

その言葉にキリはびくりと身体を震わせる。
何故か、そわそわと落ち着きがない。

「……キリ?」
「あ、あのお……」

怒らないでね、と言ってから、キリは口元に右手を添えてこっそりと2人に伝える。

「バレちゃったの、黒髪お団子頭のメイドさんに」
「何が?」
「……外部から、私達が侵入してること」

途端にアスカの血の気がさっと引いた。
イズミが苦笑する。

「……いやいやいや、笑ってる場合じゃないってイズミ。……んで待て、キリ。それってつまり……」

言うやいなや、アスカの背後で怒号が飛び交う。

「侵入者だー! そっちにいたかー?」
「いないッス!」
「お前ら、手分けして探せ! 暗闇に潜んでる奴らを引きずり出せー!」
「ハッ!」

バタバタと慌ただしい足音が無駄に広い廊下に木霊す。

「…………」

無言で事の成り行きを見守っていたキリとイズミとアスカは、お互いの顔を見つめ合った。

「……ヤバイ」
「ですよ、王子。ウェルリア兵たちにバレてますよ。どうするんです?」
「〜〜っ。キリぃっ、お前のせいなんだからな!」
「わ、私は別に好き好んでお団子頭のお姉さんに出会ったわけじゃないしい……! ……んう。でも今思い返してみるとあのお姉さん、すっごい美人だったなあ〜。前にも会ったことがある気がするんだけどなあ〜。うんん……、」
「言ってる場合かあっ……!」
「まあまあまあ。落ち着いて下さい。涙目になってますよ、アスカ王子」
「ぐっ……!」

ひとまず、と。
アスカはこの現状を打開する方法を探した、——探し出すんだ……!


「オイっ、こっちから声がしたぞ!」
「……げっ、マズイっ……!」

侵入者を捜していた兵士が、アスカたちのやりとりに気づいて、近づいてきた。

しかしキリ達には好都合なことに、まだお互いの姿は見えていない。
というのも、兵士は角を曲がったところにいるからだ。
ただし、その角を曲がれば、ばったり鉢合わせではあるが。


「反対側の通路から逃げましょう」

押し殺したようなイズミの声に、3人は急いで兵士のいる通路とは反対側の廊下を駆ける。

しかし——。



「2人とも、ちょっと待ってください」

いきなりそう言って、イズミは片手でキリとアスカを制止した。
行く手をさえぎられた2人は当然のように困惑する。

「イズミさん? いや、ホラ、早く逃げないと後ろからウェルリア兵さんが……」
「そうだよっ……!」
「いいですか? よーく耳を澄ましてください。前方からも、足音が聞こえます」
「前方って、え……?」
「それってつまり……。ど、どうすんだ、挟まれたのか……?」

イズミの背後で、身を寄せ合うキリとアスカ。
そんな2人を制止したままイズミは耳を澄まして、見えない相手の正体を探る。

「これは……」

途端にイズミが拍子抜けしたように肩をすくめる。

「鼻歌を……歌ってます」

それを聞いたアスカがいきどおる。

「どっ……どこのどいつだっ、呑気に鼻歌なんかっ……!」
「それが、どうやらメイドさんのようで」
「まさかっ……!」

刹那、アスカの顔色が青ざめた。
どうしたのとキリが問う隙もなく、アスカは慌ただしく周囲を観察し始める。

そうして、


「……ここは……ああっ……」

そうつぶやいて、がっくりと肩を落とす。

「アスカ?」
「……あの……この部屋、なんだけどさ」
「この部屋がどうかしましたか?」 


アスカはゆっくりと2人を見遣った。

「ユメノの……部屋なんだ」

その顔には、どっと疲れが見えた。

Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.127 )
日時: 2014/01/12 09:08
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: uqFYpi30)



