複雑・ファジー小説
- Re: 【2/18更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.148 )
- 日時: 2014/02/20 15:51
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: vGlhfp41)
【 第八章 解決編】
〜〜第三話:異変〜〜
長い夢を見ていたようだった。
それも、悪い夢を……。
アスカは呻き声をあげて薄らぼんやりした目を開いた。
——ここは、どこだ……?
身体を起こそうとして、その感覚が無いことに気がつく。
身体がひどく重たかった。
——否、悲鳴を上げていた。
痛い——。痛い。痛い——。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い——。
頭が、肩が、腹が、胸が。————全身が。
————何故なんだろう。
ぼんやりとした頭でそのようなことを思う。
——自分は今、どこで何をしているのか…………。
霞む視界の先には、鉄骨がむき出しになった廃屋らしき天井が見える。
…………そういえば。
と、アスカは痛む頭でおぼろげな記憶を掘り返した。
確か、何者かに後頭部を強打され、そのまま気を失ったんだっけ。
それで、どこかに連れてこられて……。
「オレ……は…………」
ひとまず周囲に助けを求めようと、乾いた唇を動かして——。
——直後、みぞおちに鈍く重い衝撃を受けていた。
「くはっ…………!」
そのまま、床に叩きつけられる。
ガンッと鈍い音を立てて打ち付けられた肩は、すでに感覚はなかった。
それでも霞んだ目を必死で開けて周囲の現状を把握する。
目の前に見知らぬ男たちの姿が見えた。微かに、だが。
顔中に不気味な笑みを貼り付けているその男たちは、反政府軍の面々だった。
そんな複数人の男たちから、蹴ったり殴ったりの歓迎を受ける。
否、男連中だけかと思ったが、中には女の姿も見受けられた。
その際に奴らは何かしらの言葉を発していたが、最早殴打されているアスカの耳には、何も届いていなかった。
ただ、自分が殴られる音だけが耳に響く。
「ふっ…………ぐ…………っっ」
声にならない声を上げながら、アスカの脳裏に浮かんだのは、何故かキリたちの顔。
——ああ、オレはここで死ぬのか。
そうぼやいて。
必死で吐き出した息が、前髪を揺らす。
ああ、こんなことになるのなら。
言っとけばよかったな、アイツに——。
再度薄れゆく意識の中で、確かにアスカは、そう思ったのだった。
————————————————————————
【独り言】
ちなみに、この回以降の展開的に、このお話はコメディライト板から移動したほうがよいだろうと思って今に至ります……ここでも抑えた表現で書いていますが…(^_^;)ゝ
アスカ王子、痛そう……(@@;)
- Re: 【2/20更新ー】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.149 )
- 日時: 2014/02/22 12:25
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: fmI8cRcV)
**********
「はっくしゅっ」
キリは思わずくしゃみをしていた。
ユメノが不安そうにその顔を下から覗き込む。
「キリぃ。どしたのだ? 大丈夫なのか?」
「あ、っはは。うんうん。ただちょっと寒気がしただけ」
「そうか。……いや。それだけなら良かったぞ。うむうむ」
「ありがと、ユメノちゃん」
キリがにっこりとユメノに向かって微笑む。
ユメノは照れたようにウィンクのメイド服に顔を埋めた。
「……遅いですね」
そのウィンクが、突如ぽつりと言葉を漏らした。
キリは?マークを浮かべてウィンクの顔を見た。
「……なにがあ?」
「イズミさんです」
「イズミさん……」
「ヨハン先生に伝えに行ったのに、もう1時間はたっていますよ」
「あれ、ホントだ」
「……イズミしゃん……どうしたのだ……?」
再度、ユメノが不安そうに眉を曇らせる。
ウィンクはそんなユメノの頭を優しく撫でると、
「大丈夫です」
にっこりと微笑んだ。
「きっとそのうち、帰ってきますよ」
- 祝参照3333!ゾロ目踏んだ方はどなただろ〜 ( No.150 )
- 日時: 2014/02/25 08:03
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: w2QxUPin)
**********
同日、約1時間ほど前のこと——。
イズミは、フィアルが今回の誘拐事件になんらかの関わりがあるということを総司令官のヨハンに伝えるために、玉座に向かっていた。
城の最上階——階段を2段跳ばしで駆け上がり、玉座の扉を前にしたイズミは、そこでヨハンと国王の不安そうな会話を耳にした。
「国王様、今回の誘拐事件のことなのですが……」
ウェルリア兵総司令官であるヨハンは、アスカ王子誘拐事件対策本部を迅速に立ち上げると、自身は反政府軍の心当たりを国王に伝えるべく、国王と玉座に身を寄せていたのだった。
玉座内の、その何とも言えない不穏な空気に、イズミは扉を開けることなく、その前で立ち尽くしていた——否、ひっそりと2人の会話を聞くことにした。
そう、無理にこの2人の会話に水を差さないほうが賢明だ。
会話が一段落したら、玉座に入ればいいのだから——。
そのようなイズミの気遣いには気づきもせず、2人の会話は、続く。
「今回の反政府軍、もしやとは思うのですが」
「どうしたヨハン先生。まさか、【ファーン家】の奴らの仕業とでも言うのか。ハッ、バカをいうな。奴らは全滅したはずだ」
国王の地を這うような低音に、部屋の外にいるイズミまでビリビリと身体が震える。
「……お言葉ですが国王様。私も亡くなったファーン家が犯人だなんて思っていません。……まあ、少なくとも【そちら側の人間】であることに間違いはないと思うのです」
「と申すと……?」
国王の問いかけに一瞬息を呑んだヨハンは、一息ついて、こう答える。
「呪術師ですよ」
——呪術師……?
