複雑・ファジー小説

作者もごちゃらごちゃらしてきた…汗 ( No.177 )
日時: 2014/03/23 12:49
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: J3GkpWEk)

【最終章 終焉編】
〜〜第二話:正体〜〜


「お前に見せたいものがある」

そう言われて連れてこられた地下の保管庫に、イズミとウィンクはただただ目を見開いてその場所に立っていた。
幾重ものセキュリティシステムで厳重に管理された扉の向こうに広がる膨大な数の戸棚と本棚は、溢れんばかりの資料と共に壁を埋め尽くしていた。
それらの中身は、全て【大革命】によって滅亡するに至った【ファーン家】に関するものであった。

「先生……ここは……」
「トップシークレットだ」

ヨハンの言葉を受けて、ウィンクが両手を打つ。

「ああっ、聞いたことあります。このお城の何処かに、トップシークレット……隠し部屋があると」
「そう、私たちウェルリア兵は、一部の研究家と合同で黙秘にファーン家の実態を調べていたんだ。過去の歴史と、その半生をね。ここにある資料は、この城の周りにある湖に沈んでいるファーン城から引きあげたものだ。イズミ、好きに使いなさい」
「先生…………」

確かに凄い量である。
年代別や種類分けはされているようだが、全て見ようとおもったら凡人だと少なくとも数ヶ月はかかるであろう。
イズミはごくりと唾を飲み込んで、しかし後ろ髪を引かれる思いで口をゆっくりと開いた。

「けれど、…………僕もアスカ王子の行方を探さなければ……」

ヨハンは即座に首を横に振った。

「いいや。その件は私たちで何とかする。……この機会だ。イズミ、自分の知りたい事について、しっかり調べなさい」
「でも……」
「イズミ。よーく聞くんだ」

ヨハンの声が急に鋭くなった。
イズミの顔つきもそれに比例して少し険しくなる。

「イズミ、お前は今回の件で国から厳重に取り調べられるだろう。【あのレーゼ】の息子だったんだからな。お姉さんもしかりだ。そうなったらこの先、決して自由にはなれない。今この時間ときを、大切にしなさい」

ヨハンはそう言うと、くるりと背を向けた。

「イズミ、お姉さん、……ここは好きに使って良い。見張りの者にもそう伝えておく。王子が見つかったらまた呼びに来る。良いな」

深く頷く。
ヨハンはそのまま振り返ることなく地下の保管庫を後にしたのだった。

「じゃあ姉さん、片っ端から調べていきますか」

若干何かしら含んだ言い方で、イズミはウィンクを振り返る。

「そうね。じゃあまずは、その革命時の発端にあたる【戦争】をウェルリア王国に引き起こした人物辺りから、調べましょうか」
「戦争を始めた人物——【ファーン三世】ですか」
「うん」
「そうですね。……何事も、根っこから引き抜いていかないとスッキリしませんしね」
「その通り! さっすが私のイズミちゃん!」
「いつアナタのモノになったんですか」
「うふふっ」
「…………全く……」

2人は手分けして、膨大な資料からファーン三世に関する資料をそれぞれ持ち寄った。
保管庫の中央部に置かれている大きなテーブルの上にそれらを広げ、2人は片っ端から読んでいく。
いくら厳選したからと言っても、その量も相当な物である。
しかし2人には速読という技術があり、凡人よりも遥かに効率よく対処できた。

「…………あ」
「ん? どうしたの、イズミちゃん」
「姉さん、これ……」

イズミが示した箇所に書かれていたのは、

「えーっと、……『ウィルア家はもともとファーン家に仕えていた』…………ど、どういうこと?!」
「……この手記には、そう書かれていました」

イズミが手にしているのは、どうやら当時ファーン家に側近として仕えていたウィルアの日記であった。

「——ウィルアって、今この国を治めている、あの、ウィルア国王……の……ご先祖さま?」
「そのようです」
「でも……【大革命】を起こした時、ウィルアは【農民】で……」
「それに関してですが、……ホラ、ここを読んでください」

イズミに手渡された日記を、ウィンクもしっかりと確認する。
羊皮紙に書かれた文字はインクがにじんで読み取り辛かったが。
それでも何とか読解していく。

「『3/17。ファーン三世が戦争をやめてくれない。注意すると一方的に追放された。 以後ファーン三世の命により、農民として暮らすことに。この怨みつらみは末代まで続くだろう』……イズミちゃん、これって…………」
「どうやら僕らは、勘違いしていたようです」

