複雑・ファジー小説

Re: 【潜入編!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.43 )
日時: 2013/07/13 22:27
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: UPSLFaOv)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33552

■CHAPTER20■ 囚われの少年少女-Inside of a castle-


キリたちは目的地のウェルリア城を前に、立ち往生していた。
目の前に現れたのは5人のウェルリア兵だった。
思わず身構えるキリとアスカ。
ユメノはそんなアスカに素早くしがみつく。

緊迫な状況下で、イズミは見知った顔を前ににこやかに口を開いていた。

「これはこれは皆さんお揃いで。Sトリオの皆さんに、リークくんにフィアルくん。でしたっけ」

一人だけ緊迫感の欠片もないイズミに、ウェルリア兵のリークが思わず怒鳴る。

「無駄口叩くなイズミ! 今の状況を把握しろよ! 兵士に囲まれてるんだぞ? ヤバイと思わないのかっ?!」
「おや、リークくん。相変わらず頑張ってますねえ」
「なっ…………! ……と、とにかくだなっ、……お前たち、大人しく手を上げろ!」

その言葉に、キリたちは素直にホールドアップした。
抵抗したところでウェルリア兵たちから逃れられるとは思えなかったからだった。

勝ち誇った表情を浮かべて、兵士たちがキリたちを威圧するように取り囲む。
と同時に、その輪の中から水色の髪の毛をした女性が中心に向けて一歩踏み出した。
その顔には嘲笑が浮かんでいる。

両手を上げているイズミに、

「久しぶりね、イズミ」

そう言いながら歩み寄る。

「確か2年前だったっけ。アンタが『城が嫌になったから』ってなフザけた理由で逃げ出したのは」

その表情はまるで嫌なものでも見るような目つきだった。
アロマに詰め寄られているイズミは、反してにこやかな笑みを浮かべている。

「お久しぶりです、アロマ嬢。2年……もうそんなになりますかね。いやあ、早いですね、時がたつのは。いやホント」
「イズミ、アンタね。なにのほほんとしてるのよ。状況を見なさいよ、状況をっ!……それより、何なのよアンタ。逃げ出したのに今更戻ってきたりして」
「僕も好きで戻ってきたんじゃないんですけどね」

困ったように眉尻を下げるイズミを、アロマは鼻で笑う。

「別にアンタの理由なんか聞いてないわ。私はね、アンタが嫌いなの。 だから今、こうしてアンタの顔見るだけでも正直ムシズが走るのよ!」
「アハハハハ。相変わらずアロマ嬢は素直ですねえ。昔とお変わり無いようで安心しました。それと、その、"人を見下すようなところ"もお変わりがなく」

そう言われ、アロマは口端を引きらせていた。
わなわなと身体を震わせ、

「そういうイズミ"くん"も相変わらず"腹黒そうな表情"してるじゃないの」
「そうですか? "普通"に笑顔を浮かべているだけですけど」
「その言い方がそもそもあざといのよ!」
「あざといですか?」
「何も知らなさそうな顔してっ! ……アタシはね、そんなアンタが嫌いなのよ。……ううん、違うわ。大のつくほど嫌いよっ!! Sトリオとしてもアンタの存在は"邪魔"なの!」
「まあまあまあ、そんなこと言わないで下さいよ、アロマ嬢。僕の繊細なハートが傷つきます」
「ウソつくんじゃないわよ! 図太い神経してるくせして!」

イズミは苦笑しながらアロマをなだめる。
アロマはその行為が気に障ったのか、眉を顰めた。なおもイズミに対する言葉の攻撃は止まらない。

「何よ。女だからって、舐めんじゃないわよ」
「誰も舐めてませんが」
「でもアンタもどうせ…………!」
「僕はそんなこと思いませんよ」

イズミはそう言うと、突然、じっとアロマを見据えた。その目は真っ直ぐアロマを捉えていた。
イズミに見つめられ、思わず頬を赤く染めるアロマ。

突然の甘いムードに、キリ、アスカ、そしてユメノは思わずごくりとつばを飲み込んでいた。

イズミが口を開く。
その表情はとても柔らかかった。

「アロマさんは一人の兵士として"立派"に活躍されています。とても"素敵な女性"です。僕の"尊敬"にあたいします。それなのに貴女のことを女だからといって差別する人達は、どうかと思います」

