複雑・ファジー小説
- Re: 【最終章突入】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.145 )
- 日時: 2014/02/25 07:44
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: w2QxUPin)
【第八章 解決編】
〜〜第二話:邂逅〜〜
「では、国王様もお揃いになったので、私から事のあらましを説明させて頂きます」
イズミがゴホンと一つ、大きな咳をする。
王妃の寝室には幾人かのウェルリア兵士、その総指揮者であるヨハン=ファウシュティヒ、そして国王と王妃が寄り添うようにそれぞれの立ち位置に腰を落ち着けていた。
皇女であるユメノは、お世話係のウィンクのスカートを不安げな表情で握りしめている。
そんな中、キリは、いまだ整理しきれていない自分の立場をゆっくりと整理していた。
——アスカが何者かに誘拐されてしまった。
その事実が、受け入れられない。
——さっきまでそこにいたのに。
どうしても、信じられない。
キリが1人で考え込んでいる間、イズミは周囲に、ウェルリア王国第一王子であるアスカが何者かに誘拐されたことと、その状況を事細かに説明していた。
そして、
「……その実行犯なのですが、」
そう言葉を切って、キリに視線を送る。
「…………ふ、へ?」
今まで蚊帳の外だったキリは、突然のことに、変な声を上げてしまう。
——……へ。な、なに……?
イズミにつられて、皆も一斉にキリを振り返る。
「あのお…………み、みんなまで……?」
「き、キリが……犯人なのか?」
ユメノが恐る恐るキリに問いかける。
「ち、違うって、ユメノちゃん……! ホ、ホラあ! 私、アスカが誘拐されたかもしれない時、ずっと一緒にいたじゃんか……!」
必死に弁解するキリ。
そんなキリを尻目に、至極あっさりとイズミは言ってのけた。
「ハイ。キリさんは犯人じゃあありません」
「……、?」
ユメノがギュッとウィンクのスカートにしがみつく。
「イズミ……さん。それでしたら、……キリさんがどうかされたんですか?」
今度はウィンクがイズミに尋ねる。
「僕が用があるのは、キリさんではなく、キリさんが持っているその【小箱】です」
「あ……」
キリは自分が握りしめていた壊れかけの【小箱】をイズミに差し出した。
「こ、コレ……?」
「ハイ」
「…………なあイズミ、この箱は一体なんだ……?」
ヨハンはそう言ってから、そうだ、と思い出したように国王の方を見やる。
「まさか、我がAクラスの連中が市民から奪ったという【小箱】か……?」
「そうです」
「しかし……それだと妙だな。【小箱】はその後すぐに【何者か】に奪われている…………、ま、まさか、イズミ」
イズミが無言で頷く。
「その【何者か】によって奪われたとされる【小箱】が王妃が監禁されていた場所に落ちていた。そのことから、今回の誘拐も彼らの仕業によるものと仮説を立てることが出来ます」
「【何者】とは、誰なのだ」
国王の言葉に、ヨハンが半ば言い辛そうに重たい唇を動かす。
「我々の見解なのですが、恐らく【反政府軍】の奴らではないかと……」
それを聞くやいなや、真っ青になる国王と王妃。
想定していた最悪の事態になってしまった。
「あれほど警戒しとったのに……」
王子であるアスカが【反政府軍】に狙われる可能性は充分にあった。
だからこの間アスカが城を脱走した時には、【国中の橋を落とす】という、今までにない厳戒態勢で保護するに至ったのだ。
ところが、今回は城の中で誘拐されたという。
——私のせいか……。
行き場のない悔しさと憤りに、国王は王妃の冷たい両手を自身の大きな手できつく握り締めた。
そんな国王に、ヨハンがゆっくり歩み寄る。
「国王様」
ヨハンはそう言ってから、
「【犯人】と【アスカ王子】は、我々ウェルリア兵が全総力をあげて必ず見つけ出します。必ず、約束致します」
強くそう言い放った。
ヨハンはそうしてから素早く振り返り、イズミとキリをぐっと見据えた。
「出来れば君たちも、協力してくれないか」
しばらく無言のやりとりが続く。
「アスカ王子と最後に会っていたのは、君たちだろう」
「そうだけど……」
「アスカ王子を助け出したいとは思わないのか」
「でも…………」
「お願いだ。手がかりもほとんどない状況なんだ。君たちの力が、必要なんだ」
——…………こくり。
迷った末、キリは承諾していた。
自分に何ができるか分からないけど。
何もしないよりは、何かした方がいいから——。
ちらりと隣を見ると、イズミも小さく頷いていた。
2人は協力せざるをえないこの状況に、しぶしぶ承諾したのであった。
- Re: 【最終章突入】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.146 )
- 日時: 2014/02/16 09:45
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jQF4W0MP)
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ここは、知る人ぞ知るSクラスのSクラスによるSクラスのための地下実験室。
Sトリオの1人であるノアルは、じめじめした薄暗い実験室に1人閉じこもっていた。
他の面々は城に忍び込んだ侵入者を捜し出すために、先ほどから部屋を空けていた。
しかし、そのような上層部からの司令を無視して実験室で孤高を持していたノアルは、
「……もう少しだ。……もう少しで、この【水晶玉】は…………!」
クスクスクス——、と。
誰もいない部屋で不気味に笑い声をたてていた。
