複雑・ファジー小説
- Re: 【イメ画】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【真実への序章編】 ( No.134 )
- 日時: 2014/01/18 21:35
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Kb4sFgR0)
「黒髪お団子頭のメイドさんは、城内で見知らぬキリさんに出会ってしまった。おかげで不審者であると騒ぎたてられてしまった」
「だからその何処がどう"不思議"だってんだよ」
「……王子。そのあとウェルリア兵士さんたちがなんて騒ぎ立ててたか、王子は覚えてますか?」
突然話を振られて、アスカは思わずぐっと詰まった。
伏せ目がちに俯いたアスカに、イズミは優しく微笑む。
「兵士さんは、こう言いました。『侵入者だー! お前ら、手分けして探せ! 暗闇に潜んでる"奴ら"を引きずり出せー!』とね」
「……うぅん」
まだ話の先が読めず、思わず唸るキリ。
その横でぶつぶつ呟いていたアスカが、小さく声をあげた。
「そうかっ……。だとしたら妙だな」
「そうです」
「どっ、どういう、コトですかあ……?」
ウィンクが目を白黒させてアスカに尋ねる。
アスカはイズミを見て、妙に自信に満ちた口調で言葉を紡ぐ。
「つまり、あのメイドは"知らなかった"んだよな」
「はい」
「なのに兵の奴らは"知っていた"。……これってつまりは……」
「はい。2つの仮説が立てられますが恐らくは……」
「も、もしもぉ〜し」
キリの介入に、イズミとアスカが跳ねるように身体を震わせる。
「あのぉ、イズミさんとアスカが分かっても、私とウィンクさんはサッパリなんですがー……」
「ああ、そうですよね。スミマセン」そう言ってイズミは頭をかくと、再度ピッと人差し指を立てた。
そしてキリたちを前に、話し始める。
「黒髪お団子頭のメイドさんは、キリさんだけに会いました。ウェルリア兵さんたちは『奴ら』を引きずりだせ——つまり、『複数の不審者』を『捜す』よう命じた。……おかしいと思いませんか?」
「別に……私たちは3人だし……普通じゃない?」
「バッカかお前」
アスカが横から不機嫌そうに眉をしかめて言った。
「なんで見ず知らずの不審者を見つけて、そいつに"仲間"がいるって分かるんだよ」
「あっ……」
キリの目が、素早く瞬いた。
イズミが頷く。
「つまりそのことから推測されるのは、」
ゴクリ、と。
息を呑む。
「ウェルリア兵さんたちが追っているのは僕たちではなく、"別の何か"なんですよ」
「なるほどーっ! じゃあ私たちは不審者じゃないって言えるよ! ホーラね、ウィンクさん!」
ウィンクは未だ目を白黒させていたが半分は納得したのか、ゆっくりと頷いた。
それを見て緊張の糸を解いたキリとアスカであったが、
「まあ、悠長に構えてられないかもしれませんが」
イズミの言葉に、アスカが眉をひそめる。
「……どういうことだ?」
「仮説その2」
言いながら、イズミが指をすっと2本に増やす。
「そのメイドさんが、キリさんに仲間がいることを知っている場合、……ですよ」
「まさか。ただのメイドさんがそんなこと……」
「アスカ王子。お忘れではないでしょうが、今ウェルリア王国には反政府軍なる者が徘徊しているのですよ。そのことを、お忘れなきように」
「…………」
一瞬にして、その場が凍りついた。
一気に現実が返ってきた感じだ。
「ま、まあ、なんにしても、これはチャンスじゃないの?!」
「キリさん……?」
「だってだって、イズミさんの話だと、"別の誰か"が侵入してるんでしょ。だったらその混乱に乗じて【小箱】探しが出来るってことよ!」
「そ、そうだな! 元々の目的はソレだし!」
キリの前向きな意見にアスカは珍しく同意すると、いきなりガッとウィンクの肩を掴んだ。
「なあウィンク」
「な、何でしょう……アスカ様。ああっ、ドキドキします」
「んなことは言わんでいいッ!」
ゴホンと大きく咳をすると、
「このくらいの【小箱】、見なかったか?」
「そ、"ソノクライ"の【小箱】です、か?」
「そうだ。どんなことでもいいんだ。なにか心当たりがあれば情報を……!」
「なんだ。フンッ。そんなチューショー的な説明じゃ、知ってるものも教えてやれんぞ」
「な、なんだとっ……?! って、……この、人を高台から見下ろすような喋り方は……まさか……」
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞!】 ( No.135 )
- 日時: 2014/01/21 12:15
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Kw9a5dyG)
「我であるっ!」
ドドーン。
振り返ると、ユメノがベッドの上で仁王立ちしていた。
ネグリジェ姿のまま手を腰に当てて、憮然とした表情を浮かべている。
「ゆ、ユメノ様……」
ぽかんと呆気にとられる一同。
それを見下げる形で、フンッとユメノが鼻を鳴らした。
「なんなのだ兄上、妹として恥ずかしいぞ。なんなんなのだ、兄上。その説明の仕方は」
実の妹からの言葉に耐えれなかったのか、はたまた突然のユメノ登場に異議を唱えたかったのか、アスカの肩が依然ふるふると震える。
「お……お前……は……っ、突然出てきてその言い草は……っ」
すうっ——。
