複雑・ファジー小説

Re: 【最新話*更新】ウェルリア王国物語〜眠れる華と紅い宝石〜 ( No.48 )
日時: 2013/07/20 22:19
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: j4S7OPQG)

■CHAPTER22■ 決死の逃走劇-Pursuer-


イズミがウェルリア兵のSトリオに提案したのは、紅い水晶の欠片を渡す代わりに自分たちを解放しろという、等価交換条件だった。つまりはギブアンドテイク精神である。

イズミは長い間ウェルリア兵たちに追われてきた身だ。そう簡単にやすやすと解放されるはずがない。
キリは緊迫した空気の中、ただ成り行きを見守るしかなかった。

と、ノアルがその言葉に頷いた。

「分かった。その交換条件を飲むとしよう」

予想外の反応に、キリは思わず呆気にとられた。
ノアルの答えを受けたイズミは表情を微動だにしない。

「ノアル!」

ファズがノアルに対して非難の声を上げた。その声は部屋中にビリビリと響いた。困惑した様子だ。

しかし、もう一人のSトリオの仲間、アロマは、

「アタシはノアルに賛成」

腕を組んで、近くにあった椅子にどっかりと腰を下ろした。

「正直なところ、アタシらSトリオからしたら、トップのアンタが戻ってくるのってとても迷惑なの。分かる? まあヨハン先生の頼みごとだから、遂行するしかないんだけどね」
「ヨハン先生が……」
「イズミ、アンタいい加減ヨハン先生のとこに戻ったら? 育て親なんでしょ? まあ親に反抗したい気持ちもわかるけどさあ。ヨハン先生、アンタのこと、凄く心配してんだからね。って、アタシが言えた義理じゃないけど」

そっぽを向いてアロマはそう言った。
イズミは俯いている。キリは隣にいるイズミの顔を見上げたが、その表情は確認出来なかった。
イズミの前髪が自身の溜息で揺れた。

「……僕には、僕自身が知らないといけないことがあるんです」

と、呟いた刹那、イズミは紅い欠片をノアルに向かって放り投げていた。
ノアルが俊敏に反応して、慌てて欠片を受け取る。

「じゃあ、僕たちはこれで」

イズミは顔を上げて笑顔でそう告げると、隣で呆然と突っ立っていたキリを小脇にかかえ、Sトリオを背にして階段を登ったのだった。

++++++++++

「追わないで、良いんスか?」

取り残されたSトリオ。
ファズの言葉に、ノアルが頷く。
ノアルは頷きながらも顕微鏡のレンズ越しに先ほど投げられた欠片を食い入るように見つめている。

「それよりもこの水晶玉の欠片だよ。確かにイズミの持っていた紅い欠片、これはAクラスの奴らが持ってきた欠片と物質は同じものだ……!」
「あっそう」

興味無さそうにアロマが相槌を打つ。

「しかし何故同じ水晶玉の欠片なのに紅いんだ……あれ」

次の瞬間、ノアルは覗いていた顕微鏡から目を離していた。
目の前で、顕微鏡の台に固定されていた水晶玉の欠片が確かに変化していた。
紅く輝いていた欠片の光が、徐々に失われていく。
しばらくして、イズミから渡された欠片は元の透明な欠片に戻ってしまった。

「どういうことだ……?」

思案しようとしたノアルの元へ、突然、つんざくような声が割って入る。

「おいお前ら! この有様はなんだよ!」

Sトリオの面々が声をした方を向くと、そこには、地下への階段を駆け下りてきたからか、肩で息をしているリークとフィアルの姿があった。二人とも髪の毛は乱れ放題だ。

「なにって、見てのとおりよ。ノアルが実験してんのよ」
「違ぇよ! イズミはどこに行ったんだ!」
「え? どっかに逃げちゃったけど」

アロマの言葉に、リークは驚愕した表情を浮かべた。
フィアルと顔を見合わせる。

なんてことだ。これでは、Sクラスに昇格するチャンスが不意になってしまう。

リークは思わず実験に没頭してこちらに興味を示さないノアルに掴みかかっていた。

「おい! こ、ここに、連絡用の機器はないのか?!」
「ち、ちょっと掴みかからないでくれたまえよ。苦しいっ……。れ、連絡用の回線機器なら、そこに…………」

言われるやいなや、リークはノアルを掴んでいた手をバッと離し、その手で受話器を乱暴に掴みとった。


「緊急コード1109! 1109だ! 早く全館に繋いでくれ! そうだ」

リークの形相は必死のものであった。

「全ウェルリア兵に告ぐ! 侵入者だ! 元ウェルリア兵Sクラス、イズミ=ファウシュティヒが城内に侵入した! Sクラスのイズミが城内に侵入した! 見つけしだい取り押さえよ!」

その声は、城内に響きわたったのだった。

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