複雑・ファジー小説

Re: 【旅立ち編】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.31 )
日時: 2013/07/11 23:02
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

■CHAPTER15■ 追跡者の考察-At a Wellria castle-


アスカが窮地に立たされている中、それより少し前のウェルリア城内はというと——。

国王に報告を終えたヨハンが、Aクラスの兵士二人に事情を詳しく聞いていた。
ヨハンが兵士二人に名前を尋ねると、二人はビシッと敬礼し、

「はっ。ウェルリア兵Aクラス。証明ナンバー13103545、リーク=シュヴァリエでありますっ」
「同じくウェルリア兵Aクラス。証明ナンバー13103044、フィアル=クロロノームでありますっ」
「リーク君にフィアル君、【小箱】を取られた当時の様子、覚えているかな」
「はい。【小箱】を持って城へ向かっている道中で、いきなりナイフを持った集団に取り囲まれました」
「人数は5、6人です。奪われたあと、奴らは『【あの方】の言っていた【例の箱】だ』と言っておりました」
「【あの方】……」
「はい。恐らくは【襲撃犯のボス】のことだと思うのですが」
「なるほどな。因みに、【小箱】の中身はなんだったか、覚えているか?」
「あ、それなら……」

何事か言いかけたリークを、フィアルが遮って答える。

「【小箱】の中身は【ガラスの破片】でした。多分、こぶし大の大きさの【水晶玉】の破片だと思われるのですが」
「ふむ」
「全て奪われてしまったので、なんとも言えないのですが……」
「分かった。結構だ。君たち、元の任務に戻ってもらって構わん」

ヨハンが一方的に話を一区切りさせ、談話室に戻ろうと歩き始めた時だった。

「そう言えば!」

リークが声を上げた。
ヨハンがゆっくりと振り返る。

「ヨハン先生、城下町でイズミ君を見つけました!」
「なんだと?」

驚きと疑いの入り混じった表情で、ヨハンは声の主を見る。

「それは、本当か……?」
「もちろんです。イズミは今はウェルリア国のどこかの研究所で研究員として働いているようです」
「研究員……」
「そこで。ヨハン先生に一つ提案があるんですけど」

ニヤリと笑って、リークは続ける。

「イズミ君をウェルリア兵に連れ戻したら、私たちをAクラスから先生のクラスのSクラスに入れてくれませんかね」
「どうしてだ」
「ほら、私たちとイズミ君って、入隊したての頃からAクラスの時までずっと一緒だったじゃないですか」
「そうだったかな」
「そうだったんです! で、私の意見としてですね、イズミ君が兵から逃げ出した理由は、Sクラスに友人が一人もできなかったからだと思うんです」
「ほう」
「ほら、イズミ君って最年少で最高位のSクラスになったじゃないですか。だからきっとSクラスに話の合う人が出来なくて嫌になって逃げ出した。……だから、イズミ君がSクラスに戻った時に同期の私たちがいたら、きっと安心すると思うんですよ!」
「なるほどな。うん……イズミのことを考えると、…………そうかもしれんな」
「そこで! イズミ君を連れて帰ったあかつきには、是非とも私たちをSクラスにいれて欲しいんですっ」
「うむ……」

詰め寄ってそう言われたヨハンは、しばらく黙りこんで、頷いた。

「そうだな。分かった。……ただし、イズミを連れて帰ってきたら、だぞ」
「任せてください!」
「……ま、お前たちにイズミが捕まるかどうか、怪しいところだがな」

ヨハンの去り際の台詞は、兵士二人のプライドをずたずたに引き裂いたのだった。

Re: 【旅立ち編】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.32 )
日時: 2013/07/11 23:02
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: 607ksQop)

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「イズミのヤツ……!」

ヨハンの姿が見えなくなったのを確認してから、リークとフィアルの二人は、兵士の宿舎に向かっていた。
その道中、リークとフィアルは先程のことについて話をしていた。

「ヨハン先生もヨハン先生だっ。俺たちのことを見くびってさ」
「それだけイズミの実力が先生に買われてるってことだよ」
「でも、だ。フィアル。同世代の俺たちでも、太刀打ちできると思うんだけどな。イズミの野郎なんかさ」
「同期で入隊してから、リークはずっとイズミをライバル扱いしているもんな」
「笑いながら言うな! 俺は本気なんだからなっ!」
「別に、バカにはしていないよ」