「ふんふんふ〜ん」

廊下の先から、楽観的なメイドの鼻歌が近づいてくる。

アスカはこめかみを押さえ、

「つまり、だな。この鼻歌のメイドって言うのは……」

アスカが言い終わる前に、キリ達の目の前に、洗濯カゴを抱えたメイドが姿を現す。

「あ、アスカ王子じゃないですか〜」

満面の笑みを浮かべて、ひらひらと両手を振る。
アスカは、やっぱりか、と疲れ切った表情を浮かべて、

「この非常事態に……サイアクだ」

キリとイズミにしか聞こえないようにぼそりと呟いた。

一方で何も知らないメイドであるが、わざわざ洗濯カゴを手放して全力で両手を振ったので、当然のごとく、洗濯カゴを落下させていた。

廊下に鈍い音が響き、カゴの中に入っていたシーツやら衣類やらが、そこら中にぶちまけられる。

「キャアァァア! せっかく洗濯したのにぃぃ」

その状況に、慌てふためきながら急いで洗濯物を拾い上げるメイド——だが、慌てに慌てていたので今度は近くのシーツに足を突っかけてしまい、

「イヤァァアァ!」

今度は見事にすっ転んだ。



その一連の流れを、呆気あっけにとられて見ていたキリとイズミは、(アスカはいつも通りと言わんばかりに腕組みして溜息をついていた。)


「叫び声だ! 近いぞ!」

兵士の叫び声に、はっと我に返った。


——そうなのだ。
もう、すぐそこまで、追手がせまっている。
 
「アスカ王子っ!」

イズミは、アスカとキリの腕をぐいっと掴むと、とっさの判断で近くの部屋に無理矢理押し入った。

Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.128 )
日時: 2014/01/14 18:44
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 0otapX/G)

突然の出来事に、アスカとキリは呆気にとられていた。
そんな2人にイズミに「静かにしていて下さいね」と念を押され、こくこくと黙って頷く。

そうして、外の様子をうかがうべく、キリとアスカは黙って扉に耳をくっつけるのだった。


部屋の外では、メイドがやっと立ち上がったようだった。
あ痛たたたぁ、ヒドイ目にあいましたよぉ、などとぼやきつつ、スカートをはたいている。
そこへ、

「見つけたぞー、侵入者ぁーっ!」

兵士の叫び声に、メイドがきょとんとした表情で見上げた。

「…………はあ。あの、なにか?」

「あれ、……ああ、メイドさん、か?」
「はあい。ワタクシ、ユメノ皇女のお世話係のウィンクと申します」

メイド服の裾を引っ張って優雅にお辞儀をするが、その足元にはお世辞にもメイドとして有能とは言い難い光景が広がっていた——詳しく状況を説明すると、ウィンクを中心に、衣類やらシーツ類やらが散らかっていた。

「ああ、メイドさん。あのう……」

ウェルリア兵の視線を感じ、メイドのウィンクは慌てて足元の洗濯物を拾い上げる。

「あ、そそその、ゴゴゴメンナサイっ」
「いえいえ。アナタのうわさはかねがね聞いていますから」
「ウワサ……ですか?」

兵士は、ウィンクと一緒に洗濯物を拾いながら、その言葉に、はっと顔色を変えた。
まさか本人を前にして、「美人なドジっ子メイドさん」の逸話を語れるわけがない。
ウェルリア兵たちの間では語りぐさとなっているのだが。

「んっ……んん。いや、なんでもないんだ」

不思議そうに首を傾げるウィンク。
その澄んだ翡翠色の瞳が綺麗で、思わず見惚れてしまう。

「……あの……まだ何か?」
「ああっ、いや……」

んんっ、と何度もせき払いをして、拾い上げた洗濯物をウィンクに押し付けて、ウェルリア兵は立ち上がる。

「侵入者では無かったな。御免、失礼する」

元来た道を足早に帰っていくウェルリア兵の背中を見て、ウィンクは「なんでしょうねえ」とぼやくのであった。


そうして、全ての洗濯物をカゴに入れ直したウィンクは、自身のお世話係の相手であるユメノ皇女の寝室を訪れた。
軽くノックをして、声をかける。

「ユメノ様あ〜。朝ですよ〜」

これは、いつもの起床をうながすためのお世話係としての行為であるのだが、いつものごとく、ユメノから返事はない。

「ユメノ様。失礼致しますねー」

ガチャリ——。
無防備にもそのドアを開けたのが、運のツキであった。