複雑・ファジー小説
- Re: 【旅立ち編】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.34 )
- 日時: 2013/08/25 01:27
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: t1R/VCth)
■CHAPTER17■ 見破られた正体-Disclosed true character-
「アスカって、王子、だったの?」
キリが呆然とアスカを見る。
アスカはイズミに掴みかかった態勢のまま、硬直状態になっていた。
その顔には"ヤバイ"の三文字。
「アスカって、王子様、なんだよ、ね」
「いや、その…………」
正体がバレてしまった……。
アスカの表情はその悲観な状況をありありと物語っていた。
イズミからすれば、何故キリが今まで気がつかなかったのかと不思議であったが。
というかアスカ王子もアスカ王子で、よくあれでバレないと思っていたもんだと一人思考する。
そう考えながら苦笑したイズミは、呆然としているキリに言った。
「そうです。このお方は、ウェルリア王国の正統な後継者、ウェルリア王国第一王子のアスカ様です」
説明されてむすっとした顔でアスカがキリを見遣る。
キリの硬直した口が開いた。
「そ、そっかそっか……」
その表情は困惑している。
「ああ、そうなんだね。ど、どうしよう…………いやあ。そんな急に、困ったなああ……」
たははと笑いながら頭を掻くキリ。
しばらく黙り込んで、それからキリは突然ババッとかしこまって頭を下げた。
「おっ、王子、様。かっ、数々のご無礼を致してしまい、か、かたじけありませんでした。ハイ。あの、あの、も、申し訳ありませんでございます。ハイ」
はちゃめちゃな文法である。
アスカはハアと大きなため息をつくと、キリを見据えた。
その顔は、今まで見せてきたどの顔よりも真剣なものであった。
「やめろよ……」
「へ?」
アスカの言葉に、ゆっくりと顔を上げるキリ。
「だから、やめろっていってんだよ。その言葉遣い。……その…………オレは別に、お前にとって【王子】でもなんでもないんだ。ただの一介の【被疑者】だ。お前はオレに大切なものを壊された【被害者】。だから、……そんな言葉遣いで、オレに接するなよ」
「…………」
「だから、オレが言いたいのは、……今まで通り、接してもらったら、それで良い、から…………」
一つ一つ丁寧に言葉を紡ぎ出していくアスカ。キリはその言葉を受けると、
「うん。分かった!」
ケロッとした口調で答えた。
「なんだ。だったら良かったや! はーっ、慣れない言葉遣いだと、肩こるねええ」
「…………」
キリの変わり身の早さに、アスカとイズミはただ呆然とするしかなかった。
「あ、ところで、ユメノ様」
イズミが蚊帳の外のユメノに声をかけた。
今まで近くの地面に絵を描いて暇を潰していたユメノが、顔を上げる。
「なんなのだ? イズミしゃん」
「そういえばユメノ様、よくお城を抜け出すことが出来ましたよね」
「そうなのだ! さすがだろう?」
えっへんと胸を張って答えるユメノ。
イズミは笑顔でそうですねと返答しながらも、胸のうちにもやもやを抱えていた。
——おかしい。
アスカ王子が脱走中の今、城の警備はもっと厳重になっているはずである。
それなのに、たった6歳の少女がこうも簡単に逃げ出すことが出来るものか……。
きっと何かあるに違いない。
——考えすぎ、か。
ふうと息を吐いて姿勢を正したイズミは、ゆっくりと腰をあげた。
「じゃ、お城に向かいますか」
嫌な予感というものは、当たるものである。
——なにか起こりそうな気がする。
そのことが明確になるのは、もっと先のことになるが。
キリたちは、城への旅路に再度ついたのであった。
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