イズミの端整な顔立ちに見惚れ、慌てて背けるアロマ。
それに追い討ちをかけるようにイズミが言う。

「恥ずかしがらないでください、アロマ嬢。本当のことを言ったまでですから」

そしてとどめのにっこりスマイル。

「なっ……! あ、あ、アンタねえ……! こ、子どものクセしてっ……!」
「怒るとせっかくのお顔が台無しになってしまいますよ。笑った方が素敵です」
「イズミっ……、アンタね………っっ!!」

アロマの顔が段々うつむきがちになる。
わなわなと震える身体は、怒りから来るものなのか、はたまた恥ずかしさから来るものなのか。アロマは赤面していた。


その隙に、イズミはキリたちに逃げるようにアイコンタクトを送っていた。

——僕1人だけならここから簡単に逃げ出せる。とりあえずキリさんたち、逃げてください。

そう。ここまでの流れは、イズミの戦略だった。

Sトリオの面々はイズミとアロマのやり取りに関して「いつも通りだ」と諦めた表情を見せている。リークとフィアルも呆気にとられている。
つまり、キリたちに対しては現在、無警戒の状態ということ。

——逃げるなら、このタイミングしかない!


だがしかし残念なことに。
キリ、アスカ、ユメノも、イズミとアロマのやりとりに唖然としていた。
せっかくイズミが身を削って作った隙であったが、イズミの逃亡計画は人知れず失敗に終わったのであった。

——こいつらっ……。せっかくのチャンスを……。僕がここまでしてやったのに……。


鬱屈した思いを胸のうちに抑え、イズミは小さくため息をつくしかなかった。


「と、とにかくっ! アンタたちに逃げ場は無いの。大人しく捕まりなさい!」

刹那、我に返ったアロマの声が響いた。
照れ隠しなのか、思いっきりふんぞり返りながらそう言うと、アロマは周囲の仲間に合図を送った。

嫌だと言っても、この状況下においては、どうすることも出来ない。
結局キリたちはどうすることも出来ず、大人しく捕まったのだった。

Re: 【潜入編!】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.44 )
日時: 2013/07/17 05:19
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: j4S7OPQG)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33552

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一行は渡し船で湖の中心に建っているウェルリア城に向かった。
ロープで後ろ手に縛られたキリとイズミは、船上で黙々と周囲の様子を伺っていた。
アスカとユメノは王家の人間なのでロープで縛られることはなかったが、その代わりにSトリオの男性2人組に両脇を固められ、憮然とした表情を浮かべていた。

城内立ち入りの許可を受け、一行は船を降りた。
ウェルリア兵たちに連れられ案内された先で、キリたちは強制的に引きはがされることになる。
ウィルア兄妹はウェルリア兵Aクラスのリークとフィアルに連れられて、それぞれの自室へ。
残されたキリとイズミはSトリオのメンバーに囲まれながら、長い廊下をひたすらに歩いていた。


「ヨハン先生のところに連れていくつもりですか」

イズミが隣りを歩いていたアロマに聞く。アロマは目線を合わすことなく、

「どうかしら」

とだけ答えた。

一行の足が、とある部屋の前で止まった。
ファズが重厚なドアを開けると、そこには地下へ通じる階段が真っ暗な穴を開けて待ち構えていた。

「わ、私たちをどうするつもりよっ……!」

思わず叫ぶキリ。
怖い。
この地下には得体のしれない何かがある……。

キリの心拍数は極端に跳ね上がった。

「そんなに怯えなくても大丈夫さ。何も、とって食おうとは思っていない」

ノアルはそう言ってキリに向けて笑みを浮かべた。

「じゃあ、何ですか。僕たちを人体実験にでも使うつもりですか」
「まさか。まあ、キミたちに興味があるといえば嘘になるけど」

その言葉にキリがひっと息を呑む。
ノアルはうっすら笑みを浮かべると、キリとイズミの顔をゆっくりと一瞥した。
そして、ノアルは口を開く。

「イズミ。君たちに手伝って欲しいことがあるんだ」

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