耳にしたことのあるフレーズを、イズミは1人小さく反復する。
「そうですよ。【奴】の血筋のものが【復讐のため】に王子を攫ったんです。……違いないですよ」
「【奴】と申すと……、…………あの、【アイツ】か」
こくりと頷いたヨハンに、国王は青ざめた顔で、だが、強く言い返す。
「フンッ。バカらしいぞ、ヨハン。一体どこにそんな証拠が」
「証拠はございません。ただ……」
「ただ、——どうしたというのだ」
「……ただ、昨日【とある喫茶店】で兵士が入手した情報によると、何者かが【呪術師レーゼ】について探っていると」
「何をそんなに焦っておるのじゃ」
「怖いのです。【あの呪術師】を【毒殺】したのは【私】なんですよ? 【奴】の占いの腕で、誰があの呪術師を殺したのかだって、……そのくらいのことなんて、すぐにでも分かるんじゃ…………」
「そうビビるでない」
まくし立てるヨハンに、国王が立ち上がって一喝する。
それから1つ咳払いをして玉座に座り直すと、再びヨハンを見据えた。
「…………そもそも、何故【このタイミング】なのだ。それこそ不自然だろう、——ヨハン。私は、お前が【呪術師を暗殺】したからこそ、その腕を見込んでウェルリア兵のトップにお前を置いているのだ。萎縮するでない、な」
国王の言葉に、ヨハンは自身の胸元を強く掴んで、頭を垂れるのだった。
「………………申し訳ございません、国王様」
「良い良い。まあでも【反政府軍の仕業】なのは一理あるな。アスカが城を逃げ出した時も奴らに捕まらないか心配で、思わず兵を使って——国中の橋を落としてまで連れ戻そうとしたのだ。……しかし、とりあえず、一刻も早く現在のアスカの行方が知りたい……」
「そのことにつきましてはお任せ下さい。協力な助っ人がおりますゆえ」
刹那、国王の顔が希望に満ちたように明るくなる。
「助っ人、だと?」
ヨハンはその言葉に大きく頷き、その人物の名前を豪語する。
「私の息子の【イズミ】ですよ。……ああ。ちなみに先ほどの【侵入者】はどうやらイズミだったようで」
「イズミ…………ああ、お前が昔引き取って【養子】として可愛がっていたという子どものことか」
「はい。その【イズミ】が協力してくれたら、百人力です!」
「…………なんだ、もうイズミの反抗期は終わったのか? 近頃よく私に相談していた反抗期は」
「……ああ、ハイ。その節はありがとうございました。もう大丈夫だと思いますよ。あの顔つきをみれば。……あとで親子水入らずの話を、してみます。久々に。……楽しみですよ。…………まあまだ本人はあまり私と顔を合わせてくれませんが、ね」
最後の方はほとんど独り言のように呟き、それから切り替えて国王に言う。
「その前に、本題は王子探しです。イズミがいればきっと王子もすぐ見つかる………」
そこまで言って、ヨハンはふいに真顔になった。
即座に後ろを振り返り、剣を振り切る。
「っ…誰だ……?!」
何者かの気配を察したのだった。
そう、この扉の向こうに——。
「おい、出てこいっ!」
玉座と廊下を隔てる扉を片手で開け放つ。
しかし——その場にはすでに、何者の気配も、微塵も感じなかった。
「ヨハン…………?」
「ああ、申し訳ございません」
剣を腰の鞘に戻し、扉を閉める。
ヨハンはそうしてから国王を振り返ると、苦笑して首を傾げた。
「申し訳ございません。私の、気のせいだったようです」
- 主人公より主人公なイズミさんのターン…(^_^;) ( No.151 )
- 日時: 2014/02/24 19:39
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: w2QxUPin)
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————信じられなかった。 さっきの話は……なんだ? 2人は【何】を、ハナシテイ タ…………?
イズミは気配を消して、直ぐさまその 場を去っていた。
動悸がする。 眩暈がする。
ああ——聞いてはいけないことを聞い てしまった。
思考停止している頭を無理矢理動かし て。 先ほどのことを理解する。
イズミの実の父・レーゼを殺した【真 犯人】は【ヨハン先生】だったのだ。 自分の育て親であるヨハン先生が。
自分の実の父親であるレーゼを、
ヨハン先生が、
——殺した。
イズミの中に計り知れない憎しみが沸 き上がっていた。
——しかも。
イズミは走りながら唇を噛みしめる。
多分、【彼】は気づいてはいない。 自分が【殺した相手の子ども】が【自 分】で、そのイズミを【養 子】として育てていることに。
なんという皮肉だ。
けど………………。
——お前のせいで。
お前のせいで俺達家族は……、 バラバラに…………。
『憎い』
その二文字が頭をかすめる。 否、焼き付けられる。
——理性を保とうとしても、 だめだった。
【父さん】を殺したのは、【あの男】 だったのだ。
憎い。
憎い。憎い。
憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎 い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎 い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許せない————。
絶対に。
——『復讐』してやる。
さらりと揺れた前髪が、イズミの表情 を覆い隠した