彼の姿は、傍から見れば既に手に負うことのできない奇人変人の類である。
地下の実験室なので他人にとやかく干渉されることはないが。
とにかく、そのように独創的な世界に浸っていたノアルのもとへ、突然何者かが駆け込んできた。
ドタドタと喧しい靴音が、閉ざされた空間に鳴り響く。
直後、バタンと乱暴にドアを開けて現れたのは、キリたちに縄でグルグルと縛りあげられた末に助け出された、Aクラスのリークであった。
バタバタと忙しない様子で、
「聞いてくれよ、オイ!」
そう急くようにノアルに声をかけるのだが、すでに自分の世界にトリップしているノアルは、どうやら気づいていないようである。
「聞いてくれっ、ってば!」
言いながら後ろ向きに座っているノアルの両肩を、勢い良く揺さぶる。
がくがくと前後に揺さぶられ、ノアルはようやく気がついたようだった。
「ああ。えーっと……」
振り返ってリークを見つめ、しばらく笑顔のまま固まったノアルは、ポンッと手を打った。そして、
「…………うん、確かキミは……トゲトゲくん!」
「見た目で人を判断するなあ!」
叫んだリークはその後に「オレはリークだ!」ちゃっかり自身の本名を力強く告げ、不貞腐れたように腕を組む。
「アハハハ。申し訳ない申し訳ない」
果たして本当にそう思っているのか。
ノアルは笑いながらそう言うと、くるりとリークに背を向け、そして尋ねる。
「で? 僕なんかになんのようだい」
「そうだ、こんな不毛なやりとりをしてる暇なんかないんだよっ!」
我に返ったようにリークは1人まくし立てると、そのまま背を向けてしまっているノアルの肩を勢い良く掴み、反転させる。
「なあメガネっ。フィアル……フィアルを見なかったか?!」
「は……?」
「ホラ、こないだオレと一緒にここに来たヤツだよ」
「ああ…………影の薄い彼、かな」
「アイツ……次、門番の役なのにさ、呼び行こうと思ってもどこにもいないんだ。どこにも……。お前、見かけなかったか」
「いいや。僕は今までここで【水晶玉】の修復作業に勤しんでいたからね。見かけてないよ」
「フンっ。そうかよ」
「そして僕は【メガネ】じゃないよ。僕には【ノアル】という高徳かつ知性に溢れた名前があるんだからね。覚えておいてくれたまえ」
——そう言って。
ノアルがふとあたりを見回すと。
そこには既にリークの姿はなかった。
「全く…………」
ため息混じりにそう呟いて、ノアルは再度【水晶玉】を弄るのであった。
- Re: 【2/17更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.147 )
- 日時: 2014/02/18 15:11
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jQF4W0MP)
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「王妃様。イズミと同い年の兵士を集めて参りました」
王妃が、自身が麻酔を嗅がされた相手はイズミと同じ年頃のウェルリア兵士であると証言し、現場には数十人の兵士が集められていた。
そのほとんどは、Aクラス所属メンバーであった。
もちろん、リークとフィアルもその内の2人である。
「って、ええっ……! イズミさんって、17歳だったの?!」
「……そんなに老けて見えます?」
キリの大きな驚きに、イズミが呟くように反論する。
さて——Aクラス主任のソラリ先生の号令で、Aクラスの面々が集まったのだが。
——そこに、フィアルの姿は、なかった。
「フィアルはどこにいったんだ」
点呼を終えて、ソラリ先生が先頭にいるリークに尋ねる。
「リーク、お前知っているか?」
「オレ……オレ、は、」
リークの顔が青ざめる。
よくよく見ると、その身体は小刻みに震えていた。
「…………知りま、せん」
イズミはその様子をじっと伺っていた。
——フィアル君が。
イズミはそう呟くと、隣に立って腕を組んでいるソラリ先生と視線を交わしあった。
「フィアル君が今回の【誘拐事件】になんらかの形で関わっているということに間違いないということでしょうか、ソラリ先生」
一呼吸おいて、ソラリ先生が静かに頷く。
「……そうですな。……信じられんが…………」
その言葉にリークがぐっと唇を噛みし
めた。
何が、起こっているのだろう。
なんでこんなことになったんだ——。
【あの時】——フィアルの様子がおかしくなったあの時、オレが気づいていてやれば……。
1番オレが近くにいたはずなのに……。
何も分からない、なんて。
「……なにしてんだよ、フィアル…………」
リークは人知れず強く拳を握りしめるのであった。
そんなリークの状態などは露知らず。
「ひとまずこの状況を別室で待機しているヨハン先生に伝えましょうか。ね、ソラリ先生」
「そうですな。では、ワタクシめがヨハン先生に伝えて……」
そこまで言って、ソラリ先生はイズミに向き直った。
「いや……。ここは、イズミ君、キミに頼もう」
「え…………」
拍子抜けしたように、イズミが言葉を漏らす。
その様子に、ウインクを返したソラリ先生は、
「ヨハン先生もそれを望んでおられる。そうだな。ヨハン先生は国王様と共に玉座におられる。……行ってくれるな」
「…………なんで僕が」
「ワタクシめはここで他の兵士たちを指示しなければならんのだ。よろしく頼みましたぞ、イズミ君」
ソラリ先生は自慢の巻きヒゲをピンッと引っ張ると、即座に周りの兵士に指示を出し始めた。
その後ろ姿にイズミは苦笑すると、「……ありがとうございます」そう呟き、玉座に向かうのだった。
「…………あ」
イズミの去り際の姿を見て、何故か。
キリは嫌な予感がした、
「………………?」
——気がした。