イズミは小さくため息をついた。
最初は呪術師レーゼを恨んだ何者かがレーゼを暗殺したのだと考えていた。
しかし、水晶玉に眠っていた魂の破片——父親の言い分は、【正体が自分にバレてしまったのではないかと恐れた人物に殺された】。

「……ああ、そうだったのか……」

——考えはした。
考えてはいたけれど、そう思いたくは無かったのだ、多分。

【ウィルア家】が先祖代々恨みつらみを受け継ぎ、このタイミングで自らを貴族から農民へとおとしめた【ファーン一族】に復讐を果たしたのだ。
【ウェルリア大革命】を引き起こして、滅亡に追いやったのだ。
——無関係な国民を巻き込んで。
——無関係な呪術師を巻き込んで。
——無関係な自分たちを巻き込んで。
そうして、あわよくば自らがトップに立ち、先代の地位につこうとたくらんだのか。

「…………なんてことを……」

沢山の人たちが犠牲になった。
たった1つの一族の恨みつらみのために。——否、確かにファーン三世から始まった戦争で、沢山の人たちが命を落とした。
けれど……それでも……。

「父さん、カノン…………」

そこでイズミははっと息をのんだ。

「姉さん、カノンは……」
「……知らない、けど……。イズミちゃん、アナタ、会ったの? カノンに」

ウィンクが不思議そうにイズミを見る。
イズミはそれには答えず、1人で思案し始めた。

——一番最初に彼女と出会った時、確かにどこかで会ったことがあると錯覚したこと。
そして、キリとカノンが重なって見えたこと。……けれどそれはそうではなく、そのキリを育てた人物が、イズミには重なって見えていたのだった。

「やはり……彼女、リィさんだ……」

確かリィは記憶喪失であると言っていた。
父レーゼの予言で共に城を逃げ出して、その後行方が分からなくなっていたカノン。昔、一緒に生活していた少女、カノン=ラステル。
ファーン家に仕えていた使用人の一人娘であった彼女は——。

——やはり、彼女が……。

…………そうだ。
そうすると、合点がいく。
リィがレーゼの水晶玉を持っていた、その理由が。

カノンとレーゼ姉弟は、歳が近かったため、よく一緒に遊んでいた。
カノンの両親は住み込みの使用人であったため、カノンはレーゼの元にきてはよく占いのマネごとをして遊んでいたものだ。
あの日までは——。

カノン ( No.178 )
日時: 2015/09/10 02:23
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: PFFeSaYl)


『イズミ、アリス。父さんはもうすぐ殺される。この城も崩れる。皆殺しにあう。だからお前たちは逃げなさい』
『でも……』
『逃げなさい。早く』
『でもお父さんっ……!』
『父さんを信じなさい』
『っ……』
『………………わたし、死ぬのは、嫌だ』

はっと声のした方を振り返ると、そこにはちょうど遊びにきたカノンが顔面蒼白で立っていた。
定まっていない視線。
今までひっそりと話を聞いていたのだった。
精神不安定の状態にあるカノンを、このまま突き返す訳にも行かない。
では、どうするか。
レーゼは命の次に大切にしていた水晶玉を一番年上であるカノンに預けると、こう言った。

『この水晶玉を、お前に託す。時が来るまで大切にするんだよ。肌身はなさずね。……さあ、逃げなさい。君たちは未来がある子どもたちだ。さあ、早く!』

そうして3人は逃げ出した。
ファーン城を。
誰の目にもつかずに。

そうして3人は城下町に身を寄せ合って暮らし始めた。
傍から見れば、子どもだけで、と、不思議に思っただろうか。
けれども当時のウェルリア王国の戦況は悪化しており、両親や家族がいない家庭はざらであったため、つつましやかに生活していれば、特にとがめられることもなかった。

そして。
——呪術師暗殺事件が起こったその日。
カノンは自身の両親の身を案じたのか1人先に飛び出していき——。
カノンはそのまま行方が分からなくなったのだった。

あれから数十年——
もしもカノンが生きていれば、齢は24,5歳であろう。

「じゃあ……そうすると……」

【カノン】——彼女の正体は。
イズミの体中を、嫌な予感が駆け巡る。
【リィがカノンであった場合】、彼女がやることは、大方予想がついていた。

——自分が【ソレ】に駆られたように。

「——イズミちゃん?!」

ウィンクの声を背に受け流し、イズミは地下から脱していた。
……確証はまだ無かった。
その確証を得るために会わなければならない人物——リィのことを良く知る人物に、イズミは会わなければならなかった。