震える肩をゆっくりと上下させ、息を整え、一言。
「っ……寝てろ。」
「イーヤーだーぞーおっ。もう目が覚めてしまったからな! おはようなのだ」
「おはよー! ユメノちゃん!」
キリが微妙な空気に屈せず、笑顔で手を振る。
ユメノもそれに応える。
「おはよーなのだ! 久々だな、キリ!」
「うんうん! ユメノちゃん、元気だったあ〜?」
「ってキリ、手を振るな! 周りを見ろ! お前らそんな場合じゃないだろっ! ……って言ってるそばから…………ウィンクっ!」
偏頭痛に、思わずうめくアスカ。
その頭をイズミが優しく撫でる。
しかしその手をアスカは俯いたまま払いのけると、
「っ……ユメノ、お前が入ってきたらな、色々ややこしいんだよ……」
かろうじてそのようなセリフを吐いた。
だが、しかし。
「なにかユメノにお手伝い出来ることはないか? イズミしゃん」
「だーーっ! 人の話を聞けーっ……!」
「ん? なんなのだ、兄上?」
「お……まえ…………なあ」
「ユメノ様! 早速お着替えしましょうか」
「ウィンク、相変わらずのバカかお前っ……! こんなとこでユメノの着替え始めるつもりかよ!」
「兄上は実の妹の着替えを見て興奮するのか?」
「……っ! もうっ……、ユメノお前っ…………!」
さて。
そんなふうに、
ユメノが起きたことで騒がしくなった寝室の一角で。
「…………」
イズミは少し離れた場所に1人立ち尽くしていた。
浮かない表情である。
「"別の何か"……か」
自分で口にした言葉を静かに反芻する。
そして——。
「キリさん」
「ん?」
アスカとユメノの兄妹喧嘩に半ば圧倒され、半笑いしているキリに、話しかけた。
キリが笑顔で振り向く。
「"黒髪お団子頭のメイドさん"について、何か覚えていることはありますか?」
「"黒髪お団子頭のメイドさん"……?」
「はい」
「ん〜〜……」
キリは、顎に手をかけ、一生懸命思い出そうとする。
「……ああっ、そういえば」
「何か思い出しましたか?!」
「どっかで会ったことあるなーってずうっと思ってたんだけど、よくよく考えてみたら。…………ね。前にも一度お城に来たことあったでしょ?」
「ああ……Sトリオの皆さんに連れてこられましたね」
「その時に、実は私、黒髪お団子頭のメイドさんに見つかっちゃってたんだよねえ〜」
あはははと頭をかくキリ。
途端にイズミが困惑したように眉を下げる。
「ええー、っと。それは僕にどう反応しろと……」
「いやいやあ。ホラ、2度あることは3度あるっていうもんねえ」
「不吉なこと言わないでくださいっ、キリさん!」
「…………」
ふ——、と。
刹那、キリの表情が固くなる。
それに気づいたイズミがおずおずとキリに触れる。
「……キリさん?」
「そういえば……」
どこか虚ろな目で、空を見つめている。
キリはそのまま、言葉を紡いだ。
「私、その時に変な体験をしたっていうか、」
「『変な』体験……?」
こくりと頷く。
イズミは眉をひそめた。
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞!】 ( No.136 )
- 日時: 2014/01/22 22:50
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: A7M9EupD)
「そうなの、『変な体験』」
キリはそう言って、じっとイズミを見据える。
「城から逃げようってなったでしょ? それで私、このお城の塔の上から湖に向かってダイビングしたんだけど……」
「それはまた……随分と無茶やりましたね」
「ラプール島ではよく海にダイビングしてたからどうってことないの。……でも……」
「?」
「そこで飛び込むときにね、頭が痛くなったの。キーンって」
「ただ単に風圧か何かじゃないんですか。いつもより高い位置から飛び込んだ、とか」
「イズミさんって、意外と冷たいんだねえ……。さっきも言ったけどさ、私よく飛び込みしてるし、頭が痛くなるとか、なったことないの。……それなのに、……それにその時胸がギュッて締め付けられたっていうか、こう……白い靄がかかったような感じで」
ねえ、とイズミの目を見つめる。
「これって、なんなんだろう」
「…………」
特定の場所で頭痛がする、胸が締め付けられてモヤモヤする。
…………。
イズミの頭の中で、今までに引っかかっていたことが僅かながらに構築されていく。
——反政府軍、"別の何者か"……、
過去に起こった【大革命】——、
失踪した姉、ファーン王政時代の自分の暮らし。
そして、
キリの異変——。
イズミは自分の中で僅かに湧き上がった疑問を、思わず口にしていた。
「キリさん。アナタ、」
吸い込まれそうな、淡い瞳に。
思わずキリの頬が桃色に染まった。
「…………ねえ、キリさん」
「は、ハイっ……」
真剣な眼差しのイズミから、
「キリさん。アナタ本当に、10歳なんですか」
「……ハイ、?」
意味の分からない言葉が漏れる。
「えーっとイズミさん、それって、どういう意味?」
「そのままの意味です。10年前の【あの日】から、時が止まっている……とか……」
「?」
「……いや、……なんでもないです」
視線を外して、イズミはキリの前から立ち去った。
きっと、気の迷いだ——。
そうやって頭と一緒に懐疑していたことを振り払う。
そして。
その後イズミが呟いた言葉を、キリは聞き逃さなかった。
確かにイズミはこう言ったのだった。
【カノン】——と。