複雑・ファジー小説
- Re: 【旅立ち】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.28 )
- 日時: 2013/07/11 23:18
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)
■CHAPTER14■ 虚偽の王子-Sister-
「我は王子であるぞ!」
キリの弁当箱を奪い取り、目の前の子供は確かにそう言った。
王子。王子。王子。キリの頭の中でその言葉が無数に反響する。
しかし、キリは構わずに、涙目で弁当箱を返せと訴えた。
"王子"と名乗った子どもは怯んだように黙り込み、すぐに言い返す。
「……っわ、我は王子であるぞ! 無視することないであろう!! 弁当を返して欲しければ、ちゃんと謝るのだっ!」
「分かった、分かりましたああ。ごめんなさい〜〜。もう無視しないから。だから、お弁当返して〜〜」
食料を取り返すためだったら、どんな恥ずかしいことでもやり遂げるキリである。
情けない声を出して、ひたすら弁当奪還を求める。
その様子に、推定年齢6歳ほどの子どもは満足そうにふんぞり返ると、
「しょうがないのう。謝られたら、返すしかないな。ほれ」
「ありがとう、王子様!」
キリは差し出された弁当箱を満面の笑みで受け取った。
そして、
「……ん? 王子、様?」
子供の顔をじっくりと見た。
そのまま、ゆっくりと呟くように、言う。
「ねえ、キミ、女の子だよね」
「違うぞ! 我は王子なのだ!!」
「えー……。どう見ても、目がクリクリした、可愛い女の子にしか見えないけど……」
「えっ、そ、そうか? 可愛いか? ……っではなく、ゴホン。我は、王子なのだ! 誰がなんと言おうとも!!」
「うっそおお……」
「王子と言ったら、王子なのだ!! 王子なのだあああ!!」
ジタバタと暴れ始めた少女に、それまで木陰で休んでいたアスカが無言で近づいていった。
かと思うと、いきなりその頬をギュッと抓る。
「ひててててっ!!」
涙目の少女に、キリがもう一度問う。
「ね、キミ、女の子だよね」
「だあから、我は王子で……!! …………ひてててっ」
涙目で暴れる少女、その頬を無言で引っ張っているアスカ、問い詰めるキリ。
イズミはその光景を傍から見つめながら、
「これは、立派な集団リンチですね……」
呟いたのだった。
そんなイズミの存在に気づいた少女。
手を伸ばして助けを求めた。
「イズミしゃああん! 助けてなのだああっ」
キリとアスカがその言葉に瞬時に反応した。
「……イズミさん。この子と、知り合いなの? なんでイズミさんの名前を知ってるの?」
とキリ。
「おいイズミ。なんでコイツがこんなところにいるんだ。説明してもらおうか……!!」
とアスカ。
イズミの頬に冷や汗が伝う。
と、少女が口を開いた。
「イズミしゃんは我の下僕であるぞ! な、イズミしゃん?」
「……ユメノ様、…………もう、大丈夫です。ハイ。お付き合い、ありがとうございます……」
「なに? もう王子の真似はしなくても良いのか? ふうっ。それは良かった」
自己完結型にそう言うと、ユメノはアスカを見据えた。
「やはり王子とは堅苦しいものだな。な、アスカ兄上」
「……兄上…………?」
少女・ユメノの言葉に、キリは思わず首をかしげる。
そこにアスカが慌てて割って入る。
「あっ、あっははははははは!!」
笑ってから、アスカはユメノを素早く振り返り、素早く頭を叩いた。
その顔は焦燥感たっぷりだ。
「こらユメノ! 何言ってんだ! 兄上言うなっ!!」
「え〜〜。良いではないかあ。どうせ城では一人だし。遊び相手といえば、お世話係のウィンクだけ。……奴はドジな上にバカだからユメノの遊び相手としては暇を持て余すのだー。だから、兄上といたほうが楽しいのだ!」
「んな問題じゃないっての!! ……って、お前…………」
ユメノの言葉に、アスカの顔からサッと血の気が引いた。
「今、"城"って……言ったか」
「言った。それがどうかしたのか? ユメノたちの住んでいる"ウェルリア城"のことだが……」
「わあああああっ!!」
アスカの叫び声に、キリは驚いた。
そしてユメノの言葉を反芻する。
「"ウェルリア城"……?」
「あ、い、いや、それはそのっ……!!」
どうすることも出来ず、ひとまず頭を掻いてごまかすアスカ。
イズミはその様子を内心ハラハラと見守っていた。
どうすることも出来ないので、黙って見ているしかない。
——しかし…………。
イズミは心の中で、一人ごちた。
——この女、やはりもうアスカ王子のこと、気がついているんじゃないか……?そうじゃないと、いくらなんでも鈍すぎる。
というか、バレているバレていない云々よりも、もはやこの妹さんが素でアスカ王子の正体をバラしにかかっている。
「ねえ、アスカ。顔色悪いけど……」
「な、なんでもない! 大丈夫だ。いや、本当に。……とにかくキリ、コイツ(ユメノ)には構うな」
「兄上〜。この者はなんなのだ? 兄上の彼女なのか?」
「いっ……?!」
そう言ってアスカの後ろからひょっこりと顔を出したのはユメノだった。
アスカの表情が固まった。
キリは"彼女"という言葉の意味が理解できておらず、首をひねっている。
「ちっ、違うっ……!!」
「じゃあなんで一緒にいるのだ?」
「こっちにも色々とワケがあるんだよっ!」
「やはりアレか、"駆け落ち"ってやつか」
「違うっ! というかお前、どこでそんな変な単語を覚えてきた。……さてはウィンクの仕業だな」
「いやあ、"昼ドラ"というのは面白いモノだな。この前ウィンクがビデオを持ってきてくれたので、一緒に鑑賞会をしたのだぞ」
「あんのメイドっ……!!」
6歳の少女に、ドロドロ不倫三角関係ネタ満載の昼ドラを見せる"お世話係"がどこにいる。
アスカは頭を抱えた。
それを横目に「そう言えば」とキリがユメノに尋ねる。
「ユメノちゃん、だっけ」
「そうなのだ。ユメノ=フィファルーチェ=ウィルアであるぞ! ここに来たのは、今朝イズミしゃんに電話で呼ばれてなのだが……」
その言葉にイズミがギクリと身を震わせた。
全く、要らぬ事まで喋ってくれる娘である。
怒りに震えていたアスカが、イズミに詰め寄り、
「おいイズミ。どうしてユメノを呼んだんだ」
「だ、だってですよっ、お城に入るには証明用のカードを出さないと入れないじゃないですかあ。ホラ、特に今、城は、反政府軍を警戒していますし。おかげで近年、入門チェックも厳しくなったと聞きます。僕だけ侵入するならまだしも、アスカ王子とキリさんの三人で"潜入"となると……。とすると、ウィルア家のお嬢様のお力を借りてですね……」
「そ、それだったらオレも王子だぞ! お前も元々兵士じゃないか!」
「しかし、アスカ王子と僕はお城から逃亡中の身なんですよ? もし城に入れたとしても、同行していたキリさんは牢屋行きとなる可能性だって……!」
「んなの、まだバレてないんだから大丈夫だろ?! それに、なんでよりによってユメノなんだよ。オレ、ユメノ苦手で…………!!」
キリをそっちのけで話がヒートアップしていた二人は、「ねえ、」とキリに声をかけられ、思わず我に返った。
「……ねえ、さっきから"王子""王子"って、……アスカって、王子なの?」
……どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
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