「対策本部室っ——……!」

キリに、会わなければ。
会って、話をしなければ……。

「キリさんっ…………!」

息荒くイズミが対策本部室に駆け込んだ頃には時すでに遅し。
求めていたキリの姿は、既にそこには無かった。


「えっ……キリさん…………?」

周囲を見回してキリの姿を探すが、オレンジ頭のプリーツスカート少女の姿はどこにも見当たらなかった。

「一体……どこに…………」
「イズミしゃん……」
「ハッ…………」

見下ろすと、ユメノがイズミの服のすそを申し訳程度に引っ張っていた。
どうやら、キリについて何か知っているらしい。

「ユメノ様、キリさんはどうされましたか……?」
「それが……それが……」

小さな肢体がかくかくと震えている。
何故か顔色も優れない。

「……ユメノ様、落ち着いてください。何があったんですか?」

しゃがみこんで、ユメノの肩を揺さぶる。

「ユメノ様、キリさんは……?」
「…………どっかに、行ってしまったのだ」
「……どこに?」
「分からぬ。だが、普通ではなかったのだ。……何かに、呼ばれているように、ふらふらとここを出ていってしまった」
「どこに行かれたかは、わかりますか?」
「分からぬ……何も、何も、わからんのだ……。もう、何が……なんなのだ…………兄上もいなくなって、……キリも、…………なんなのだ、もう……」

しまいには目に涙をためて、ユメノは崩れるようにしゃがみこんでしまった。
イズミは困ったように頭をかくと、ユメノをゆっくりと抱きかかえた。

「キリさんを捜しに行きましょう」

ユメノの耳元で優しく声をかける。
ユメノはイズミの肩に顔を埋めたまま、こくりと頷いた。

5000閲覧ありがとうございます…! ( No.179 )
日時: 2014/03/28 10:48
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jwkKFSfg)


+++++++++++

『キリ、こっちだよ』

声が明瞭になってきた。
こっち……こっち……。

「……ところで貴方は、ダレ?」

自分の名前を知っている相手。
男性なのは確かであった。
少年? 青年?
でも……私は、アナタのことを知っている……。

「ねえ、答えてよ…………」
「答えるのはアンタの方よ!」

突然、キツい印象を受ける女性の声が辺りに響いた。
ん。誰だっけ……?

「アタシのこと、忘れたなんて言わせないわよっ」
「覚えてるようっ。……えーっとお、水色さん!」
「まんまじゃないっ!」

目の前で憮然とした態度でキリを見据えているのは、Sトリオの1人、アロマであった。
水色の髪の毛を、おでこが見える髪型ポンパドールにくくっている。
見た目通り、性格もキツくて有名であるアロマだが、そのことについて本人はこう語っている。

「男性ばかりの兵隊の中で女性がやっていくには、この位キツい性格でないとやっていけないのよっ」

だそうだ。

「まーったく。久々の登場なのにこの不遇な扱い。どうにかして欲しいわよね!」
「アロマぁ、それは言わない約束ッスよ」

地響きのような低音ボイスは、同じくSトリオの一員であるファズであった。
180キロの巨体は、ウェルリア兵の中でもトップクラスのものだ。
ファズの言葉に「それはそうだけどさあ」と、しかし、納得出来ていない様子で腰に手を当ててアロマはキリを振り返った。

「で、もう一度聞くけどさ。アンタ、ここで何してんのよ」
「えーっと……」
「ちなみに。アタシたちはアスカ王子捜索隊の一端を担ってるわ。アンタはどうなのよ」
「んーっとお……」

ここで、『聞こえてきた声に誘われてやってきました』と答えてしまったら、確実にアロマに罵られるだろう。
キリはその何かしらの不遇な扱いを受けている自分が容易に想像がついたことに思わず身震いしていた。
キリは想像を取っ払うようにぶるんぶるんと首を振ると、

