PR
複雑・ファジー小説
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.185 )
- 日時: 2014/04/15 18:53
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: xW7fLG6h)
+++++++++
どのくらい歩いたのだろうか。
最早、ここが何処なのかも分からない。
虚ろな目つきでふらふらと先を行くキリを追いかける形で歩いていたイズミは、若干の不安を抱えながらも、無理にそれを引き止めることもなく、ただただ黙ってその後を追っていた。
——そういえば、ウェルリア兵たちはどうしたんだろう。
イズミは脳の片隅でそのような思いを抱く。
この間にもしかするとアスカ王子を見つけ出しているかもしれない。
そうなったとすると、我々のことは当然放っておかれる……か。
己を嘲るがごとく、軽く微笑む。
そうなったが最期、僕たちは途方もなく一生この中を彷徨うはめになる……。
まあでも——それも悪くはないかな。
『ぴたり』
と、キリの足が突然止まった。
イズミも慌ててその場で立ち止まる。
「どうしました? キリさん……」
イズミが声をかけるが、反応は無い。
キリが対面しているのは、ただのコンクリートの壁であった。
黙ったまま、その一点を凝視している。
特にそこに何がある訳でもなく……。
「いや、まさか……」
そこでイズミは、ふと淡い期待を抱いていた。
この壁を押したら、もしかしたら秘密の隠し扉があったりなかったり……。
そこまで考えて、イズミは自分の浅はかな考えに自嘲した。
——まさか、そんな都合の良いことある訳……。
しかし、僅かに沸き立つその期待を抑えることが出来ず、イズミは遠慮がちにキリの背後からその壁を押しやった。
『ガコッ——』
「ん……?」
思わず声が漏れた。
イズミの手に伝わってきた振動は、確かにそこに『何かがある』ことを示していた。この壁の向こうに——。
——けれども、果たしてこのまま進んでも良いのだろうか。
イズミが躊躇っていると、キリが迷いなくイズミの手の上から自らの手を重ね合わせた。
そしてその手を、力強く押す。
「んっ……」
「えっ、ちょっとキリさんっ……」
刹那、2人はその中に吸い込まれるように転がり込んでいた。
その扉は、回転扉になっていたようだ。
反動で壁の向こう側の地面に放り出されたキリとイズミは、思わず悲鳴を上げていた。
「って、ここどこ……?」
腰をさすりながら、キリがキョトンとした様子でイズミに問う。
その表情は、先ほどの虚ろなものではなかった。
イズミはキリの突然の変わりように戸惑いつつも、同じように首を傾げて疑問をあらわにした。
その直後であった。
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.186 )
- 日時: 2014/04/19 09:31
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: LPN5HxR2)
同じように背後で短い悲鳴が聞こえたかと思うと、なだれ込むようにしてこの空間に飛び込んできた者たちがいた。
ウェルリア兵たちであった。
「っ、なんで貴方たちがここに……」
驚きを隠せないキリとイズミに対して、1人の兵士が立ち上がってイズミを見下ろす格好をとった。
「お前たちだけで先を行くなんて、ズルいぞっ!」
どうやら、キリとイズミのあとをつけてきたらしい。
結局兵士たちの間でこの先どうするか、これといった案は出なかったようだ。
そうこうしているうちにキリとイズミが単独行動を始めた。兵士たちは最後の賭けとして、イズミたちのあとを追ってきたらしい。
「まあ……。勝手にしてください」
兵士たちの言い分をひと通り聞いたイズミは半ば呆れたようにため息をついた。
その吐息は薄暗い空間に静かに吸い込まれていった。
「と、とりあえず、アスカを搜そうよ! ね!」
静まり返った場を仕切り直すように、キリが意気込んで声を上げた。
周囲の兵士たちがばらばらと立ち上がる。
「その必要はないと思うわ」
そこへ、凛とした声が響いた。
誰かがカツカツと靴音を立ててこちらへ向かってきた。
それは、キリにとっては懐かしい人物との再会であった。
「なんで……リィさんが、ここに……?」
黒髪の女性が静かに微笑みをたたえて、そこに立っていた。
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.187 )
- 日時: 2014/04/24 22:05