笑いを含みながらそう答えたフィアルに、リークは眉をしかめた。
そうしてから、ふと思い出したようにフィアルに聞く。

「そう言えばさ、フィアル。さっきヨハン先生に【小箱】の中身を聞かれた時にさ、なんで見せなかったんだ? 【アレ】」
「ああ、……【これ】?」

フィアルがズボンのポケットから、【水晶玉の欠片】を取り出した。
窓から射す光で、キラキラと反射している。

「……リークは、イズミを連れ戻したいんだよね」
「そりゃあ、な! 念願のトップクラス、Sクラスに上がれるんだし!」

グッと拳を握って力強く答えるリーク。

「じゃあ、その【イズミについて】のせっかくの【手がかり】を先生なんかに渡したら……。ボクらの手元に返ってくるわけ、ないだろう?」
「なるほど…………」
「でもボクたちの力だけだと、この【欠片】がなんなのか正体を突き止めることは難しい……」
「それこそ、腕が立つ奴らを連れてこないと、だな。でもなあ……」
「呼んだ?」

フィアルとリークは、ほとんど同時に振り返っていた。
尖った声色。女性の声。
振り向いた先には、いかにも気の強そうな水色の髪の毛の女性が仁王立ちしていた。
額が見える形で前髪を上げているスタイルの女性、その胸元にはSクラスのバッジが光っていた。
二人は慌ててビシッと敬礼をしていた。
自分より上のクラスの兵士には、こうして敬礼をするのが礼儀である。

「アンタたちよね、イズミを見つけたって奴は」

上から目線で言い放つ女性に、リークはグッとこらえて、頷いた。
なんか、見下されている気分だ。……嫌な気分。

「へーえ。なるほどねえ。……聞いた? ノアル、ファズ」

女性がそう言うと、その後ろから二人の男性が現れた。
一人は分厚いレンズの眼鏡をかけて、片手でミニサイズのノートパソコンを抱えている。
もう一人は、体重100キロはあるだろうという、どデカイ体躯の人物が、特注で作らせたであろう緑の制服に身を包んで立っていた。
その三人の姿を目の前にして、リークとフィアルは思わず叫んでいた。

「お、お前らは……! Sクラスの中で"イズミの次"に頭脳明晰、運動神経抜群と噂の、その名も、【Sトリオ】!!」
「ムカつく説明ありがとさん。そうよ。あの【イズミ"くん"】の"次"に有名な【Sトリオ】よ」

知らないあなたのために説明しよう。
"Sトリオ"とは、Sクラスに在籍するウェルリア兵の上位成績優秀者(※イズミを除く)三名の異名である。

「一応自己紹介しておくわ。私はアロマ。で、こっちのデカイのが……」

水色髪の隣にいる図体の大きい男性がのっそりと二人に歩み寄る。

押忍おす小生しょうせいはファズって言うんっす。力勝負なら誰にも負けない自信、あるんすよ」

ファズが喋るたびに空気がビリビリと震える。
低音ボイスの自己紹介に、リークとフィアルは引きつった笑みを浮かべた。

「で、僕はノアルだ。この通り、僕は勉強が大好きでね。成績優秀な僕が唯一敗北感を感じる相手がイズミなのだが……今回、Sクラスのヨハン先生のお達しで、僕たちは君たちの『イズミ探し』をサポートすることになった」

たかがウェルリア兵士一人に対して、上層部は凄い力の入れ様である。

「なんでも、イズミは先生曰く100年に一度の逸材だそうだからな」
「ムカつくわね」

先程からアロマは毒しか吐いていない。
リークはSクラスのオーラに圧倒されながらも、何故かずっと不敵な笑みを浮かべているノアルを見た。

「ところで、ノアルさんが先程から不気味な笑みを浮かべてるのが気になるんですが……なんか、おかしなことでもありましたか?」
「不気味とは失礼なっ。フッフッフ。僕はね、君たちが知らない情報を持っているのだよ」
「な、なんですか、それは」
「教えて欲しいか?」

ニヤリと。口端を釣り上げて、ノアルが言う。
ゴクリと喉を鳴らして、リークが答える。

「教えて、欲しい……」
「じゃあ、こうしよう」

人差し指を立てて、ノアルが提案した。

「ギブアンドテイクだ」

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