「わたっ、私もアスカ、お、王子を捜しにきたのっ!」

ひとまず笑って誤魔化した。
誤魔化しきれたと、言いたい。

「……ふうーん」

いぶかしむアロマの視線が痛い。

「そ、そう言えばもう1人のお仲間さんはどうしたの? アロマさんっ。ホラっ、あの、メガネさんっ!」
「だからメガネさんではないと言うにっ!」

突然、甲高い男性の声が辺りに響き渡った。
ふいをつかれて目を白黒させているキリを尻目に、アロマとファズは普段通りの口調で声をかける。   

「あら、ノアル」
「実験は終わったんスか?」

噂をすればなんとやら。
何処から湧いて出たのか、ノアルが肩で息をしながらキリとアロマの間に割って入っていた。

「全く……」

全速力で走ってきたのか、荒い息づかいである。

「全く……このボクが見つけてやったんだから。感謝しろよ、イズミ」
「イズ……?」

キリがその言葉の意味を問う前に、本人が柔和な笑い声をたててノアルに謝辞を述べた。

「ありがとうございます、ノアルさん。さすがですねえ」
「キミに言われると嫌味にしか聞こえないけどね」
「あはははっ」
「い、イズミ……さん?」

つぶやきながら声がする方を向くと、そこにはイズミがユメノを抱きかかえて立っていた。

Re: 【3/28更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.180 )
日時: 2014/03/29 00:37
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ycnzZQhq)

ユメノはイズミの首周りにがっしりと腕を回し、キリを潤んだ目で見つめている。

「あ、あの……ユメノ、……ちゃん」

突然、飛び出してしまったため、ユメノは怒っているのではないか。
伏し目がちにユメノを見つめていたキリは、ユメノにかけられた言葉に、思わず駆け出していた。

「キリ。…………し、心配したんだから、な」
「ユメノ…………ちゃんっ……!」

キリは駆け出すやいなや、イズミごとユメノを抱きしめた。
ごめんなさいを何度も呟きながら。

「……あー、感動の再会かなんなのか知らないけどさ」

アロマの乾いた声が辺りに響き渡る。

「なんなの、イズミ。子連れで登場?」
「これはこれは、アロマさん。この方はユメノ皇女様ですよ」
「わかってるわよっ! アタシが聞いてるのはね、なんでアンタがここにいるかってことよ!」
「ああ……」

ユメノを地面におろし、イズミは軽く頷いてアロマを見た。

「アロマさんに会いたかったから。……それじゃ、ダメですか?」
「バカッ…………!」

みるみるうちにアロマの頬が紅潮していく。

「あっ、アンタねえっ……子どものクセして大人のアタシをからかって……!」
「——という冗談はさておいて」

イズミの言葉にアロマが瞬時にうつむいた。
その肩が小刻みに震えている。
ファズとノアルがなだめているのを横目に、イズミはユメノと遊んでいるキリに向き合った。

「用があるのは、キリさん。キミです」
「ほへ……私?」

思わず首をかしげるキリ。
イズミは即座に肯定すると、微かに表情を曇らせた。

「キリさん。リィさんの、ことなんですけど……」
「リィさんがどうかしたの?」
「…………」

イズミは黙り込んだ。
このまま言ってしまうか。
否、キリのことを考えると言うべきではないとイズミは確信していた。
けれど——もし最悪の事態に陥ったら……。

「あっ…………!」

刹那、ユメノの短い悲鳴がした。
その直後、イズミとキリの間に、何かがものすごいスピードで横切った。

春休みが終わってしまう…… ( No.181 )
日時: 2014/03/30 22:31
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: Zxn9v51j)


それがフクロウだと気づいたのは、他ならぬキリであった。
さすがの動体視力である。

「シィだっ……!」
「『シィ』……兄上の飼ってるフクロウかっ!」

ユメノが声をあげて宙を見上げる。
シマフクロウのシィが、ちょうどキリとイズミの真上で旋回していた。

「なんなの……」

状況を把握出来ていないアロマがそうつぶやいた時であった。
新たに、この場所に現れた者達がいた。

「よ、ヨハン先生っ……?!」
「ウィンクなのだーっ!」

対策本部室のメンバー総出で、彼らはこの場にやってきたのだった。

「ど、どうして……?」
「見つけたんだよ、イズミ」

ヨハンの表情が生き生きとしている。
イズミの目が見開かれる。

「まさか……」
「そう、そのまさかだ」

スッ——と右手を上げるヨハン。

「これより、アスカ王子救出作戦を実行する」

彼らの視線の先には、コンクリートブロックに囲まれた古びた倉庫があった。