複雑・ファジー小説

Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.130 )
日時: 2014/01/15 22:27
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Kb4sFgR0)


まずドアを開けて、ウィンクの視界に飛び込んできたのは、先程廊下で出会ったアスカ王子であった。

「朝、お早いんですねえ、アスカ王子」

そう言って、笑顔で手を振る。
そうしてから、ふとその後ろの2人に目が釘付けになり……。

「……と…………、ああーーっ! も、もしや、侵入者ぁ……?!」

叫ぶウィンクの口を、アスカは慌てて塞ぎにかかった。
口を塞がれたウィンクは、もがもがと苦しそうである。

「シーッ、だから静かにしろって! ユメノが起きるだろっ」
「モガモガモガ」
「あ? なんだよウィンク」
「モガモガモガ……!」
「んん? なんだって?」
「あのお〜……アスカあ」

キリが苦笑いしながらアスカに言う。

「手を離してあげてよう。……苦しそう、だよ」
「モガモガモガっ……!」
「あっ。ご、ゴメン」

アスカが慌てて塞いでいた手を離す。
アスカの手から開放されたウィンクは、すぐさまその場にしゃがみこむと、大きく息を吸ってからゲホゲホとむせた。


(そんなことより……)

むせ返っているウィンクを尻目に、アスカは、そぉーっとにユメノの様子を伺う。

この騒ぎでユメノが眠りから覚め、ただでさえ騒々しいこの事態にユメノが加わるとどうなるか——。

想像するアスカの額に、冷たい汗が滲み出す。

——そんなこと。
…………そんなこと、考えただけで悪寒がする。

だがそんなアスカの考えを知ってか知らずか、張本人であるユメノは、ピンク色のフリルがたくさん付いたベッドで気持ちよさそうに寝息を立てていた。

(良かった……)

その平和な現状を確認して、アスカはひとまず胸を撫で下ろす。

そうしてから、未だにむせ返っているウィンクに視線を戻した。


アスカが視線を戻すと、キリが苦笑しながら咽返るウィンクの背中を優しくさすっていた。

「げほっ……。あ、ありがと、……う、ございます」

しばらくして、ウィンクが詰まりながらもそう言った。
もう大丈夫ですから、とキリにお礼を言って、刹那、ウィンクはその顔を二度見する。

「だっ……でえっ! どなたですかアナタわあっ……!」
「あー…………ハハハ」

明るい髪色を2つに結び短剣を提げた少女は、突然目の前でそう叫ばれ、思わず苦笑する。

その少女の横には、民族衣装の上に白衣を羽織っている不思議な青年が立っていて——、
ウィンクは、ぐぐっと拳を握りしめた。

——この人たち、怪しさきわまりないデスっ。


すぐさま臨戦態勢をとるのだが、どうもサマになっていない——そんなウィンクに、イズミが一歩歩み寄った。

「"はじめまして"、メイドさん」

いつものように爽やかな笑顔を浮かべて、おのれの紹介を始める。
ウィンクの表情が一瞬、こわばった。
そんなウィンクに、甘く微笑みかける。

「僕は"イズミ"と申します。怖がらないでください。ただの研究員ですから」

笑顔でそう告げ、ウィンクの両手を優しく包み込む。

「僕らは決して怪しい者ではありません。現に、こうしてアスカ王子とも知り合いですし……」

そう言って、アスカを振り返る。
アスカはこくこくと物凄い勢いで肯定する。

「ホラ、ね」
「あ、ああ……」

ウィンクの頭の中は目まぐるしく回転していた。

グルグル……
グルグルグル…………。


「わ、ワカリマシタ。ワカリマシタからっ……!」

急いでイズミの手を払いけ、照れたようにその手を後ろで組む。

「アナタ方がアスカ王子の知り合いというのは分かりました。けれど、不法侵入者なのは確かデスっ!」
「不法じゃない。王子のオレが招待したんだ」
「ぐっ……、そ、それを言われると……」

困ったようにちらちらと視線を宙に彷徨わせ、

「けっ、けれど! アナタ方は、兵隊さんたちに追われていたっ! 立派な不審者デスっ!」
「その不審者を前に、よく悠々としてられるよね……」

さすがのキリも、ウィンクの行動に思わずそうぼやくのであった。

「えーっと、……そのことなんですけどね」

——つと。
イズミが、口を開いた。

「少し、気になることがあるんですが」

Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.131 )
日時: 2014/01/17 17:02
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Kb4sFgR0)




眠っているユメノ以外、全員がイズミに視線をやる。

「いやあ。あのですね、」

イズミは人差し指を立て、何でもないことのように、言う。

「兵隊さんに『侵入した』ってことがバレたのは、確かキリさんが黒髪お団子頭のメイドさんと出会ってしまったからですよね」
「ウン。そのあとに『アリャしまったー』って思って、すぐ逃げたんだけど」
「そして、そのすぐあとでウェルリア兵の皆さんが『奴らを捕まえろー!』となったんですよね」

その言葉に、アスカが頷く。

「そうだな。そのおかげでユメノの部屋に入っちまって、ウィンクとも出会っちまって……」
「そんなああ〜〜。残念がらないでくださいよ、アスカ王子。ワタクシはお会いできて光栄です」
「それがイヤなんだよっ! とりあえずオレから離れろ」

背後から抱きつく形でアスカにくっついていたウィンクは、そう言われ、しぶしぶ離れる。

一息おいて、イズミが口を開く。

「……だとしたら、やっぱり不思議です」
「なにがあー?」
「考えてみてください、キリさん」
「ほへ?」
「黒髪お団子頭のメイドさんは、キリさん"だけ"に出会ったんですよね」

キリは当然のごとく頷く。

「だとしたら、やっぱりおかしいです」
「……なにがあ?」

未だに理解ができていないキリたちに、イズミはかぶりを振ると、

「考えても見てください」

そう言って、再度同じことを繰り返した。