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: LPN5HxR2)
「久しぶりね、キリ」
「え、えーっとお……」
キリは不意をつかれたように目を見開いた。
この場にはいないはずの人物の登場に、戸惑っているようだった。否、戸惑っていた。
「リィさん、なんでここにいるの……?」
「…………」
「まっ、まさかリィさん…………」
キリの喉元がごくりと動く。
「リィさんも、アスカを捜しに来たのねっ! そうなんだね!」
「……もういいですから、キリさん」
イズミがそう言って、自信満々に言ってのけたキリの肩を掴む。
途端、リィが息を漏らした。
『ふっ……』
両手で腹を押さえ、その場でうつむく。その肩は大きく上下していた。
「っふふ……。あっはははは。キリ、相変わらず面白い子ね」
なぜ笑われたのか分かっておらず右往左往しているキリには構わず、リィは目尻に浮かんだ涙を軽く拭った。
周囲の兵士たちは、何が何やら状況把握が出来ておらず、困惑している。
イズミはそんな様子を横目で捉えながら、一歩、また一歩と、リィに近づいた。
リィは反射的に半歩下がっていた。
「……リィさん、お久しぶりですね」
イズミが乾いた唇を舐める。
リィはその言葉を受けて、目を伏せた。
「久しぶり、ね、【イズミくん】」
目を合わせずに、返答する。
少し間を開けて、再度言葉を紡ぐ。
「その様子だと、私のことが分かったようね」
「ああ。どこかであったことがある気がしてたんだ……。初めて会ったあの日から」
イズミのセリフだけ聞いていると、どこの少女漫画の告白シーンなんだよとツッコミを入れたくなるが、いかんせん、現状が現状である。
「リィさん、貴女は……」
イズミの瞳が僅かに揺らいだ気がした。
否、その心は現に揺らいでいた。
キリのことが気にかかる。
けれど……。
「……ウェルリア王国第一王子誘拐罪及び恐喝罪——今回の一連の騒動の首謀者は、アナタですね、リィさん」
否——。
すうっと息を吸って、何十年ぶりかに本人の目の前でその名前を口にする。
「【カノン】さん……」
- Re: 【最新話更新】ウェルリア王国物語-紅い遺志-【銀賞受賞】 ( No.188 )
- 日時: 2014/04/26 07:33
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: .X/NOHWd)
イズミの言葉に、リィは、怒ることも笑うことも別段取り乱すことも無く、ただただ静かに笑みを浮かべていた。
その瞳は、対照的に非常に冷めていたが。
「リィさんが首謀者……?」
代わって、声を上げたのは、他でもないキリであった。
「【カノン】……? リィさんはリィさんでしょ。嘘よっっ! 意味が分からないよ! 何言ってるのよイズミさんっ……ねえっ……、答えてよ……」
予想はしていたが、キリに食ってかかられたイズミは唇を噛んでそれに耐えるしか出来なかった。
どう答えれば良いのか、どう声をかけるべきか、返答に困っていた。
そんなイズミの反応に逆に何かを察したのか、キリは引っ掴んでいた手を遂には緩めていた。
その表情は、紙のように真っ白だった。
「キリ……」
リィの声が辺りにシンと木霊した。
反射的にキリが震える指先を口元にやる。
「キリ、本当のことなのよ」
リィ本人の口から、聞きたくない言葉が吐き出されていた。
『同意』、それはリィの国家に対する反逆を認める、いわば自白であった。
「違う……違う違う。リィさんはそんなことしない。リィさんは、誰にでも優しくて、強くて、かっこよくって、……それで……、それで…………!」
「キリ。そのへんにしておきなさい」
静かだが、誰をも一瞬にして黙らせる一切の感情を押し殺した声。
キリはびくりと肩を震わせて黙り込んだ。
リィは艶やかな黒髪をさらりと垂らすと、その場に俯いた。
次に顔を上げた時、その表情に腹の中を探る手立ては残されていなかった。
「そうね。話してあげるわよ、キリ」
無表情で、紡がれる言葉を。
「私の昔話をね」
キリは、ただただ黙って聞くしかなかった。
そうして緊迫している場へ、1人の兵士に連れられて、ヨハンたちが駆けつけた。
どうやら先程の混乱に乗じて、1人の兵士がヨハンたちにこの騒ぎを伝えたらしい。
ウェルリア兵士たちは全員、警戒するように剣を引きぬいてリィの様子を伺っている。
「役者は全員揃ったわ……」
ぽつりとつぶやかれたリィの言葉を聞いた者は、果たして1人もいなかった——。
→次回、【最終話:終幕】
小説投稿掲示板
イラスト投稿掲示板
総合掲示板
その他掲示板
過去ログ倉庫